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選挙の年、数多くの危機に面する民主主義

街灯に括りつけられた極右政党「ドイツのための選択肢」の選挙プラカード。ベルリン、2024年1月2日。(AFP)
街灯に括りつけられた極右政党「ドイツのための選択肢」の選挙プラカード。ベルリン、2024年1月2日。(AFP)
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03 Jan 2024 08:01:40 GMT9
03 Jan 2024 08:01:40 GMT9

2023年に別れを告げる中、筆者は新年の始まりにふさわしい明るい記事を書こうとしたのだが、残念ながら書けそうにない。新年の挨拶や祝辞とは裏腹に、2024年の世界は暗いものになりそうだ。

ウクライナ戦争開始から3年が経とうとするが、終わりは見えない。ガザ戦争が始まってもうすぐ3ヶ月になるが、イスラエル政府には一刻も早い終結を目指す動きはない。むしろイスラエル政府は対ハマスの軍事作戦が更に数ヶ月にわたって長引くのは確実としており、死者は増える見込みで、戦争激化や不透明な先行きに対する懸念は大きい。

しかし、今年の元日、習近平中国国家主席とジョー・バイデン米大統領の間で米中国交樹立45周年を記念して行われた祝電交換は、2024年へのかすかな希望として筆者の目に映った。2024年は、民主主義、平和、安定、気候変動、貧困、生活費危機を筆頭とする様々な問題について、決定的な年となりそうだ。

中国外務省の発表した習近平主席の声明で、米中は「嵐を乗り越え前進してきた」と述べ、それが両国民を豊かにし、世界の平和、安定および繁栄に貢献してきた、と語った。こうした説明を聞くにつけ、グローバル・リーダーシップはまだ生きており、各国指導者の努力次第で危機の影響軽減に向けて協力していけるかもしれない、という自信を得られるようでもある。

しかし、筆者が今年抱く懸念は、既存の独裁政権が存続するかではなく、今ある民主主義・準民主主義政権が存続できるかである。というのも、2024年には20億を超える人々が60を超える選挙で投票する見込みだからだ。そのうち最も重要なのはアメリカの選挙である。ドナルド・トランプ氏が再当選すれば、アメリカの民主主義体制が危機に瀕する恐れがある。

今年行われる選挙はまた、インドの場合はどれだけポピュリズムに傾くか、欧州議会の場合はどれだけ強硬右派に傾くかなど、世界の趨勢がどのように変わっていくかを示すものともなる。イギリスについては、ブレグジット以降右傾化を強めていった14年間にわたる保守党政権から逃れるため、投票が中道に寄れば、世界全体の傾向からは逆行する形となる。しかし、国内外の選挙干渉が急増すれば、強硬右派が勝ち続けることになるかもしれない。

つまり、民主主義や民主政治はここ数年危機に面しており、来たる数ヶ月には更なる試練が待ち受けているのだ。ソーシャルメディアが、プロパガンダや偽情報を拡散する人々が市民の選択を今までにない規模で悪用、収益化、食い物にする場として、過去類を見ないレベルで悪用される可能性がある。

ディープフェイクなどによるフェイクの文章、音声および動画の生成技術が人工知能ツールや生成機械学習によって著しい進歩を遂げ、一個人や不正な国家工作員が、接戦となる選挙前に多数の有権者の意見・選択を変えることが可能になったという懸念がある。

世界の民主主義の行く末は11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が再当選するかどうかにかかっている。

モハメド・チェバロ

このテクノロジー革命は、従来型のメディアや情報スーパーハイウェイ構想の理念を根底から揺るがした。テック企業は大小変わらず、引き続き規制強化や責任・義務を定める流れに反対するだろう。

昨年のスロバキアの選挙は典型で、同国のソーシャルメディアでは何十万件もの偽情報を含む投稿が行われた。多くのソーシャルプラットフォームは、規制チームを強化するのとは逆に、市場シェア拡大のためスタッフを削減している。

私見では、特に問題なのは、民主主義が表現の自由に基づくということだ。皮肉なことに、自由、特に技術進歩によって実現した自由によって、民主主義が終わりを迎える恐れがあるのだ。

この20年で発達してきたデジタル世界は、あらゆる面で人間にとって革命的なものだ。現在市民ジャーナリズムと呼ばれる、誰でもコンテンツを作成・発表し、ひいては取引を行うということを可能にしたのもその一つだ。しかしまた、有害なツールやコンテンツが流通する場を提供することにもなった。それらは多くの場合、主に開かれた民主主義的な場における健全な議論を妨害しようとする荒らしや国家工作員の手になるものだ。ここ数年、デジタル世界では内容より形式が重要視されるようになり、声の大きいデマゴーグや彼らの扇情主義的な手法が社会の大部分の好む言論となっている。独裁政権と違い、民主主義国家は中央政府の強力な監視と統制の恩恵を受けない。

こうした背景の中、世界は固唾を飲んで見守らねばならない。今年、民主主義は悪意ある集団や国家に脅かされる恐れがあり、彼らはデジタル領域を利用してその概念を根底から覆すかもしれない。偽情報やデマ、ディープフェイクを悪用して、社会を分断し、対立と相互不寛容を深めようとするだろう。

ロシアで3月に行われる大統領選挙でウラジーミル・プーチン氏の敗北を予想する人はほとんどいないが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の命運はガザ戦争の結果次第と見られている。紛争が長引けば長引くほど、2024年末までに失脚する可能性は高くなる。実施未定の選挙もある。特にウクライナの大統領選挙は、日程上は3月に実施される予定だが、未だ戒厳令下にあるため実施されないと見られる。

いずれにせよ、世界の民主主義の行く末は、11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が再当選するかどうか、そしてそれによってアメリカの外交政策がどのように変わるかにかかっている。

民主主義世界は2024年の激変にそなえるべきである。おそらく良い方向には向かわないだろう。その一方で、新年を迎え、様々な苦難が待ち受けている中、筆者は冷静さを失わずに進んで行きたいと思う。今週始めに米中の国家元首の間で取り交わされたメッセージのような理性ある声が、最後には勝ち残るかもしれないという希望を抱き続けて。

モハメド・チェバロ氏は、25年以上にわたって戦争、テロリズム、防衛、時事問題、外交などを取材してきたイギリス系レバノン人ジャーナリスト。またメディア・コンサルタントおよび研修講師も務める。

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