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GCC・ASEAN首脳会議:湾岸諸国、地政学的な試練の中で新たな地域へシフト

ASEANは、石油供給という観点からだけでなく、複数の面でGCCを見ている。(ファイル/AFP)
ASEANは、石油供給という観点からだけでなく、複数の面でGCCを見ている。(ファイル/AFP)
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17 Oct 2023 10:10:56 GMT9

20日にリヤドで開催される湾岸協力理事会(GCC)・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、湾岸諸国が西側諸国から距離を取って新たな軌道・プランを描こうと計画する中で、人々に興奮をもたらしている。石油依存から脱却して経済を多角化することを計画するGCC諸国は、新たな市場、特に大きな市場ポテンシャルを持つアジアへと目を向けている。経済多角化は来たる首脳会議の中心的議題となり、GCC諸国にとって最優先事項となるだろう。

経済的動機だけでなく、地政学的競争もGCCの戦略的計算に含まれている。イランが西側からの制裁や国際的孤立を背景に東へとシフトしているからだ。中東とアフリカで繰り広げられてきたGCCとイランの競争は今やアジアへと舞台を移しており、それによってこの地域の緊張はさらに高まるだろう。実際、今や湾岸諸国は個々にアフリカやアジアで役割を担っているため、GCCは湾岸地域外において地政学的プレイヤーとしての性格を強めている。GCCはそれに対して組織のレベルでは最小限の関与しかしていないが、来たる首脳会議を通してそれを変えたいと考えている。トルコもアジアに関する戦略や政策を持っており、GCCはそれを受けてアジアへの関与を真剣に考え、複数のレベルでの関係強化を推進している。

これらの動機は明確であり、その重要性はコロナ後のGCCとASEANの間の接触、会合、交流の数から見て取れる。両ブロックの間では最近、数多くの公的会合やバックチャネル会合が行われている。例えば、GCCの代表らとASEAN諸国の駐サウジアラビア大使らがリヤドで会合を開いた。この会合の目的は来たる首脳会議に向けて始動することであり、その議題に関する話し合いが行われた。圧倒的に重点が置かれたのは貿易や商業機会の拡大だったが、防衛、安全保障、デジタルインフラなどに関連した他の問題についても議論された。

経済多角化は来たる首脳会議の中心的議題となり、GCC諸国にとって最優先事項となるだろう

モハメド・アル・スラミ博士

GCCの本部はサウジアラビアにあり、同国はこの組織内の主要アクターである。サウジは国内および地域で変革を推進しており、アジアに目を向けるGCCにとって主要なカタリストとなっている。それに加え、アジアの経済的・商業的ポテンシャルをふまえてGCCの同地域に対する注力を後押しするうえでは、UAEも不可欠なアクターである。同国の動機はより経済寄りであり、それは多角化によって促進されているが、サウジアラビアの動機には、イランがアジアへの関与を深めていることをふまえた地政学的な面もある。カタールもサウジアラビアやUAEと競って、アジアからの投資を誘致し、自国を湾岸における商業ハブにしようとしている。他のGCC諸国(オマーン、バーレーン、クウェート)もアジアに関心を持っているが、GCCがASEANとの関与を深めていることの主要な決定要因ではない。

GCCとASEANの間で重なる関心には、エネルギー、防衛、安全保障、デジタルインフラ、技術移管などに関連した問題が含まれる。GCC諸国の投資家は、ASEAN諸国の石油インフラに加え、不動産市場や農業、保健、観光部門を標的にしている。同様に、ASEAN諸国も余剰石油資金を持つGCC諸国に言い寄っている。何らかの戦略プランが今度の首脳会議で(あるいはその直後に)決定され、2~4年の期間で達成すべき目標やターゲットが設定される可能性が高い。これは、関係を深め今後の円滑な軌道を確保するうえで極めて重要なものであると双方から見なされている。

ASEANは、石油供給という観点からだけでなく、複数の面でGCCを見ている。そしてGCC諸国は、経済を多角化し地域の競合国に対抗するためにASEANに目を向けている。

ASEANは、石油供給という観点からだけでなく、複数の面でGCCを見ている

モハメド・アル・スラミ博士

今度の首脳会議は、エネルギーの枠組みを超えたより深い関与を反映し、前述の諸分野に焦点を当てたものになるだろう。これは、湾岸諸国の多角化プロセスの極めて重要な部分であり、GCC諸国の投資家に対し自国への投資を増やすよう求めているASEAN諸国にとっても重要なものだ。また、中国への依存度を低減したい一部のASEAN諸国にとっても極めて重要である。その背景には、米国が同盟国に対し中国への制裁に加わるかサプライチェーンを中国以外の国に振り向けるよう圧力をかける中で、サプライチェーンの逼迫により中国への過度の依存が危険になっている状況がある。また、湾岸諸国はアジア政策の延長として南太平洋の島嶼国に手を伸ばす可能性があると見られているが、そうなれば中国にとって現実的な懸念材料となるだろう。湾岸諸国はこれらの島嶼国に代替的融資やその他の金融オプションを提供するだろうからだ。

しかし、GCCはASEANへのシフトによって中国との関係を損なうつもりはない。両者との関係の間でバランスを取ることができると考えているのだ。中国はGCCに最新技術やノウハウを提供し、国内の防衛産業の確立を支援できる。したがって、GCCの多角化プロセスにとっては中国もASEANも重要なのであり、双方が同時に複数のレベルにおいてGCCの変革に貢献できるのだ。GCCはこの2つの関係をゼロサムゲームではなくポジティブサムゲームとして見ており、摩擦を生み出すことなくその間のバランスを取ることを目指している。現時点ではGCC・ASEAN関係に中国に関する懸念はないし、中国も湾岸諸国に対し方針を変えるよう圧力をかけたりはしていない。

中国は湾岸諸国の方針を変えさせるような政治的影響力は持っていないし、GCCも中国に依存はしていない。したがって、GCCはどのような形でも圧力を受けることなく、より柔軟にアジアへの関与を深めている。中国はこのシフトを注視し、中国が関心や影響力を持つ分野にGCCが投資するかどうか、そしてGCCがアジアにおいて地政学的な役割を果たす存在へと変貌するのかどうかを特に見極めようとするだろう。中国はGCCと米国の緊密な関係が見えていないわけでもなければ、湾岸諸国への投資や3月のサウジアラビア・イラン国交再開合意で果たした役割によって米国と湾岸諸国の関係の流れが変わると考えるほどナイーブでもない。

中国はGCCに対して実利主義的であり、現在得ることができるものは得たうえで今後のさらなる進出に期待している。同様に、GCCはアジアにおいて全てを中国に賭けるのではなく、多角化と選択肢を求めて投資先を分散しようとしており、それゆえにASEANへとシフトしようしているのだ。

  • モハメド・アル・スラミ博士は国際イラン研究所(ラサナ)の創立者兼所長である。X(旧ツイッター): @mohalsulami
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