
パリ:米国のある研究施設に関する陰謀論が復活している。トルコ・シリア地震の原因がその施設にあるという誤った主張がソーシャルメディアに出回っているのだ。以前には、この施設が気象災害を引き起こしコロナウイルスを拡散させているという主張がなされたが、誤りであると証明されている。
高周波活性オーロラ調査プログラム(HAARP)は、180本の高周波アンテナを誇る施設をアラスカに有している。科学者は長年、同プログラムは大気を兵器化し人々を支配するために米政府が支援している計画であるという主張に反論している。
2月6日にトルコとシリアを襲い数万人の死者を出した一連の地震をきっかけに、この陰謀論の新バージョンが様々な言語でソーシャルメディアに出回っている。
専門家は、こういった説はSFだと切り捨てている。
一部のソーシャルメディアユーザーは、地震発生前に閃光が見られたことに触れ、地震がHAARPによって人工的に引き起こされた証拠だと主張した。
NATOへの新加盟国の受け入れに抵抗しているトルコを罰するために地震が引き起こされたという主張もあった。
ハーバード大学工学・応用科学スクールのデヴィッド・キース教授(応用物理学)は、「馬鹿げている。バッグス・バニーがにんじんを求めて土を掘ったせいで地震が起きたと言っているようなものだ」と言う。
「HAARPのようなものが遠隔的に地震に影響を与えることができるメカニズムは一切知られていない」
HAARPは、高周波を発信して電離層(地球大気の上層部)の電子を加熱することで、電離層が通信システムに与える影響を研究している。
この高周波はトルコに到達するほど強いものではない。
地震は地殻変動によって引き起こされるものだ。
AFPが話を聞いた専門家によると、地震の際に光が見られるのは通常の現象だという。
この光の発生源については諸説ある。地震によって揺さぶられた送電線や発電所から発生する場合もある。
HAARPは、2015年にアラスカ大学フェアバンクス校に引き渡される以前は米国の空軍と海軍によって運営されていた。
レディング大学のマイケル・ロックウッド教授(宇宙環境物理学)は、HAARPが兵器として使用されているという主張は、このプログラムが当初、潜水艦との通信のために高周波を使用していたという事実から出てきている可能性があると指摘する。冷戦終結後、この用途で使用されることはなくなった。
このような歴史に「尾ひれがつき、HAARPが何らかの形の兵器であるという滑稽な説が出来上がったのだろう」とロックウッド教授は言う。
「何らかの形の社会的マインドコントロールだといった説はよくあるが、地震を発生させたという説は初耳だ」
ソーシャルメディアには、HAARPが嵐や熱波を操作するために使用されているという主張が多数投稿されている。
最近の投稿の中には、当局が人々の活動を制限したり人口を減らしたりできるようにするために気候変動を作りだすことがHAARPの目的だと主張するものもあった。
防衛目的で電離層の一部を加熱する装置の案に関する特許が存在することに触れた投稿もあった。
冷戦最盛期の1985年に申請されたこの特許は、この技術が「ミサイルや航空機の破壊」や「気象制御」に使用できる可能性があると主張している。
しかし、この特許は期限切れとなっており、記載されている技術が開発されたことを示す証拠はない。
HAARPの送信機は地表から80~500キロメートル(50~310マイル)上空に高周波を発信している。気象や気候に影響を与えるには高すぎる。
英国南極観測所の気象学者であるエラ・ギルバート氏はAFPに対し、「何らかの技術がこういった異常気象を引き起こすことができるという考えは馬鹿げている」と話す。
「気象のような大規模で複雑なカオス系に影響を与えることは技術的に極めて難しい」
HAARPからの電波は地球に当たって通信や電力の障害を発生させたり人間の健康を害したりすることがあり得るという主張も投稿されている。
コーネル大学のデヴィッド・ヒセル教授(地球大気科学)によると、HAARPは他の発電所や高周波施設と同様に危険ではない。
研究者は、HAARPをめぐるこれらの説と、コロナ禍の際に出てきた5G通信に関する一連の陰謀論の間の類似性を指摘している。
HAARPから来た宇宙船が「コロナウイルスを含んだ5G波を発信している」と主張するフェイスブックの投稿は数百万人が閲覧した。
この投稿は、飛行機雲を残しながら飛行する物体の写真を載せていた。AFPファクトチェックが分析したところ、合成写真であることが分かった。
ヒセル教授は、「HAARPをめぐる陰謀論がどこから出てきたのか分からない」と言う。
「宇宙で自然に発生する危険を研究するというHAARPの研究目的と、施設そのものの運用が混同されているのだと思う」
AFP