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イラン核協議:失敗に終わった場合の戦略は何処に?

アメリカは中東の安全保障に対する歴史的なコミットメントを放棄したのか?先週開催されたマナマ対話では、ロイド・オースティン米国防長官に多くの質問が投げかけられた。(ファイル/AFP)
アメリカは中東の安全保障に対する歴史的なコミットメントを放棄したのか?先週開催されたマナマ対話では、ロイド・オースティン米国防長官に多くの質問が投げかけられた。(ファイル/AFP)
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29 Nov 2021 11:11:03 GMT9
29 Nov 2021 11:11:03 GMT9

先週開催された、中東の安全保障に関する国際会議「マナマ対話」では、誰もがロイド・オースティン米国防長官に聞きたいことがあった。アメリカは中東の安全保障に対する歴史的なコミットメントを放棄したのか?安心させるような決まり文句を並べられたり、何万人もの軍隊が駐留していると説明されたりしても、こうした懸念は消えない。アメリカは、中東地域の戦略的脅威、特にテヘランが核の爆発能力を獲得する可能性に対処するため、必要なことを行う意思と準備があるのだろうか。

11月29日にイラン核協議が再開されることを受けて、私はマナマで会った米国政府関係者に彼らの方針を尋ねた。問題は、誰も進展を期待していない一方で、この協議が失敗に終わった場合の戦略的思考が圧倒的に不足していることだった。

ある米政府高官に、最終的に軍事的解決が必要になる可能性について尋ねたところ、彼は渋々ながら「可能性はある」と認めた。

欧州、ロシア、中国は依然として脅威の重大性を否定している。しかし、バイデン政権の外交専門家の中には、深淵を見つめ、交渉が失敗した場合に備える必要性を理解し始めている者もいるようだ。2015年の合意が復活する可能性について、米国務省イラン特使、ロバート・マリー氏はこう言い放った。「死体を蘇らせることはできません!」

米中央軍マッケンジー司令官は、交渉が失敗した場合に備え、アメリカが「他のオプション」を準備していることを認めた。「大統領は、彼らが核兵器を持つことはないと言いました。中央軍は、指示さえあれば実行できる、様々な計画を常に持っています」

イランの核戦力保持への可能性について、マッケンジー氏はこう語った。「今回、イランはその実現に手が届く場所にいます。彼らは核能力を手に入れるというアイデアを気に入っているでしょう」

テヘラン訪問に失敗したIAEAのラファエル・グロッシ氏は、イランがウランを60%まで濃縮しているという状況において、テヘランがIAEAの査察を意図的に妨害したことを受け、イランは「盲目になっている」と警告している。これは、「爆弾を作る国だけが持っている純度」だとグロッシ氏は指摘している。

イラン側の交渉の責任者アリ・バーゲリー・カニ氏は、「我々には核協議なるものは存在しない」と言って、協議の正当性を頑なに否定している。カニ氏は「非合法で非人間的な制裁」の解除を待っているという姿勢だ。イランは、アメリカの暫定的な合意に関する予測を否定している。両者が同じテーブルにつくことさえできないのに、どうして信頼形成ができるというのだろうか。

イランの政府関係者は、実現不可能な3つの条件を延々と繰り返している。即座にすべての制裁を解除すること、将来の政権がこの協定を破棄しないと保証すること、そして協定を破棄したことが間違っていたと認めることである。しかし、バイデン氏には、自分の決定を後継者に守らせる法的手段はない。協定は、アメリカの超党派的な支持を得て、イランの軍事的核戦力への道をすべて閉ざすことでしか達成できないのである。

ホワイトハウス内の報告によると、交渉が失敗した場合、政策が大きく混乱するという。特に、トランプ大統領はすでに考えられるすべてのイランの標的に制裁を加えているため、非軍事的な選択肢は効果がないと考えられる。バイデンや欧州の関係者は、最悪のシナリオを想定したくないのが本音だろう。しかし、この及び腰の態度こそが、イランの指導者たちに核開発のチャンスがあると思わせている要因なのだ。

イランの政府関係者は、実現不可能な3つの条件を延々と繰り返している。即座にすべての制裁を解除すること、将来の政権がこの協定を破棄しないと保証すること、そして協定を破棄したことが間違っていたと認めることである。しかし、バイデン氏には、自分の決定を後継者に守らせる法的手段はない。

バリア・アラムディン

元英国大使のジョン・ジェンキンス卿は、アラブニュースの優れた記事の中で次のように述べている。「問題は軍隊の数ではなく、政治的意志である。中東の紛争を後回しにすることを明らかにした政権が、イラン核合意を元の状態に戻そうとするという考えは幻想にすぎない。そしてテヘランはこのことを知っている」

イスラエルの大規模な妨害工作にもかかわらず、イランの科学者たちは、何千人もの貧しい市民が終わりのない新型コロナウイルス感染症の発生で死亡し、国の大半が水不足に陥っている今も、核開発の復活と前進に向け並々ならぬ努力を続け、計画通りに事を進めている。

情報機関の関係者によると、テヘランは破損した機器を、より高速で大量に稼働する新技術を用いた機材に交換したという。つまり、サイバー攻撃やピンポイントの破壊工作に頼ることは、イランの核開発の努力を後押しすることになる。

非公開情報ではあるが、欧米の政府関係者から聞いた話では、イスラエルは、有事の際はイランの核・弾道ミサイル能力に決定的な打撃を与え、ヒズボラの武器庫にも深刻な打撃を与えることが「100%確実」だという。

米国政府は、このような紛争に巻き込まれることを懸念している。イスラエルのナフタリ・ベネット首相は、2015年の核合意はイスラエルにとって「睡眠薬」のような役割を果たしたと述べている。前任者の過ちを繰り返さないことを誓い、イスラエルはいかなる新規の合意にも拘束されないと明言した。

イランが核能力を獲得することは、世界の安全保障に直ちに影響を及ぼす。北朝鮮同様、イランが弾道ミサイルや核兵器を近隣諸国に降らせる可能性が出てくるため、世界はイランの攻撃に対し、非常に慎重な対応が迫られることになる。

北朝鮮とは異なり、イランは中東地域全体に息のかかった戦闘部隊を展開しており、それらがイランの「核の傘」に守られて平然と行動する可能性がある。これは、世界で最も慢性的に不安定なこの地域におけるハルマゲドンのレシピとなる。

米国のジレンマは単純である。イランが核兵器の開発に執念を燃やし、世界が本気でイランを阻止しようとするならば、最終的には、核施設を永久に破壊するための「外科手術的」な攻撃など、何らかの形で軍事力を行使する以外の選択肢はないかもしれない。この問題を解決する治療薬は、甘い砂糖で包むことはできない。

イランのアヤトラ(指導者)たちは、自分たちが協議を妨害しながら、隠れて核の爆発能力を得られるというような幻想は抱いていないだろう。

西側の曖昧さと甘さが、事態を悪化させている。イランにははっきりと、そして力強く言わなければならない。もしあなたがこの道を進むなら、我々はあなたを止める、と。

  • バリア・アラムディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。

 

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