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多国間協力の道は断たれてはならない

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24 Dec 2023 11:12:22 GMT9

どの国も無傷ではいられなかった新型コロナウイルス感染症による危機の後、世界的なリーダーシップは見事に欠如していた。2021年、私は、パンデミック後の経済回復の形とペースは、多国間協力に大きく依存していると指摘した。パンデミックからまだ完全に立ち直っていない世界経済が、地政学的紛争の拡大という新たなリスクに直面している現在も、それは変わらない。この2年間で、ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの戦争、そしてサブサハラアフリカ(サハラ以南のアフリカ)における7つの軍事クーデターが、脆弱性を増大させ、膨大な数の人々を避難民にしている。

しかし、共同行動を強化する必要があるにもかかわらず、多国間協力は低下傾向にあるようにみえる。2030年までに極度の貧困を終わらせる持続可能な開発目標を達成するめどは断っておらず、現在の傾向が続けば、世界人口の7%が困窮した生活を送ることになると予測されている。さらに、気候災害はより一般的になりつつあり、危険かつ悪化する傾向にある。残念なことに、このような人類存亡の危機に取り組む世界的なリーダーシップは欠如している。この現実を認識したうえで、それを変える方法を決めることが重要だ。

危機が重なり合う中でも、良いニュースはある。世界経済は、パンデミック以降の回復の遅さや不安定さにもかかわらず、2023年には回復力を見せている。高水準を頑固に維持する世界的なインフレとの戦いはうまくいっているようで、インフレ率は2022年の8.7%から2023年には6.9%、2024年には5.8%へと着実に低下すると予測されている。これは利上げと国際商品価格の下落によるものだが、長期的な金融引き締めは世界経済活動を鈍化させるだろう。一方、一部の新興市場や発展途上国、特に東アジア・太平洋地域の国内総生産(GDP)成長率は、中国、ベトナム、インドネシアを筆頭に、パンデミック以前の水準を上回っている。

さらに、10月にマラケシュで開催された国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会では、各国の財務相と中央銀行総裁が、共に取り組むべき8つの世界的課題に合意、貧困のない世界を実現し、住みやすい地球で繁栄を分かち合うという世界銀行の新たなビジョンと使命を支持した。この目標は、世界銀行による、開発のための新たなプレイブックと、その強化された資金調達モデルを支えるものであり、世界的な課題に立ち向かうための私たちの集団的な努力が、実現可能で戦略的に健全なものであることを保証するものである。

中期的世界経済成長の見通しには3つの主要な脅威がある。地政学的緊張の高まりは、経済の断片化につながる可能性がある。次に、技術的デカップリングは新しいデジタル技術の普及を妨げ、生産性向上を鈍化させるおそれがある。そして、特に農業への影響が懸念される気候変動だ。残念ながら、多くの国では経済成長を支えるための政策余地が限られている。金融政策はインフレ圧力を抑制するために大きく制限されており、財政政策においては、特に債務危機、および食糧・エネルギー不安という2つの課題に直面している低所得途上国では、ますます制約を受けるようになっている。

地政学的な競争と紛争は、グローバリゼーションの成果を台無しにする脅威となっている。過去30年間、国境を越えた貿易と投資によって世界経済の規模は3倍に拡大し、13億人が貧困から脱却した。しかし今日、新たな戦争や緊張の高まりによってサプライチェーンが寸断され、投資の流れは止まり、重要なデジタル技術や新興デジタル技術の国際標準が競合し、所得や富の不平等が拡大する可能性がある。

地政学的な脅威に対抗するためには、透明性、確実性、そして「共有された繁栄」を重視するルールに基づく多国間協力の重要性を強調しなければならない。あらゆる面で分断に抵抗するためには、協調的な集団努力が必要である。結局のところ、統合の崩壊は価格変動の持続的な増大を招き、国境を越えた商品流通を阻害し、世界経済の成長をより包括的なものにするための手段を減少させることになりかねない。

共同行動を強化する必要があるにもかかわらず、多国間協力は低下傾向にあるようにみえる。

スリ・ムルヤニ・インドラワティ

同様に懸念されるのは、特に人工知能や半導体といった重要な分野における米中間の技術的デカップリングに向かう最近の傾向である。これは、多くの経済圏でGDPの5%程度の損失をもたらす可能性のある、より広範な断絶の危険を提起している。

同時に、技術革新が開発に貢献する可能性は依然として膨大だ。東アジア・太平洋諸国のサービスと開発に焦点を当てた世界銀行の最近の報告書によると、デジタル技術をより多く利用するサービス企業は生産性を向上させているが、それらを採用するには大幅な組織改革と補完的な投資が必要な場合が多い。さらに、顧客がサプライヤーとつながる新たな方法を提供するデジタル・プラットフォームの普及は、フィリピンの事例のように、オンライン卸売・小売の爆発的な成長を促進する可能性がある。

デジタル技術の急速な発展は、それが適切に管理されれば、持続可能な経済回復にとって大きな利益となる可能性がある。スキルの蓄積、規制の問題、競争のレベルといった補完的な要素を確実に考慮することで、デジタル技術の普及を促進し、断絶を防ぐための共通戦略のもとに団結することができるだろう。

最後に、気候変動が農業に与える影響が、世界的な不平等を悪化させることは明らかである。2022年上半期には、極端な天候イベントによる不作が一因となって、世界の食糧市場に過去数十年で最大規模のショックが発生した。気候に起因する不作や飢餓のリスクが最も高い人々の約80%が、農家が貧しく脆弱な傾向にあるサブサハラアフリカ、南アジア、東南アジアにいる。地球温暖化が原因であれ、エルニーニョ現象が原因であれ、深刻な干ばつが発生すれば、フィリピンやベトナムのような比較的高所得の国であっても、何百万人もの人々が困窮に追い込まれる可能性がある。

世界のリーダーとして、私たちは、農業の気候変動への耐性を強化(例えば、水のより効率的な使用方法など)、需要の管理、渇水しにくい作物への転換の促進、土壌の健全性向上などを支援する政策を提唱することができる。同時に、こうした取り組みは持続可能性の目標にも一致しており、食料システムから排出される温室効果ガスを削減することもできる。最近の推定によれば、食料システムは温室効果ガス総排出量の約3分の1を占めており、メタンガスの最大の人為的発生源であると同時に、生物多様性の損失の主な要因でもあるという。

今日の国際社会が直面している亀裂や格差を考えれば、多国間協力の強化はこれまで以上に重要である。前向きに考えれば、世界のリーダーたちがパンデミック――前例のない異常事態――から学んだと思われる教訓のひとつは、レジリエンスを高めることの重要性である。

この教訓を踏まえ、私たちは4つの優先事項に焦点を絞るべきだ。まず、平和的な紛争解決と経済協力への道を開くために、連帯、多国間主義、協調の精神を強化しなければならない。次に、特に脆弱な国々に対して、的を絞った財政支援と、より強固な債務管理メカニズムを提供する必要がある。さらに私たちは、現在の高金利環境に対して、安定と成長のバランスをとるような政策対応を設計しなければならない。最後に、包括的な構造改革とグリーンなグローバル経済への投資を通じて、長期的な成長の持続可能性を確保する必要がある。

経済の安定性に対する潜在的なシステム上の脅威を監視し、それを緩和することは重要だ。今後数年間で私たちが取る行動――世界的にも、地域的にも――は、私たちが差し迫った国際的課題に立ち向かうのか、それともその犠牲となるのかを決定するだろう。多国間協力の道は断たれてはならない

  • インドネシアのスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相は、気候変動対策のためのG20財務相連合の共同議長を務めている。 ©Project Syndicate
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