Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

新型コロナウイルスの最新変異株について、どの程度懸念すべきなのか?

各国政府は、公衆衛生の水準を維持し、過去に一度、無防備な人々を感染させてしまった疾患から国民を守らなければならない(AFP)
各国政府は、公衆衛生の水準を維持し、過去に一度、無防備な人々を感染させてしまった疾患から国民を守らなければならない(AFP)
Short Url:
31 Aug 2023 08:08:15 GMT9
31 Aug 2023 08:08:15 GMT9

私は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を想起する度に、ワクチンも無く誰もが感染する事に怯えながら暮らしていた大流行初期の記憶と辛い気持ちを思い出さずにはいられない。

世界が新型コロナ禍の脅威と忌まわしい記憶を歴史書のページの間に隠してしまおうと努め続ける一方、最近、この感染症の感染者数が増加しているとの報告があった。科学者らは、世界中で懸念されている新たな変異株を既に特定している。

誰もが、とりわけ政府関係者や保健当局が懸念していることは、COVID-19の新たな波が世界を再び混乱に陥れる可能性があるのか否かだ。特に北半球の多くの国々では、寒冷な時季になると、通常の季節性インフルエンザの流行に加えて、毎年のようにCOVID-19の感染が急増するため、脆弱な状態の人々が危険にさらされ、限界を来しつつある国家保健制度がさらなる負担を強いられる事態も発生し得る。

COVID-19は世界的にはかなり抑制されている。中国の感染予防措置解除から数ヶ月後の最近になってその後を追った北朝鮮は、世界で最も遅く行動制限から解放された国となった。しかし、世界の各所では、感染率と入院率が増加し始めている。

米国の保健当局は、新たに検出された懸念すべき変異株について警告を発している。これを受けて、医療専門家たちは、致死率が決して低くはないこの感染症の危険性を軽減するために、高リスクのグループの人々の公共の場でのマスクの着用といった予防措置を復旧する必要性を再度強調している。

米国疾病予防管理センターは、BA.2.86という新種の変異株が廃水の定期検査により発見されたと発表した。世界保健機関(WHO)によると、この米国の発表は、南アフリカやスイス、イスラエル、デンマーク、英国からの同様の報告に続くものであるという。このオミクロンの新型株は、2023年の大半を通して優勢だったXBB.1.5との比較では、ウイルスとしての主要部分に35以上の変異があるという。

誰もが懸念していることは、COVID-19の新たな波が世界を再び混乱に陥れる可能性があるのか否かだ。

モハメド・チェバロ

この新しい変異株の毒性や蔓延状況を把握するのには依然時期尚早の段階ではあるが、大多数の国で、感染の増加や重症化、入院率の上昇の兆候が注意深く監視されている。現時点では、感染数の増加は明らかに警告を要する水準には達していない。

とはいえ、英国政府の最新の統計によると、COVID-19の症例数は最近数週間で倍増している。この統計では、8月11日時点でイングランド国内での症例数は875件、その1ヶ月前には449件だった。入院者数は、1週間で20%増加した。英国の保健機関は、また、8月12日までの1週間でイングランド国内の6,500地域の内589地域で少なくとも3件のCOVID症例が見つかったとも報告している。

専門家らは、新型コロナウイルスが変異して弱毒化し事実上脅威ではなくなる可能性はあるものの、その感染力と毒性が強まり現行のワクチンを無効化してしまう可能性もあると警告してきた。

製薬企業が新たな変異株に対応するよう自社開発のワクチンに部分的な改造を施すことは可能ではあるだろうが、脅威の減少に伴うテストやデータ収集の水準の低下が盲点の発生に結果し、それが準備の程度や対応措置の迅速性に悪影響を及ぼす可能性がある。

有効な現行データ無しにCOVID-19の進化予測を行おうとすることは有害たり得る。定期的なブースター接種無しでは、ワクチン接種を受けた人々の免疫力は時間と共に減衰してしまう。そして、現在高い効力を発揮しているワクチンであっても、新たな変異株が発生した場合にその効果が維持されるという保証は無い。

秋季への移行に伴う気候の冷涼化や、夏休みの終了による学校への児童生徒の復帰、リモートワークを多くの雇用主が削減したことによるオフィスへの従業員の回帰の増加傾向といった要因が加わると、新型コロナウイルスの増加を促す基盤が構築され、新たな変異が引き起こされるリスクが高まる。

現在、ほとんどの国で政府当局はコスト圧力に対峙しているが、それでもなお、公衆衛生の維持という義務は怠ってはならない。

モハメド・チェバロ

そのため、専門家らは、継続的なリスクへの注意を促すための啓蒙活動を復活するよう提言しており、公共の場において、少なくともウイルスの影響に対して特に脆弱な人々に、また、医療現場において、マスクを着用するよう改めて呼びかけを行っている。

私が先日飛行機を利用した際、4時間のフライト中に自身だけでなく他の人々をもウイルス感染から守るためにマスクを着用していたのは、私を含めて5人だけだった。

専門家らは、また、現在よりも広範で効果的な検査とデータ収集に回帰するか、少なくとも新型コロナウイルスの進化とその地域社会への影響を示す有用な指標となり得る廃水の分析といった安価な手法を活用する必要があると強く提言している。

現在、ほとんどの国で政府当局はコスト圧力に対峙しているが、それでもなお、公衆衛生の維持という義務は怠ってはならない。各国政府は、過去に一度、無防備な人々を感染させてしまった疾患から国民を守らなければならないのだ。そのために、多種多様な選択肢がすぐにでも利用可能な状態にある。例えば、年齢や健康状態に応じて接種資格を調整したワクチン接種の再開や、検査とモニタリングの強化である。この2つの分野は、これまでに大幅に縮小されてきている。モニタリングは、危険な傾向の発現に備えるための重要な早期警戒システムの基盤となる。

一般の人々が感染症対策の支援として何ができるのだろうか。新型コロナウイルスや他のウイルスの感染拡大を抑制するための簡単な予防措置が依然として重要な方策である。私たちは、皆、新型コロナ禍の最悪の事態を世界は既に経験したのだと考えたがっている。それを現実とするためには、COVID-19が再流行し得る機会を作ってはならないのである。

  • モハメド・チェバロ氏は、レバノン系イギリス人のジャーナリスト、メディア・コンサルタント、メディア関連トレーナーで、戦争やテロ、防衛、時事問題、外交などについて25年以上にわたって取材してきた。
特に人気
オススメ

return to top