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常に変化するトルコの外交政策を理解する

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、アンカラでの与党の公正発展党(AKP)臨時総会にて。(ロイター通信社)
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、アンカラでの与党の公正発展党(AKP)臨時総会にて。(ロイター通信社)
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23 Feb 2020 12:02:39 GMT9
23 Feb 2020 12:02:39 GMT9

17世紀にフランスの哲学者、ブレーズ・パスカルは彼の著書の一冊の冒頭に次の文を引用した:“Vérité en-deçà des Pyrenées, erreur au-delà.” これは「ピレネー山脈(フランスとスペインの国境沿いに連なる山脈)のこちら側での真理があちら側では誤りになる」と翻訳される。

別の言い方をすれば、この引用文 ― フランス・ルネサンス期の最も著名な哲学者の一人、ミシェル・ド・モンテーニュの言明を基にしている ― は、ある人々には良い、正しいことでも、他の人々には悪い、間違っていることかもしれない、という意味だ。

トルコの外交政策の戦略についての与野党の声明を聞いたり、読んだりすると、この有名な引用文がふと頭に浮かぶ。つまり、与党の公正発展党(AKP)にとって正しいことが、実に、最大野党の共和人民党(CHP)にとっては間違いになる。

2010年にチュニジアで始まった反政府抗議運動の波は近隣諸国に連鎖反応し、エジプト、チュニジア、イエメン、リビアの各政権が崩壊するという結果になった。そして今度はシリアであり、この地域や世界にとって大きな課題となっている。

シリア内戦は始まって以来3月14日で丸9年が経過することになり、現在まで380,000人以上が死亡し、何百万人もの人々が難民となっている。また、この内戦はAKPにとって対外政策と内政上の最も厳しい試練になり、野党の政府批判は主にこの問題に集中している。

先週、CHPのケマル・クルチダルオール党首は、何年にも及ぶ地域紛争を終結させる地域的組織を設立することにより中東の平和と安定をもたらすと誓った。

「私たちは中東に“平和と協力のための組織”を設立する」と彼は党の会合で述べた。「トルコ、イラン、イラク、シリアはこの組織の下で団結する。組織は言うだろう、“私たちの地域で代理戦争は望まない。私たちは協力して私たちの問題を解決する”と。」

また、クルチダルオール氏は、AKP政府はトルコと近隣諸国との結束を阻害し、中東に影響力を拡大する隙を世界の大国に与えていると強く批判した。

「この組織は“私たちは大国の道具にはなりたくない。私たちは理性のある政策によって平和を築く”と言うことによって、その存在意義が明らかになるだろう」と彼は付け加えた。

CHPの党首が政府を非難し、「自国に平和を、世界に平和を」というモットーの下に、地域に平和をもたらすと誓ったのはこれが最初ではない。このような組織の結成を彼が提案したのも、これが初めてではない。これは目新しい考えではない。トルコの中東政策は建国者のムスタファ・ケマル・アタテュルクに始まり、その地域政策が頂点に達したのは、1937年にトルコ、イラン、イラク、アフガニスタンの間でサーダバード条約として知られる非侵略協定に調印がなされた時だった。

従って、CHPの提案はこの古い地域合意にルーツをたどることができる。CHPが地域に平和をもたらすことができるかどうかは、私がこの記事で考えたい問題ではない。同党の先ごろの批判は、トルコがイドリブでいくつもの厳しい挑戦に向き合っている時に起こり、アブドゥラー・ギュル元大統領や、アフメト・ダウトオール元首相などAKPの元支持者が政府の外交政策の考え方について声明を出したのと同時だった。

外交政策はトルコでは、すべての党の最優先事項の一つになっている。トルコの歴史の中で国内政治が外交政策と深く絡まりあった一時期、AKPの時代がまさにこのような結果を生んだ。トルコの最近の外交政策は外的要因だけではなく、内的事情によっても決まることが多い。従って、国内の考慮すべき問題は、外交政策に重大な関りを持ち、逆もまた同じだ。また、外交政策問題についての世論も、外交政策決定プロセスに重要な役割を担っている。

イスタンブールのカディル・ハス大学が行った年次調査「トルコの外交政策に対する国民一般の認識」によると、回答者の42.1%は、トルコはシリアでは不干渉政策を追求し、干渉すべきではないと考え、13.3%のみがトルコは難民を救うべきだと答えた。難民に対するトルコの最近の政策について尋ねられると、調査対象の57.6%が、トルコは難民を受け入れるのを止めるべきだと答え、7%のみがすでにトルコに入国しているシリア人に友好的なようだ。

トルコは360万人のシリア人を受け入れており、野党各党は莫大な経済的、社会的、安全保障上の負担が生じているとAKPの難民政策を非難している。

トルコは360万人のシリア人を受け入れており、野党各党は莫大な経済的、社会的、安全保障上の負担が生じているとAKPの難民政策を非難している。

シネム・センギス

AKPは2002年から政権に就いたので、この期間に相当変化した外交政策への取り組み方について正確に説明するには、3つの時期に分けることが必要だ。2002年~2010年までは、AKPはより欧米寄りの政策をとり、中東諸国に対しリベラルな政策を推進し、中東諸国はトルコと積極的な関係を享受した。

2010年にアラブの騒乱が始まり、第2の時期の始まりとなり、政府は政治的イスラムを推進する政策を採った。2015年のインタビューで、アブドゥラー・ギュル前大統領は政治的イスラムはこの地域では崩壊したと主張した。

2015年から始まる第3の時期には、トルコは特にシリアでは、ソフト・パワー(文化や政治的価値観、政策の魅力など)のみのアプローチよりも、(武力行使、経済制裁などの)ハード・パワー政策を採った。これらそれぞれの外交政策はすべて厳しい批判を浴びた。

トルコへの圧力を増す対外事情とトルコ国内の分裂の両方が、約20年間、現行政府の外交政策の形成に重要な役割を果たしてきた。野党各党が政府の外交政策を批判し続ける中で、第4の時期に入ったように思える。イドリブ、リビア、米国やロシアとトルコの関係、難民問題、キプロスなどいくつかの前線で状況が悪化しているため、これまでで最も厳しい時期のようだ。

シネム・センギスは、トルコの中東との関係を専門とするトルコの政治アナリストです。ツイッター:@SinemCngz

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