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スーダンの紛争が、いかに博物館や文化遺産を危険に晒しているか

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06 Jun 2023 01:06:39 GMT9
06 Jun 2023 01:06:39 GMT9
  • 紛争が始まった4月15日以来、数々の貴重な遺産が火災や略奪の被害を受けている
  • スーダンの6000年にわたる歴史が生み出した遺産がシリアの遺産と同じ運命をたどるのではと専門家は危惧している

ロバート・ボシアガ

南スーダン、ジュバ: スーダンの激しい紛争は1か月以上続き、博物館が略奪や破壊行為に対する十分な対策がとれていない中、スーダンの豊かな文化遺産は修復不能な被害を受ける恐れがある。

紛争によって、多くの人々が苦しみ、インフラや私財が破壊され、人道的緊急事態となっている。しかし、スーダン軍(SAF)と準軍事組織の即応支援部隊(RSF)の双方は、対話による解決を望む国際的な呼びかけを無視し続けている。

最新の問題として、RSFの部隊は2日、首都ハルツームのスーダン国立博物館を占拠した。占拠したRSFの部隊は、古代ミイラを含む博物館所蔵の遺産はいずれも被害を受けておらず、それらを守るための措置をとったと発表しているが、裏付けは何もない。

博物館は、石器時代やキリスト教、イスラム教の時代から伝わる像、陶器、古代壁画、出土品など、様々な文化財を所蔵している。

スーダン国立歴史博物館で展示されているゾウの頭蓋骨(提供)

紛争はハルツームで始まったが、瞬く間に他の州や都市に広がり、大量の犠牲者を出している。複数回にわたって停戦が発表されたものの、どれもすぐに破られている。100万人に近い人が避難を余儀なくされた。

外交官らが対立中の双方を交渉テーブルに呼び戻すために奔走し、支援機関が困っている人々を助ける支援を展開している一方で、スーダンの遺産や古代の文化財は略奪や破壊から守られずにいる。

「スーダン国立博物館は戦場と化しています」とスーダンの風刺漫画家で人権活動家であるハリド・アルバイ氏はアラブニュースに語った。

スーダンで二人の軍人が対立する中、南部ハルツームに立ち上る煙。2023年5月29日(AFP)

博物館はスーダン軍ハルツーム本部に近接しているため、事故による損傷を受ける恐れが大きく、職員による所蔵品の保全も難しい。

「そのせいで、建物近くにいる人は誰でも直ちに攻撃を受ける可能性があり、博物館の危険は更に増しています」とアルバイ氏は述べた。

1971年に設立されたこの博物館はスーダン最大で、何千年にもわたるヌビアの文化財を網羅的に所蔵している。そこではスーダンの旧石器時代から新石器時代、ケルマ、中世マクリア時代にわたる興味深い歴史を包括的に学ぶことができる。

スーダン国立博物館の他に、スーダン近現代史を記録する大統領府博物館、同国の民族多様性を記念して1956年に設立された民族博物館、およびスーダン自然歴史博物館なども危険に晒されている。

自然歴史博物館のサラ・A・K・サイード館長は最近、スーダンの「博物館は今、略奪と破壊行為から守る警備員がいない」とツイッター上で発言し世界の注目を集めた。

同氏は特に、博物館で飼育されている研究用の爬虫類、鳥類、哺乳類、ヘビやサソリなどの生き物の健康状態について、餌も与えられずに放置されていると懸念を示した。

ハルツームから北西のオムドゥルマンにある、スーダンの植民地時代を詳しく記録する重要な文書などを所蔵する建物が火災と略奪による被害を受けた数日後、スーダン軍はスーダン国立博物館に突入した。

エジプトのほぼ2倍、200ものピラミッド、および伝説のクシュ王国を有するスーダンは、人類の文化・文明の宝庫として世界で最も貴重な国の一つだ。

紛争で対立する両陣営に歴史的な遺産・文化財を保全するよう求める国際社会の圧力がなければ、2010年代のシリアで起きた破壊活動と同様、野放図な紛争がスーダンの6000年にわたる歴史を消し去ってしまうのではないかと専門家は危惧している。

パルミラ遺跡やアレッポの歴史的中心街など、シリア全土にわたる古代遺産が、同国の内戦と、それと時期を同じくするダーイシュの反乱によって破壊された。過激派によって略奪された様々な物品が闇市へと流れた。

2016年3月31日に撮影されたファイル写真には、シリアの古代都市パルミラの2015年9月に破壊された歴史的寺院の遺跡前で、2014年3月14日に撮影したベル神殿の写真を持つカメラマンが映っている。(AFP)

