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米国で勢いを増すアラブ人・イスラム教徒への憎悪に満ちたレトリック

ガザ地区南部のラファで、パレスチナ人避難民を収容するテントから顔をのぞかせる子ども。2024年2月8日。(AFP)
ガザ地区南部のラファで、パレスチナ人避難民を収容するテントから顔をのぞかせる子ども。2024年2月8日。(AFP)
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09 Feb 2024 03:02:16 GMT9
09 Feb 2024 03:02:16 GMT9

先週、ガザ地区での人道的停戦と、ハマスによる人質の即時無条件解放を求める決議案が、シカゴ市議会で可決された。同様の決議を採択した都市のなかで、シカゴは全米最大規模だ。

人々が紛争終結を訴える理由は死傷者の多さだ。イスラエルでは約1200人が10月7日に殺害され、その後の4カ月で2万7000人以上のパレスチナ人が殺害された。死者の大部分は民間人で、40%は子どもだった。

シカゴの停戦決議は公平なものだったにもかかわらず、活発化する反アラブ的ヘイトキャンペーンの火種となった。さまざまな政治思想をもつ米国の政治家や親イスラエル活動家に加え、主流ニュースメディアもこうした風潮に加担している。かれらのメッセージはシンプルだ。イスラエル人の殺害は非難すべきだが、パレスチナ人の殺害はそうではない。

シカゴ決議は法律ではないため法的拘束力はないが、その支持者たちは度重なる延期にめげず、採択のために闘ってきた。

親イスラエル活動家はガザ地区に関する最初の決議案を10月13日に提出し、ハマスのテロ行為を非難する同決議は全会一致で可決された。決議案の起草者であるデブラ・シルバースタイン市議会議員は、シカゴ市議会で唯一のユダヤ人議員だ。

2カ月後、ガザ地区のパレスチナ人に対するイスラエルの報復攻撃は暴力性を増し、数千人が殺害され、住宅、モスク、病院、学校などの建造物が破壊された。これを受け、ヒスパニック系議員のロッサーナ・ロドリゲス=サンチェス氏とダニエル・ラスパタ氏は、イスラエルとパレスチナ双方に殺戮を止めるよう求めるバランスのとれた決議案を提出した。なお、シカゴ市議会の50人の議員のなかに、アラブ系やイスラム教徒はいない。

この決議案の採決が延期されたのは、シルバースタイン議員が原因だ。彼女は対抗してホロコースト79周年の追悼決議案を提出し、停戦決議を通すことはホロコーストの犠牲者への敬意を欠くとみられかねないため「タイミングが悪い」と主張した。ホロコースト決議案は1月24日に全会一致で採択され、人道的停戦決議案の採決は起草者により自主的に延期された。この対応もまた、かれらの公平性を物語っている。

1週間後、人道的停戦決議案が再び議題にのぼると、シルバースタイン議員はユダヤ系米国人有力者や名誉毀損防止同盟などの親イスラエル有力ロビー団体とともに、決議案を否決するよう議会に訴えた。反対派は、決議案がこの紛争に対するジョー・バイデン大統領の方針を揺るがすものであると主張した。バイデン政権は昨年12月、国連安保理で類似の決議案に対して拒否権を発動した。

公平な決議案に対する50人の市議会議員の判断は、23人が賛成、23人が反対というものだった。4人は議場を退出し棄権した。前回の討議でイスラエル、パレスチナ双方の苦難に共感を示していた、アフリカ系米国人のブランドン・ジョンソン市長が賛成の決定表を投じ、決議案は可決された。

激しい怒りがイスラエル政府をガザ地区のパレスチナ人への攻撃に駆り立てているのと同じように、米国でもまた、怒りを原動力として、パレスチナとイスラエルの双方による殺戮の終焉を訴えたジョンソン市長と決議賛成派議員を悪魔化する風潮が巻き起こっている。

例えば、『シカゴ・トリビューン』紙が決議のあとに掲載した一方的な社説は、類を見ないほど辛辣なもので、決議を「憎悪に満ちた茶番」と呼んだ。同記事は、シルバースタイン議員が決議に賛成する議員から「怒声を浴び沈黙させられる」様子が「もっとも印象的」だったと述べる一方、親イスラエル活動家による決議の賛同者に対する非難には沈黙を保った。

同紙はさらに、決議とその支持者は「反ユダヤ的」であるとまで述べたが、膨大な数のパレスチナ人の死者、イスラエルの攻撃によって亡くなった100人近くのジャーナリスト、徹底破壊されたパレスチナの主要都市には一切言及しなかった。こうした悲劇は今この瞬間も続いている。

ユダヤ系で過去にも州内のアラブ系住民に対して敵対的姿勢を示していた、イリノイ州のJ・B・プリツカー知事もまた、決議に対する非難の合唱に加わり、次のように述べた。「イスラエルに侵入したハマスの戦闘員にレイプされた女性たちや、誘拐された人々、テロリストに殺害された人々に対し、一切の配慮がなされなかったことを残念に思います……市議会は、中東での戦争という問題について議論するなら、こうしたすべての観点を取り入れる必要があります。かれらはそうしませんでした」

プリツカー知事は、イスラエルの攻撃によるパレスチナの死者の大多数が民間人であることに一切触れなかった。

怒りを原動力として、パレスチナとイスラエルの双方による殺戮の終焉を訴えた議員を悪魔化する風潮が巻き起こっている。

レイ・ハナニア

同様の決議案は、より小規模な全米の数百の自治体で可決されており、アラブ系が多数派を占めるミシガン州ディアボーン市議会はそのひとつだ。同市での決議採択に触発され、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は2月2日、悪名高い反アラブ主義のコラムニスト、スティーブン・スタリンスキー氏による論説を掲載した。タイトルは「ディアボーンへようこそ。ここは米国のジハードの首都」。論説のなかで、スタリンスキー氏は不当にも、市議会およびアラブ系のアブドゥッラー・ハムード市長の停戦の訴えは、ハマスおよびテロリズムへの「公然たる支持」の証拠だと断じた。

5日、アラブニュースに宛てた声明のなかで、ハムード市長は『ウォール・ストリート・ジャーナル』の論説が暴力や脅迫の引き金になることを懸念していると述べた。「イスラム嫌悪的かつ反アラブ的で、露骨に人種差別的な意見記事の掲載を受け……わたしたちはディアボーン市全域で警備体制を強化しました。単なる無責任なジャーナリズムという問題ではありません。このような扇情的な文章が公になったことで、わが市の住民が危害を加えられるリスクが高まったのです」

現在、米国で活発化している反アラブ感情、イスラム嫌悪、アラブ世界の悪魔化は、2001年9月11日の同時多発テロの直後に巻き起こった憎悪や敵意のレベルを超えている可能性さえある。これらは反ユダヤ主義を武器として利用する一方的なプロパガンダキャンペーンに後押しされ、アラブ人とイスラム教徒の権利の抑圧を招くとともに、イスラエル政府にかれらが求める、ガザでの集団的懲罰と虐殺の継続を認める委任状を与えるものだ。

  • レイ・ハナニア氏は受賞歴のある元シカゴ市役所政治記者兼コラムニスト。個人ウェブサイト:www.Hanania.com、X:@RayHanania
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