我々は完全に未知の領域にいる。
イスラエルは、子供4000人を含む何千人ものパレスチナ民間人を虐殺するのに十分な権限を欧米から与えられていると感じている。人口が密集する難民キャンプに1000kgの爆弾が膨大に投下され、救急車、学校、病院が空爆されているという事実が十分に示すのは、民間人の死傷者が、ハマスのそれと等しく、完全に無視されているということだ。
イスラエルは、文明世界の目から見た自国の評判を落とすために全力を尽くしているように見える。ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いるファシストと原理主義者の陰謀団による司法機関破壊の試みに続いて起こったガザ大虐殺は、ロビー団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」から資金提供を受けている政治家らが長年にわたり繰り返してきた、イスラエルが民主的で道徳的に優れた進歩の灯台であるとのレトリックを嘲笑している。
過去数十年間は、国際的な声の中で重要とされてきたのは米国の声のみだったし、欧州の同盟諸国はそれに足並みを揃えてきた。しかし、マルチラテラルな2020年代には、アジア、南米、アフリカの新興国が、イスラエルを非難して外交関係を格下げするために列を作っている。
欧米においてさえ、正義を支持する大量の有権者が怒りを爆発させた。選挙において重要な層であるイスラム教徒、アラブ人、進歩的なユダヤ人に加え、大学が、新たに政治化されたミレニアル世代による親パレスチナ運動にとっての大きな坩堝となっている。世界中で何百万人もの人々が街頭に押し寄せる中、イギリスの内相のような右派は市民の自由を激しく弾圧し、親パレスチナデモを「ヘイト行進」だとして犯罪化している。
親イスラエルのロビー団体がナラティブを支配していた時代は遠い過去だ。ソーシャルメディア上の恐ろしい画像が残虐行為をリアルタイムで暴露することを可能にする一方で、両陣営が同時に偽情報やプロパガンダを氾濫させている。その全てがコミュニティー間の緊張をさらに悪化させており、イギリス警察には過去1ヶ月間に1000件以上の反ユダヤ的ヘイト事案が報告されているほか、イスラム嫌悪的な襲撃も増加している。
ジョー・バイデン大統領やドナルド・トランプ前大統領のような米国の高齢の政治家は、死につつある親イスラエル的コンセンサスを体現している。特に、ミシガン州などの重要なスイング・ステートのイスラム教徒、アラブ系、アフリカ系米国人の大きなコミュニティーが、イスラエル政策をめぐってバイデン大統領に背を向けている。オバマ元大統領は後任者らにこう警告した。「問題を解決することを望むなら、ありのままの真実を受け入れなければならない。そして、潔白な者はいないこと、我々全員が共犯であることを認めなければならない」。さらにこう続けた。「人的犠牲を無視しているイスラエルの軍事戦略は、最終的に裏目に出る可能性がある」。現在の大惨事を受け、バイデン大統領には、中東和平調停を緊急に生き返らせる以外の選択肢はほとんどないだろう。
民主党は、現在ガザ大虐殺に抗議している幅広い層からの支持を受け、親パレスチナ的な進歩的派閥の方へと容赦なく傾きつつある。これらの進歩派がいつの日か十分な議席を獲得すれば、イスラエル軍に対する巨額の援助を盛り込んだ連邦議会予算案を躊躇なく拒否するだろう。
米国に匹敵する緊張が欧州の至る所で表出している。アイルランドやスペインが率直なほどに親パレスチナである一方、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長やリシ・スナク英首相などの人々は大げさな親イスラエル的表現を競い合っている。アラブ系住民やイスラム教徒を多く抱えるフランスやドイツなどの国々は、政治的レトリックを穏便なものにすることを余儀なくされている。敵に囲まれた国にとって世界における経済的孤立がどれほど壊滅的な結果をもたらすかを理解しているイスラエルは、国際的なボイコット運動に激しく抵抗した。
親イスラエルのロビー団体がナラティブを支配していた時代は遠い過去だ。ソーシャルメディア上の恐ろしい画像が残虐行為をリアルタイムで暴露することを可能にする一方で、両陣営が同時に偽情報やプロパガンダを氾濫させている
バリア・アラマディン
こういった傾向は、攻撃に晒されているガザ地区の住民に慰めをもたらすにはあまりにも長期的なものだが、今後数年間のパレスチナ紛争はイスラエルが国際的に孤立していく中で展開することを示している。国際法曹協会を含むあらゆる種類の国際組織が精力的に停戦を主張しつつ、イスラエルは普遍的な人権義務を免除されないと強調している。
10月7日のハマスによる攻撃から計り知れないほど大きな心理的ショックを受けたイスラエルは最終的に、和平を拒む限りは存続への脅威に直面し続けるという事実を認識することを余儀なくされた。この小さな国では、南部、北部、その他の危険な地域の大部分から相当な人数の住民が(一部の人はおそらく永久的に)避難しているが、人口の多い都市は今もヒズボラやイスラム聖戦のロケット弾が容易に届く範囲内にある。
和平交渉への復帰を不可避なものにしたのは、ハマスなどの対イスラエル強硬派とネタニヤフ首相の間の相互依存的行動である。パレスチナ社会でもイスラエル社会でも、オスロ合意の頃のような正義、平和、和解に向けた運動を行える平和活動家が再育成される必要がある。
イスラエルの報復に対する執着は根絶主義者に力を与えている。彼らは、ガザ地区における軍事作戦はパレスチナからアラブ人を追放するための完璧な煙幕を提供すると主張している。イスラエルの国家安全保障会議のトップを務めたギオラ・エイランド氏は同国に対し、「ガザ地区での生活が持続不可能になる状況を作り出す(…)人間が存在できない場所にする」ことで、「同地区の全住民がエジプトか湾岸諸国に移るように仕向ける」よう求めた。ネタニヤフ首相はエジプトに対し、ガザ住民のシナイ半島への「一時的な」避難を受け入れるよう圧力をかけつつ、包囲下の同地区の住民を飢えさせ、粉砕し、抹殺しようと積極的に努めている。
全てのパレスチナ人が求めているのは、世界が彼らの苦境をきめ細かく理解することだ。パレスチナに対する支持は、ハマスに対する支持とイコールではない。欧米による無批判な支援のせいでイスラエルは思い上がり、占領下の自治区で人道に対する罪を犯そうと、数えきれないほどの国連決議や世界秩序の基本的原則を毀損しようと、自分たちには誰も手出しできないと思うようになった。ガザ地区において国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員72人がイスラエルによって殺害された。これほどの短期間で殺害された人数としては記録的である。イスラエルは一方で、国連事務総長は「血の中傷」を行っており「テロ行為を正当化している」と非難した。
時が自分たちの味方だということは、イスラエル人にとって自明の理であり続けてきた。アラブ諸国は関心を失いつつあるように見えたし、パレスチナ人は領土が年々失われることに不機嫌に黙従していた。1947年と1967年の世代が死に絶えたら、ナショナリスト的感情も同様に霧散してしまわないだろうか。
それどころか、パレスチナ人の新世代と、全世界にいるその支持者らは、多くの点で以前の世代よりも情熱的で、覚悟があり、政治的意識が高い。それも当然である。あらゆる苦難や流血にもかかわらず、止められない世界的傾向は、時が、正義が、人々が、そして究極的には歴史が、彼らの味方であることを示しているからだ。
だから問題は、戦略的脅威が増大しイスラエルの地政学的強さが衰える中で、将来を見据えたイスラエル人が和平のために必要な妥協をどれだけ早く主張し始めるかということだ。