盗難に遭った美術品の回収に精力的に取り組んでいることで有名な弁護士のクリストファー・A・マリネッロ氏は、アラブニュースの取材に対し「略奪者は物品を入手したら、足がつかないようにすばやく、しばしば本当の価値の何分の一かで売りさばきます」と語った。

「そうした物品はリビアやトルコなどの国に流れ、それから西欧諸国に入っていきます」と同氏は述べ、このような不正取引は国際テロ組織の資金源となり、安全保障問題を悪化させる可能性があると加えた。

国際機関は戦争中の遺産の破壊を防ぐ取り組みをいくつか行っている。

「紛争に先だって、文化遺産の記録文書・カタログを作成し、正確な記録をつけていけるようにするのが肝心です」と、紛争地域の文化遺産を守るネットワーク「アリフ財団」の戦略部門部長であるバスティエン・ヴァロツィコス氏はアラブニュースの取材に答えた。

アリフ財団は2020年からスーダン各地で精力的に活動し、ユネスコ世界遺産であるメロエをナイル川の氾濫や人間の活動から守るなどしてきた。

一方で、アリフ財団の出資する西スーダン・コミュニティ・ミュージアム・プロジェクトは、地域に固有の遺産を記念するコミュニティの活動や博物館の設立を重点に置いている。

アリフ財団はまた、遺産保護に役立つデジタル保存方法の活用法など、遺産保護に関する専門的な訓練を行うキャパシティ・ビルディング・プログラムをスーダン全土で実施している。

文化財保存修復研究国際センターの野外プロジェクトを管理するアンワル・サビク氏は、「物理的な損傷を防ぐだけでなく、スーダンの知識と専門技術を維持するためにも、貴重な遺産・文化財に近いところに、文化遺産に携わる経験豊富なプロフェッショナルを置いておく」必要性を強調している。

2018年以降、文化財保存修復研究国際センターはコミュニティという切り口から活動を行うことで、従来の博物館の役割を超えてきた。

「我々の目的は、博物館を、人々が集まり、無形文化遺産をたのしみ、コミュニティ意識を育む活気ある拠点に変えることです」とサビク氏はアラブニュースに語った。

今、スーダンの紛争はおさまる気配がなく、こうした事業の全てが台無しになる危険性がある。

スーダンの首都ハルツームの双子都市であるオンドゥルマンにあるカリファ・ハウス民族誌博物館を訪問する男性。2022年1月18日(AFP)

正しい保護・保存活動がないと、スーダンの紛争によって有形文化財だけでなく、スーダン社会の無形文化までが破壊される恐れがある。世代をわたって受け継がれてきた伝統行事、風習および口述歴史が永遠に葬り去られてしまうかもしれない。

「これらの貴重なものが消えてしまえば、スーダンと世界が取り返しのつかない喪失を被ることになるでしょう」とサビク氏は述べた。「おそらくスーダンは、大量の避難民が出た結果、すでにその一部を失いました」

ヴァロツィコス氏によると、博物館や考古学的に重要な遺跡が保護されていない状態にあるという報告は確かに出てきているものの、実際に略奪が発生した記録はさいわい少数にとどまっているという。

「内紛中は、具体的な証拠なしに略奪が起こったことを確認することは簡単ではありません」と同氏はアラブニュースに語った。

文化財保護のために不正取引を取り締まるには、各国政府が違法入手した物品が市場に出回らないよう、厳しい措置を講ずる必要がある、とヴァロツィコス氏は言う。

「各国の意思決定者がそうした措置を制定し、施行することが肝心です」と同氏は述べた。「税関や世界中の法執行機関の警戒態勢を強めることは、そうした措置の一つです」

しかし、「中東では興味をひく貴重な物品が多いため、闇市場における需要の判断は簡単ではありません」とヴァロツィシコ氏は述べた。

スーダン国立歴史博物館(提供)

そのうえ、略奪された文化財はしばしば、警戒の目を避けるため長期間保管された後に売られることも多く、事態はより複雑となっている。贋物も多数存在し、売り手と買い手の双方に影響を与えるため注意が必要だ。

紛争中の両陣営と国際社会がこのような呼びかけにどう反応するかによって、やがて平和が訪れた後の社会がどのようなものになるか、共有の遺産で結ばれた社会か、引き裂かれた社会か、が決まってくるだろう。

「スーダンの博物館と、所蔵されている数々の貴重な文化財は、単に過去を映すだけのものではありません」とヴァロツィコス氏は述べた。「それらは未来を形作る力を持っているのです」

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