クリエイティブ・コンテンツ産業は世界的に空前の活況を呈している。コンテンツは増え続け、その質も充実しており、その中から自分の好きなものを選ぶのは容易なことではない。

しかし、こうした活況のおかげで思いがけず、エンターテイメント、教育、そして文化的な表現が見事に描かれたクリエイティブな作品に出くわすことがあるの。そのため、アラブ地域として高い目線で独自のビジョンを持ち、有望な芸術表現やコンテンポラリー・ソーシャル・ナラティブをコンテンツ中心的な制作活動に導いていくことがとても重要である。

クリエイティビティは映画やテレビ、音楽、出版、ゲーム、パフォーミングアーツ、知識情報産業などに活力を与えるコンテンツの流れを生み出す鍵だ。経済的な観点からは、多様化を嗜好し、地元の才能ある人々への雇用機会の創出やファンを中心とするコミュニティーからの観光客の誘致を狙い、グローバル市場への輸出による巨大な可能性の収益化を目指す経済環境で、これらの産業は莫大な収益を上げる可能性がある。

また、地域の文化遺産をアピールしたり、重要な事案への意識を高めたり、個人の前向きな変化を促進したりという影響力のある役割も果たし得る。このクリエイティブの波を活用するべく各国の政府が行動を起こしている。特に韓国と日本は卓越したクリエイティブ大国の好例だ。

韓国のクリエイティブ・コンテンツには世界中からの注目と称賛が続いており、最近もビデオストリーミング業のNetflixが同国の映画・テレビ番組に今後４年間で25億ドル投資することを発表したほどだ。

近年いくつもの韓国の作品がストリーミング・チャートに上位入りし、そのうち3つの作品 – 「イカゲーム」、「ザ・グローリー」、「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」がNetflixの「英語以外のテレビ番組で最も視聴されている10作品」にランクインしている。一方、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」は2020年のオスカーで栄えある最優秀作品賞を英語以外の作品としては史上初めて受賞して新たな歴史を作った。

最近の韓国文化体育観光部の報告書は同国クリエイティブ・コンテンツ産業の盛況ぶりをよく示している。2021年にはなんと総収益は1,070億ドルにも達し、2016年から2020年にかけての年平均成長率は4.9%だった。輸出額は124億5千万ドルに増加した。

韓国のクリエイティブ・コンテンツ産業では約10万9000の企業が活動中で、61万1000人を雇用している。クリエイティブ・コンテンツの創作、資金調達、制作、流通、海外進出を支援する公的政策、最先端技術や新進気鋭の才能の育成への投資などの複数の要素の組み合わせが、この成功の要因として評価されている。

日本のクリエイティブ・コンテンツ産業は、その革新的で個性的なスタイルと熱狂的なファン層のおかげで、長年にわたり国内外で絶大な人気を博してきた。その最前線にあるのがアニメ（アニメーション）、マンガ（コミック）、ビデオゲーム、音楽、映画、テレビ番組であり、これらは数々の戦略的な政策、プログラム、イベントに支えられ同国の経済に大きく貢献している。

例えば、日本の最高峰のゲーム、アニメ、マンガ、音楽、映画、ファッションを発信するコ・フェスタ（JAPAN国際コンテンツフェスティバル）や2013年に設立された官民パートナーシップであるクールジャパンファンドがある。同ファンドは、日本のライフスタイルや文化を反映していたり同国のクリエイティブ・コンテンツ産業の原動力である才能やイマジネーションが感じられるようなユニークな製品やサービスをプロモーションしている。

2022年には日本政府はWeb3.0とメタバースにおけるコンテンツクリエイターの役割を探る研究プロジェクトを立ち上げた。

中東・北アフリカ地域も同様に、創造的なインスピレーションの源となる豊かな歴史的・文化的遺産を有しており、近年では多くのアラブ諸国がさまざまな芸術活動や創造的プラットフォームへの支援を拡大している。例えば、サウジアラビアによる紅海映画基金への戦略的投資やゲーム産業への380億ドルの投資、あるいはエミレーツ文学財団の設立などが挙げられる。

アラブの才能はその芸術的ビジョンの実現に向けた十分な支援があればクリエイティブ・コンテンツ界の最前線に立つポテンシャルがある。

サラ・アル=ムッラ

これらのセクターにおける明らかな隆盛を踏まえ、アラブ諸国の政府の政策もこれらセクターの成長と発展に取り組むよう調整するべきだ。クリエイティブ・コンテンツ産業の発展を主導する専門機関を設立することは賢明な判断だろう。なぜなら専門機関としてこのセクターを有力なものに育てていくことに集中できるし、重要なトレンドや業績統計も監視できるからだ。このセクターに特化した一連の基金、助成金、奨励金の導入は良質なコンテンツ開発の妨げとなり得る財政的な制約を緩和し、才能ある人材が創造的なプロセスに集中するのに役立つだろう。

また、世界水準のスタジオ、才能ある人材のインキュベーター、革新的なデジタル技術、コワーキングスペースへの投資も重要だ。同時に政府は、できるだけ多くの人々がアラブ地域のデジタル・コンテンツにアクセスしやすくなるよう、どこでもブロードバンドが利用できるような環境整備を目指すべきだ。知的財産権を保護し、公正な賃金、適正な労働時間、職業安全を確保するための規制強化も必要だ。

おそらく、この観点で最も重要な投資はさまざまな役割を担うクリエイティブ人材の育成だろう。そうした人材こそが商業プロジェクト成功の鍵となるからだ。初等教育からその後の大学や専門学校での芸術教育までを一貫性のあるものにしていくことはクリエイティブな分野に従事し、成功するために必要な興味、知識、スキルを啓発していく上で根本的な土台であり、重点的に取り組むべきだ。

想像力、好奇心、構想力、情緒的知性、寛容さ、ストーリーテリング、チームワークなどの「ソフトスキル」の育成には特別な注意を払うべきだ。なぜなら無限の創造性をかき立て、本物への道を切り開くのはそうしたものだからだ。また、有望な才能を発掘するために教育機関に人材スカウトを戦略的に配置することも重要だ。

一方、政府機関は、地元で制作されたクリエイティブ・コンテンツのポジショニングや輸出、その独特の魅力を世界に向けて発信したりターゲット顧客を広げるといった影響力のある役割を果たすことができる。

さらに、学生や社会人を対象とした異文化交流プログラムは協力しあえる人脈の形成や多様な考え方の表明を促進させることになり、プログラムに参加した者の想像力を大胆に解き放ち、新たな視点の探究を促すことになるだろう。

同様に、クリエイティブ・コンテンツ産業の作品を紹介するフェスティバル、ブックフェア、トレードショーやその他の関連イベントの開催は、関係者間のネットワーキングの機会を創出する上で重要だ。

アラブの才能はその芸術的ビジョンの実現に向けた十分な支援があればクリエイティブ・コンテンツ界の最前線に立つポテンシャルがある。この分野における数多くのエキサイティングな成長や、無尽蔵とも思える需要を踏まえると、アラブ諸国の政府がクリエイティブ・コンテンツ産業の世界的な主要拠点となるための方法を検討することがますます重要になっている。

• サラ・アル=ムッラ氏はアラブ首長国連邦の公務員で、人材開発政策と児童文学に関心を寄せている。連絡先はwww.amorelicious.com