Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

無秩序のこの時代、二極性に固執しても誰も救われない

直近では、ガザでの戦争が、西側中心の世界観の限界をさらに際立たせている。(ロイター)
直近では、ガザでの戦争が、西側中心の世界観の限界をさらに際立たせている。(ロイター)
Short Url:
29 Jan 2024 12:01:43 GMT9
29 Jan 2024 12:01:43 GMT9

現代の混迷を極めている地政学では、かつて支配的だった「西側」と不確定な「その他」にきれいに分かれた世界というパラダイムは、徐々に崩れつつある。

長い間、世界秩序の坩堝と見なされてきた西側諸国は、20年余り前、最初の「連合軍」ミサイルがバグダッドに降り注いだ際に顕在化した新たな現実に追いつこうと、躍起になってもがいている。

2003年にはアラブ世界全域の数百万人が信じられないような衝撃と畏怖の念を抱いたが、西側諸国は今、自ら付けた傷の治療が済んでいない事態に徐々に気付き始めている。

新旧、国家/非国家を問わず、多様なプレーヤーが自らの主体性をますます主張するようになった世界では、かつては威勢がよく、唯一無二の存在であった西側の「声」が、ここ80年近くで初めてあまり響かなくなりつつある。

この現象を、西側諸国が海外の紛争を取り締まることよりも国内の分裂政治に対処することに手一杯になっているのに乗じて、単に世界のその他が反抗的になっているだけだと見なすことは、もはやできない。

むしろ、伝統的な思想家や作家たちが、かつてのように聴衆を虜にするような影響力を持たなくなってきていることからも分かるように、西側の重要性が薄れてきていることを物語っている。

さらに心配なことに、我々のグローバル「秩序」の管理者たちは、少なくとも過去数十年間、西側が長く独占してきた会議招集力を巧みに利用し、公平で協調的、かつコンセンサス主導のグローバルなアジェンダを推進できるような、優れた大物政治家を続けて輩出するのに失敗してきた。

ここ数年間の世界政治の動向と、それに対するぎこちない対応は、不可逆的な転換の最終的な兆候であった。この転換は、これからの数か月で更に加速する可能性が高い。これまで世界情勢の周縁に追いやられていた「グローバル・サウス」が、イデオロギーの異なる極との連携に執着するよりも国益を優先させ、現実主義に基づいて国際秩序を再構築しようと、新たに自己主張を打ち出すようになっている。

「西側」対「その他」という明確な二項対立は、より微妙で多極化した世界へと移行しつつあり、そこでは各国家が単一のブロックに全面的に忠誠を誓うのではなく、特定の利害に基づいてパートナーを探す。

ある意味で、「地政学のアラカルト」だ。例えば、グローバル・サウスの多くの国々が対露制裁体制への参加に消極的であることが、それを裏付けている。これらの国々は、かつては疑いようのなかった西側の影響力に挑戦する戦略的自主性を見せている。

最近では、ガザでの戦争と紅海でのエスカレーションが、外交のルールが劇的に変化しているにもかかわらず現状維持絶対主義を求める西側中心の世界観の限界を、さらに際立たせている。

このような混乱したスタンスは、地球上の危機を管理するために柔軟なアプローチを求める「その他」の思惑とは相容れない。グローバル秩序に対する西側の漠然とした理想主義から解き放たれた「その他」諸国は、我々が守りたいと表明している価値観そのものを破壊することによって、西側諸国の偽善が常に露呈しているような、複雑な問題への取り組みにおいて、まともに前進できるようになる。

ガザの現況に対する「その他」諸国の反応は、こうしたダブルスタンダードだという認識である。この問題で、イスラエルの行動に対する西側諸国の不作為は、ロシアの侵略に反対する激しい姿勢とは対照的である。

こうした偽善により、譲ることのできない権利や自由を普遍的な原則に変えようとしている一方で、西側諸国の道徳的な地位が侵食され、国際法の原則を遵守しているという主張を台無しになっている。

