アジア開発銀行の2023年版「アジア・太平洋地域主要指標」報告書は、深刻な問題として存在し続ける貧困について、「基本的なニーズを満たすための収入の不足あるいは財政リソースの不足にとどまらないもの」だと説明している。また同報告書は、人々を貧困に追い込むのは複数の複雑な問題や状況であると主張。加えて、アジアの発展途上地域において極度の貧困下に暮らす人口の割合は2030年までに1パーセントにまで縮小すると予測される一方、中程度の貧困と経済的脆弱性は不穏なまでに高い割合にとどまり続けるとも述べている。
貧困を取り巻く「複雑な問題」によって、ステークホルダーは新しい測定方法の追加を余儀なくされた。2015年に国連の持続可能な開発目標の一部となったグローバル多次元貧困指数がそれだ。このアプローチは、人々がどれだけお金を持っているかを見るだけでなく、貧困下にある人々の生活苦につながるその他の要因を分析するものだ。そうした要因には食料不足、清潔なトイレ、良質な医療、学校、必要不可欠なサービスへのアクセス、そして仕事が含まれる。これらの課題全てを考慮に入れたスコアを活用し、貧困の深刻さを判断する。
グローバル多次元貧困指数は100か国にのぼる発展途上国の急激な多次元貧困を測定するための世界的尺度であるだけでなく、恵まれない人が直面する健康、教育、生活水準の急激な欠乏を同時に捉えることで、従来的な金銭ベースの貧困尺度を補完するものだ。
たとえば調理用燃料は、貧困の次元のうち生活水準にまつわる6つの指標の1つだ。経済学者たちは長年にわたって貧困のさまざまな側面を大きく取り上げ、非合理的と解釈されることの多い貧しい人々の経済行動にそれが悪影響を及ぼしていると説明してきた。
人は貧困によって、ごくわずかのお金を節約しつつ、不可欠な支出を賄うため過度な借り入れを行う状況に追い込まれ、やがて悪循環になる可能性がある。これによって、将来の計画よりも目前のニーズに人々の注意が向いてしまいかねない。とはいえ、アジア開発銀行の報告書の何より痛烈な要素は「逆説的な証拠」であり、危機や不確実性が存在する場合、貧困下にあると支出が増す可能性を示唆している。
これはちょうど、自己負担ゼロの総合保険に入っている人と比べ、日雇い労働者は医療サービスを受けるために多くの自己負担額を保険会社に支払わなければならないのと同じだ。あらゆる形態の貧困は屈辱的なもので、人間の可能性を伸ばす妨げになるものだが、大きな改善につながるのはボトムアップのアプローチだけだ。貧困の最下層にいる人々が人生のチャンスをつかめたなら、上の層にいる人々もそれに触発され、生き延びるためあるいは暮らしをよくするための方法を見つけていくだろう。
国連開発計画の2023年のグローバル多次元貧困指数によると、貧困の発生率が高いほど深刻の度合いも増す。研究によると、世界人口61億人のうち11億人が貧困下にあり、110か国で4億8500万人が極度の貧困下で暮らしている。さらに、11億人のうち5億3400万人、つまり貧困下にある人全体の半数がサブサハラアフリカに住んでいる。貧困下にある総人口の3分の1以上にあたる3億8900万人が南アジアに住んでおり、貧困化にある人のほぼ84パーセントが農村地域に住んでいる。これら全ての数字は固有の様相と剥奪を示しているが、単一の解決策でその全てに対応することはできない。
貧困下の人々はしばしば差別に直面し、そのことが精神および感情面でのウェルビーイングに深刻な影響を及ぼす可能性がある。
エヘテシャム・シャヒド
貧困下にある個人は、相互に関連しあうさまざまな課題を抱えており、それに対処することを国連開発計画は推奨している。これは効果的に貧困と戦う上で非常に重要だ。研究によると、多次元的貧困下にある人々は複数の困難を経験しているのが一般的であり、世界的な指数を複数の具体的な指標に分割することで、そうした重層的な課題のうち最も一般的なものが浮き彫りになる。これが意味するのは、ステークホルダーが、貧困下にある個人の抱える多くの困難に取り組むことに集中できるということだ。
これは、多次元貧困指数の数字、貧困下で暮らす人々の割合、そうした人々の貧困の深刻さ、貧困下にある人の総人数、および貧困に寄与する要因に関連するデータを分析することで達成できる。このアプローチは、深刻な多次元貧困を減少させることを目標とする。
多次元指数と金銭ベースの貧困指数を使用して、お金以外で欠乏しているものを測定することは良いアイデアだ。そうした欠乏に含まれるのは、人の生活条件や機会に大きな影響を及ぼしうる、幸福や生活の質の金銭以外のさまざまな側面だ。
貧困下にある人の欠乏を終わらせようと目指すことは、良心の呼びかけを超えていく。貧困下にある人々はしばしば社会的スティグマ、排除、あるいは差別に直面し、そのことが精神および感情面でのウェルビーイングに深刻な影響を及ぼす可能性がある。貧困はまた、犯罪や暴力にさらされるリスクを高め、貧困下にある人々の間に不安と恐怖を呼ぶ可能性がある。貧困の減少を目的とした政策やイニシアチブは、貧困下にある個人やコミュニティの全体的なウェルビーイングを高めるため、このような欠乏の幅広い次元を考慮に入れるべきだ。
また貧困は、その現れ方の度合いが異なることがある。例えば、絶対的貧困と相対的貧困は異なる。相対的貧困は、特定の社会やコミュニティ内の生活水準として定義されるものだ。慢性的貧困は、世代を超えて長期的に持続する欠乏を指す。慢性的貧困に陥った個人や家族は、構造的障壁や機会の欠如が原因となって、貧困から抜け出すことが困難なことが多い。状況的貧困は一時的なものであり、失業、病気、自然災害、離婚など特定のライフイベントや危機によって引き起こされる。
貧困のさまざまな様相について理解することは、その影響を軽減し、より公平でインクルーシブな社会を創り出すために対象を絞った政策や介入を進めていく上で不可欠である。貧困は一様な問題ではない。その多様な次元に取り組むには、持続的できめ細やかなアプローチが必要となる。
・エヘテシャム・シャヒド氏は、UAEに拠点を置くインド人編集者兼研究者。