ベイルート:レバノンのナジーブ・ミカティ暫定首相は26日、「この国はもはや難民の負担に耐えられないにもかかわらず」、多額の金と引き換えにベッカーやアッカール経由で国境を越えてシリア人をレバノンに不法入国させている集団がいると述べた。
ミカティ首相は、不法入国したシリア人を強制送還したレバノンに向けられた批判に驚きを示した。
2週間前、約50人のシリア人がレバノンからシリアに強制送還されたことが発表され、国際的な抗議を呼び起こしていたのだ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のリサ・アブー・ハリド報道官はアラブニュースに対し次のように語った。「UNHCRは、山岳レバノンとレバノン北部においてシリア人(難民キャンプ)に対する襲撃件数が増加していることを認識している。UNHCRは4月現在で少なくとも13件の襲撃を確認しており、UNHCRによって認識・登録済みの人々を含むシリア人が今後の強制送還のために拘束されているという報告も受け取っている」
レバノンの各地方の自治体の多くは、難民を登録し、居住する町の中での彼らの移動を制限するために、聞き取りや調査を開始している。
シリア難民に対し26日にベイルート南郊のジュナーにあるUNHCRのビルの前でデモを行うよう呼びかける投稿が25日にソーシャルメディア上に出回った。一方、それに対抗してデモの阻止を呼びかける投稿もレバノン人の中から出てきた。
25日夜、レバノン南部のアル・クラヤーで警察官が夜間外出禁止令に違反した1人のシリア難民に暴行された。警察官は病院に搬送され、警察は難民を逮捕し事件を捜査している。
シリア反体制派のカマル・ラブワニ氏はソーシャルメディアに投稿された動画の中で、レバノン軍を脅し、難民に対し武器を持って自衛するよう呼びかけた。
26日、デモに備え衝突を防止するために、UNHCR本部周辺にレバノン軍とその情報部、国内治安部隊、暴動鎮圧部隊が出動した。
バサム・マウラヴィ内相は25日夜、国内治安部隊に書簡を送り、「シリア難民によるデモを阻止し、レバノン人によるデモに対抗する」よう要請した。
ミカティ首相は26日、治安機関の幹部らが出席した閣議の議長を務め、シリア難民問題について話し合った。この閣議では、「公的な法的文書を持たずにレバノンに不法入国する違反者に対し2019年の高等防衛評議会が取った措置」を実施するレバノンの権利が確認された。
出席者らはUNHCRに対し、「この閣議から1週間の期限内にあらゆる形のシリア難民に関するデータを内務省に提供する」よう要求し、「レバノン領内を出る者の難民認定を取り消す」よう求めた。
また、「UNHCRと連携して、レバノン領内で生まれたシリア人を登録する」必要性を強調した。
諸外国に対しては、「レバノンが難民の増加と経済危機の悪化に直面していることに鑑み、シリア難民による負担を分担する」よう改めて呼びかけた。
また、「労働省に対し、許可された部門におけるシリア人労働者に対する監視を総合保安総局と連携して強化する」よう要求した。
法相に対しては、被拘留者や受刑者のシリア国家への即時引き渡しの可能性を調査するよう求めた。
レバノン政府の推定によると、同国にいるシリア難民の数は150万人を超えている。シリア難民はレバノン領内のキャンプやコミュニティーに分布しているが、その大半がベッカー地方と北部地方に集中している。
UNHCRのアブー・ハリド報道官は次のように述べた。「UNHCRによって登録されているレバノンのシリア難民の数は今年3月時点で80万5326人に達したが、UNHCRは登録されていない難民の数がもっと多いことを知っており、難民の総数は150万人に達すると見ている」
レバノンとシリアの間でのシリア難民の違法な移動に関しては、アブー・ハリド報道官は次のように述べた。「UNHCRと難民の間の対話ややり取りから、シリアとの間の往復は稀だということが分かっている。密輸業者が関与することも多いそのような国境を越えた違法な移動のコストやリスクは高いため、シリア人の大多数はそのようなことはしていない」
また、次のように主張した。「UNHCRは、シリア難民がシリアに帰還したケースを特定した際には、情報を再確認したうえで難民認定を取り消している。しかし時には、難民がシリアに帰らなければならない差し迫った理由がある場合もあるかもしれない。彼らは特定の理由で限られた期間だけ帰っているのだ」
UNHCRのデータを提供するようにとの閣僚委員会からの要求に関しては、アブー・ハリド報道官は次のように述べた。「UNHCRはレバノン政府に対し、この問題に関してさらなる協力をしてもらうために、難民の移動に関して持っているデータを我々に提供するよう促したい。そうすればそれを我々のデータと比較検討することができる。UNHCRは、データ共有と移動監視を促すような体系的な方法で関係当局と協力する意欲を改めて強調する」
UNHCRは、たとえ登録されていない難民であっても、強制送還される人々が危険に晒されることを危惧している。
閣僚委員会との会合の後、ムスタファ・バイラム労働相は次のように述べた。「イード・アル・フィトルの期間中、約3万7000人のシリア人がシリアに入国し、そこで休暇を過ごした後でレバノンに帰った。彼らはそれにより難民認定を取り消される」
バサム・マウラヴィ内相は次のように強調した。「レバノンにいるシリア人はレバノンの法と秩序の下にある。彼らは管轄当局によって登録されている必要がある。彼らの状況は規制されなければならない。このような混乱はレバノン、彼らの利益、そして我々の責任である治安状況に弊害をもたらすからだ」
アムネスティ・インターナショナルの中東・北アフリカ担当副部長であるアヤ・マジュズーブ氏はレバノン当局に対し、「内戦で荒廃したシリアに戻ればシリア政府から拷問や迫害を受ける危険があるため、シリア難民の違法な強制送還を止める」よう求めた。