西側」対「その他」という明確な二項対立は、より微妙で多極化した世界へと移行しつつある。

ハフェド・アル=グウェル

たとえそれが国際秩序に対する深刻な挑戦であり、世界経済に重大な影響を及ぼし、より広範な紛争に発展する可能性があるとしても、フーシ派武装勢力による紅海でのエスカレーションに対して、世界中で控えめかつ非協力的な反応が見られるのは、全く驚くべきことではない。

「その他」諸国は、やみくもに西側諸国から意向を読み取って追随するのではなく、このような事態が自国の国益に与える脅威があるとしても、個別にそうした脅威を緩和するために十分な外交的資源と労力を費やすだけという算段をするようになっている。

この変化は、ガザの惨状から、スーダン内戦、リビアの腐敗政治の行き詰まりに対する不条理な寛容に至るまで、アラブ地域にまたがる他の重要な注目スポットに対する反応にも当てはまる。遠く離れた西側諸国の首都の洗練された廊下で支持された、トップダウン的アプローチに従う時代は終わったのだ。世界で最も差し迫った危機のいくつかを解決する取り組みは、今や伝統的な同盟関係を超えた協調した国際的対応を要求しており、グローバル・ガバナンスに対するより包括的なアプローチの必要性を際立たせている。

変化する現実は、西側諸国が普遍的価値観について一見深遠な宣言を行い、それを擁護する重責を担ってきたことが、実は決して対等な者同士の熱烈な対話ではなく、世界中が「ニューノーマル」を見つけようと躍起になっている時でさえも、雄弁家が誰もいない部屋に響くエコーを立派なお墨付きだと勘違いしているような、途切れない、しかし注意を払われることもない退屈な独り言であったという不愉快な真実を露わにしている。

「その他」諸国が関与しなかったのは、黙認ではなく、静かな無視を意味していた。

西側諸国は、他国が自己主張を強めていることをゼロサムゲームとみなす必要はなく、むしろ相互の利益と責任の共有に基づく新たなパートナーシップを構築する好機とみなすべきである。国際社会における多様な声は、西側諸国の貢献を減殺するものではなく、グローバルな対話をより豊かにするものである。

コンセンサス主導の秩序とは、画一的なものではなく、多様な視点を調和させるものであり、そこでは、リーダーシップ負担と世界の安定を維持する責任が、より広範なアクターの間で共有される。

この変化し続ける世界情勢を乗り切るには、西側諸国は自分たちの影響力が、硬直化した二極化よりも柔軟性を好む世界に適応する能力にかかっているという事実を再認識しなければならない。アラカルト外交の新時代は、異常ではなく、むしろ国際社会を構成する多様な声と利害をよりよく反映する世界秩序に向けた自然な流れである。

避けられない変化は、本来、西側諸国にとって脅威ではなく、むしろ進化と適応の機会である。結局のところ、西側の影響力は常に動的なものだ。この柔軟性と包括性の時代においては、その適応能力が、変化する世界の複雑性により適した新たな世界秩序の中で、西側が引き続いてどれだけ重要性を保てるか決定することになる。

相互の結びつきが強まる一方で、地政学的な流動性が高まる中、西側諸国は新たな現実と折り合いをつけねばならない。国際関係の未来は、単一の文化的主体によって形成されるのではなく、多様な視点が合わさって形成され、それぞれが主権を主張し、グローバルな物語を形成する役割を果たすことになるだろう。

この新しい時代における西側諸国の成功は、グローバル地政学の多様で動的な性質とはますます相容れなくなる一枚岩の世界観を押し付けるのではなく、世界のその他の国々の声に耳を傾け、関与し、共創しようとする意志にかかっているのだ。

  • ハフェド・アル=グウェル氏は、ジョン・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院・外交政策研究所(ワシントンDC)のシニアフェロー兼北アフリカ・イニシアティブ・エグゼクティブディレクターである。
    X
    : @HafedAlGhwell
topics
特に人気
オススメ

return to top