
アンカラ:5月下旬のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の再選に伴い、トルコの新外相にハカン・フィダン氏が任命され、同国の外交政策に再び注目が集まっている。
トルコ外交の指導者が交代する事を受けて、専門家らはフィダン新外相の指示の下でのトルコの今後の進路に注目している。
フィダン外相の博士過程研究が外交政策における諜報に焦点を置いたものであったことから、正常化の取り組みと安全保障主導の外交政策アプローチの制度化の両面を重視したより積極的な立場をトルコが取る可能性が高まり得ること以外は、一般的には、多大な変化は無いと考えられてはいる。
55歳の新外相は、2010年から2023年までトルコ国家情報機構長官を務め、シリアやイスラエル、エジプトを初めとした中東諸国との和解の取り組みを指揮した、トルコ国内で非常に影響力のある人物である。
経常赤字の補填は引き続き最優先課題であり続け、そのためにトルコは欧米の同盟国とのより建設的な関係を構築して行く可能性がある。
オズグル・ウンルヒサルシクリ(アナリスト)
交渉スキルの高さで名高いフィダン外相は、高官レベルの協議で本領を発揮しており、複雑な地政学的課題を切り抜けたり、他国の入り組んだ国内情勢を把握する際立った能力を示している。
フィダン氏は、2022年、シリアとトルコの両政府間の政治協議の基盤を構築するためにシリアの情報機関の責任者と複数回会談している。これは、トルコ政府のアサド政権との関係の正常化、そして、トルコで非合法のクルディスタン労働者党とトルコ政府によって同一視されているシリアのクルド人民防衛隊(YPG)関連の安全保障上の懸念への対処のために、この方向での取り組みが継続され得ることを示している。
手堅い外交経験に加えて、フィダン氏は、国際援助機関のトルコ国際協力調整庁を通してバルカン半島や中東、アフリカ、中央アジアでインフラ整備や人道支援を推進し、トルコのソフトパワーの拡大に努めてきた。
フィダン外相は、国際原子力機関のトルコ代表を務めた経験もあり、イランの核交渉についても明るい。
今回のフィダン氏の外相への任命は、トルコ政権が地域的、世界的な課題により積極的な役割を果たしていきたいという意思を示したものと一般に解釈されている。
外相として、フィダン氏は、スウェーデンのNATO加盟の是非や米国からのF16戦闘機の納入といった厄介な問題について欧米諸国と交渉を行うという難局に挑むことになる。
フィダン外相は、木曜日、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長とブリュッセルで会談を行った。トルコ政権は、トルコが推進した反テロ法のための修正条項にスウェーデン側が同調し、テロ組織を支援する個人の訴追をスウェーデン当局が実行可能とする必要があると主張している。
「スウェーデン政府は、法改正とトルコに対する防衛産業の制限の撤廃に向けていくつかの措置を講じました」と、フィダン外相は述べた。
トルコがスウェーデンの加盟に同意する引き換えにワシントンがF16の売却を承認するか否かは依然として不明である。今年早くには超党派の上院議員のグループがトルコがスウェーデンのNATO加盟を承認するまで米議会はF16の売却を検討すべきではないとジョー・バイデン米大統領に申し入れた。
米国のジャーマン・マーシャル・ファンドのアンカラ事務所のオズグル・ウンルヒサルシクリ代表によると、フィダン外相は米政府や欧州各国政府で高い評価を受けているという。「これは、外相就任当初において、かれにとって大きな強みになります」と、ウンルヒサルシクリ代表はアラブニュースに語った。
最近、フィダン外相は米国のアントニー・ブリンケン国務長官とロンドンで会談した。その際、ブリンケン国務長官は、フィダン外相を「長年の同僚」と呼んだ。この会談では、ウクライナ情勢とNATOの拡大が最重要議題だった。
専門家らは、トルコの外交政策に根本的な変化は生じず、フィダン外相は大転換よりも継続を選択すると考えている。
「何よりも第一に、フィダン氏はエルドアン大統領の外相です。(前任者のメヴリュット・)チャヴシュオール元外相がそうだったように、フィダン氏も大統領から指示された政治的方向性に基づいて外交政策を展開することになります。フィダン氏は、トルコの諜報機関の長官だったことから、外交政策に非常に積極的で、ほぼすべての重要な外交政策分野に関わってきました」と、ウンルヒサルシクリ代表は語った。
しかし、トルコの外交政策は外貨に強く依存する同国の経済状況に左右されざるを得ず、現在のトルコリラ安の進行とインフレ率の急騰の影響を考慮に入れる必要がある。
「私は依然として今後のトルコの外交政策に変化はあり得ると予想しています。経常赤字の補填は引き続き最優先課題であり続け、そのためにトルコは欧米の同盟国とのより建設的な関係を構築して行く可能性があります」と、ウンルヒサルシクリ代表は解説した。
また、ウンルヒサルシクリ代表は、ロシアや湾岸諸国からの支援が赤字対策に役立つ可能性は短期的にはあるものの欧米の金融市場へのアクセスが中期的には肝要になるとも述べた。
緊迫するトルコ経済の下支えのために,7月17日から19日の間、エルドアン大統領はサウジアラビアやカタール、UAEを歴訪する計画である。ロイター通信によると、エルドアン大統領は、特に、エネルギーやインフラ、防衛分野での湾岸諸国からの直接投資(当初約100億ドル、やがて300億ドルまで増額)を求めると予想されているという。
独立系政策アナリストのフアド・シャバゾフ氏は、チャヴシュオール元外相とは異なりフィダン外相はある程度の柔軟性を示す可能性があると語った。
「チャヴシュオール元外相は外交上の礼儀を重視し、強引な説得を避けようとしていましたが、フィダン外相はエルドアン大統領の重要な盟友であり、一部の欧米諸国との友好関係を犠牲にしてでも大統領の保守的かつ現実的な外交政策の支持者であろうとするでしょう」と、シャバゾフ氏はアラブニュースに語った。
シャバゾフ氏は、欧米諸国と中央アジアのネットワークについてのフィダン外相のポートフォリオはやや手薄かもしれないと認めているものの問題ではないと確信している。
「エジプトやイスラエルとの外交上の雪解けが元に戻ることはないと考えています。フィダン外相自身がこれまでの過程を取り仕切ったのであり、すぐにそのフォローアップを行うはずです」と、シャバゾフ氏は締め括った。
トルコとエジプト両国の大統領は、7月27日にトルコで会談を行う予定である。