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期待される中東の新たな外交の流れ

リヤドのイラン大使館再開を祝う式典に出席するサウジアラビアとイランの政府関係者(File/AFP)
リヤドのイラン大使館再開を祝う式典に出席するサウジアラビアとイランの政府関係者(File/AFP)
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09 Jun 2023 01:06:22 GMT9
09 Jun 2023 01:06:22 GMT9

中東の最新動向から、ある新しいトレンドが明らかになってきている。すなわち、中東は外交政策を重視し始めてから、より安定した、豊かな地域になってきているのである。この大きな変化は、世界の列強各国および国際社会全体によって支持されるべきだ。

2000年から2020年まで、中東ではいくつもの大規模な紛争が発生し、不安定で危険の蔓延した状態が続いていた。アメリカのイラク侵攻をきっかけに、イラクではテロ組織とシーア派民兵との間で何年にもわたる内戦が繰り広げられた。これによって中東の各国および非国家主体の間には緊張が引き起こされた。シリアでも、内戦によって数々の集団が対立した。

こうした出来事によって、中東諸国間の微妙なパワーバランスは壊されたきたのだ。対立に振り回されるこうした時代において、戦いに勝つ唯一の方法は軍事的手段に訴えることのように見えた。だが過去20年の証拠が示すように、軍事化、政治的対立および代理グループに対する支援は、緊張を緩和するどころかかえって地域を不安定にし、全ての人を危険に晒すものだ。

しかし、湾岸諸国が主導して外交と対話によって中東の安定化に努め、平和を実現しようとし始めてから、そうした動向は変わりつつある。この外交ミッションは、中東に平和と安全をもたらし、全ての国が発展していける平和な環境を実現しようとするサウジのムハンマド·ビン·サルマン皇太子によってによって強く支援、推進されている。

外交重視の政策とエスカレーション抑止戦略は、関係諸国に強力なインセンティブが与えられた時に大きな効果を発揮しやすい、というのは特筆すべきことだ。こうしたインセンティブは政治的な場合もあれば、経済的な場合もある。

最近の例としては、サウジアラビアを筆頭とする湾岸諸国がイラン政府との関係をめぐって外交手段に打って出たことが挙げられる。今回のサウジとイランの合意には中国の仲介があったものの、サウジの果たした重要な役割は無視すべきではない。

湾岸諸国は中東諸国の安定化、平和と安全の実現にあたって、強力なリーダーシップを発揮したのである。

マジッド·ラフィザデ博士

戦略国際問題研究所の中東プログラムを指揮するジョン·オルターマン氏は以下のように指摘している。「アメリカは、中国に注目するあまり、この合意の最も重要な部分、すなわちサウジアラビアの中東における役割の変化を見逃してしまう危険性があります。サウジアラビアが一週間にわたって見せたスムーズでまとまりある外交的立ち回りは、同国が外交に長けているだけでなく、外交において独創的であることを示しました。アメリカで一般的なサウジアラビアのイメージは、アメリカの提供する安全保障をほとんど受動的に享受する国、といったものです。この合意によってサウジアラビアは、これまで何十年にもわたる受動的な姿勢を捨て、無視できない外交力を持つことを証明しました」

他にも、5月にはシリアに対して外交的な働きかけが行われた。アラブ連盟は10年以上にわたるシリアの参加資格の凍結を解除し、連盟復帰を認めた。サウジアラビア外務省によると、この動きの目的は、アラブ連盟参加諸国の外相らが「シリア危機の波及を終わらせ、シリアの統一、安全、安定およびアラブのアイデンティティを確保、アラブの一員に戻ることを歓迎し、同胞の利益を達成するための政治的解決に向けた努力について協議·議論した」中で示されたという。

最近のこうした外交的な動きがもたらしたポジティブな結果は、国際社会にもすでにいくつか明らかになっている。ウォール·ストリート·ジャーナルによると、イラン政府はフーシの武装解除に合意した。また、イランと他の湾岸諸国との緊張も緩和されたようにみえ、中東の安全は一段と強化された。サウジとイランの関係改善を受け、イラン政府はバーレーンなど複数の国との関係改善にも取り組み始めた。

湾岸諸国の外交、対立緩和、エスカレーション抑止を強調する姿勢の影響は、中東以外の地域にまでも見られる。例として、サウジアラビアとアラブ首長国連邦は昨年、アメリカ·ロシア間の囚人交換の実現にあたって大きな仲介役を果たした。サウジとアラブ首長国連邦の外務省は共同声明の中で、両国の努力は、アメリカの有名なバスケットボールプレイヤーのブリトニー·グライナー氏を含む二人の囚人の釈放·交換を達成する形で実を結んだ、と発表した。

国家間に対話や外交関係がないと、互いに不信感を募らせ、誤解、緊張、対立、ひいては戦争を引き起こす、といった意図しない結果を生みかねない。また、外交努力の中には一定期間しか効果を持たないものもある。外交重視の政策が長期にわたって持続可能であるためには、交渉や条約の締結を行う国家レベルの政府関係者だけでなく、それ以上に一般市民のためになることが重要だ。一般市民が外交、エスカレーション抑止、対立緩和を重視する政策のメリットを知れば、国際関係の改善に向けた努力はより長期にわたって持続され、結果を出しやすくなる。

だからこそ、中東の経済的に豊かな国がそうでない近隣諸国に投資することが非常に重要なのだ。他国、特に近隣諸国と良好な関係および外交関係を保つことによる経済的なメリットは計り知れない。例として、安定した国はより多くの投資と観光客を得られ、それによって経済発展が大きく促進され、一般市民および中小企業、大企業にも収益をもたらす。

一言で言えば、外交はエスカレーション抑止、中東地域の安定·安全化、中東諸国全ての更なる繁栄のカギなのである。経済的·政治的インセンティブは、外交重視の政策が効果的かつ持続可能なものとして実を結ぶための中核をなす柱である。

  • マジッド·ラフィザデ博士は、ハーバード大学で学んだイラン系アメリカ人政治科学者。Twitter: @Dr_Rafizadeh
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