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イランの戦争行為を黙殺してはならない

サウジアラビアのアブカイクにあるサウジアラムコの石油施設、被害を受けた場所では損害を受けた戦車の金属パーツが見つかっている。(ロイター)
サウジアラビアのアブカイクにあるサウジアラムコの石油施設、被害を受けた場所では損害を受けた戦車の金属パーツが見つかっている。(ロイター)
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22 Sep 2019 05:09:50 GMT9
22 Sep 2019 05:09:50 GMT9

アラムコの石油施設に先週加えられた攻撃はサウジアラビアを主な標的としたものではない。文明世界とその経済上の生命線に対する侵略行為に相当するものだった。今年に入ってからすでに、イランはノルウェーや日本といった中立国が所有する石油タンカーを攻撃している。イラン政府によるホルムズ海峡封鎖の警告も同じく、世界のエネルギー供給を妨害するだけの力がイランにあることを示す目的で入念に計画されたものだ。

中国、ロシア、ヨーロッパ諸国は現在の状況の深刻化をドナルド・トランプ大統領による問題だと考え、のん気に構えている。米政府による封じ込め政策の欠陥が一因であることは確かだ。しかし、イランの行っている攻撃的な拡張政策、民兵による代理戦争への資金提供、テロ行為は全てトランプ大統領の就任に先行して起きている。このような活動の激化は主として、2015年の核合意が抱える欠陥に起因する。この合意はイラン政府が好戦的行為に利用できる資金を激増させた。そして、イランの地域的謀略に目をつぶるという代償を払って得られたものだった。

トランプ大統領を責めることで心の安寧は得られても、私たちが安全を得ることはない。イランの好戦性は世界の問題だ。果断な処置を講ずるか、それともイラン政府が国際経済に対して加える次の攻撃を待つかのどちらかだ。米国による「最大限の圧力」戦略が国連安全保障理事会の主要国、特にロシアと中国からの支援なしで成功する見込みはない。それらの国々がイラン政府への対抗策に拒否権を行使するのは確実と見られる。そのうえ、中国やインドといった国は、サウジアラビアの石油供給への脅威によって過大な影響を受けるにもかかわらず、イランとの取引を継続している。その一方、ヨーロッパの宥和政策を支持する国々はイラン政府の制裁回避を支援しながら、その多数の代理民兵の存在は頑なに無視していた。ロシアはイランによるシリアでの民兵戦略に長らく加担している。

近隣国の経済インフラに対するいわれのない攻撃は定義からして侵略行為にあたるというのに、世界中のどこからも具体的な反応が見られない。大使の引き上げといった象徴的行動すらない。

「遺憾」や「非難」の表明は無益どころか有害ですらある。そういった言葉は何もしないことの言い訳と見なされるためだ。イランの指導者らは自分たちが何の咎めも受けないと容易には信じないとしても、大喜びしているに違いない。

第二次世界大戦後の国際機関は加盟国の主権および統合の保護を目的としている。国境を越えた侵略行為などもっての外だ。1990年のサッダーム・フセインによるクウェート侵攻ではほぼ一致した世界の報復が見られたし、ウラジーミル・プーチンでさえも2014年のロシアによるクリミア併合によってG8を即座に追放されてしまった。

制裁措置を多国間で実施することに失敗すると、侵略国がその行動に対する事実上の見返りを獲得する。また、他の無法国家は後に続くチャンスをつかむことになる。断固たる強制力があり、普遍的に尊重される国際基準の破壊は私たちに弱肉強食の世界をもたらし、このグローバル化した相互依存的世界に対して壊滅的なコストを負わせる。

トランプ大統領は考え得る限り最悪のタイミングでイラン戦略に躊躇している。一方、マイク・ポンペオ国務長官は不可解なことに、もごもごと「平和的な解決策」の追求について語っている。文明的な交渉や平和的解決策というものは自ら平和を希求する誠実かつ正直な対話者と向き合っている場合にしか実現しない。イラン政府の指導者らはこういった基準を満たしていない。

新たな制裁がトランプ大統領の用意しているいくつかの選択肢の一つに過ぎないのであれば、この集団的な責任放棄が招くのはイラン側がさらにエスカレートする事態だ。単純に米軍をこの地域に増派するだけではドローン攻撃の妨害に何の役割も果たさない。ガーセム・ソレイマーニー司令官にさらなる攻撃目標を与えるだけだ。

誰も戦争は望んでいない。だが、イランの拡張主義的外交政策は同国が罰せられることなく済ませている行為を前提としている。タンカーやドローンに対する比較的ささやかな攻撃がこの夏には、世界の石油生産におけるかなりの割合を担っているインフラを標的にしたものへと急速に過激化した。

バッシャール・アル=アサド大統領が化学兵器に関する「越えてはならない一線」を踏みにじった際にバラク・オバマ前大統領が思い知ったとおり、抑止力とは重大な結果が起きると信じられていることが裏付けとなっている時にしか機能しない。トランプ大統領が中東への軍事関与に対して露骨な反感を示している状況は両手を後ろ手に縛られた状態で銃撃戦に加わるに等しい。

トランプ大統領はサウジアラビアがつけを支払うことを強いるような発言をしている。だが、これはサウジ政府による対立ではない。湾岸諸国は国際社会がイラン封じ込めを失敗していることのつけを支払っており、理不尽な侵略に直面しながらも称賛に値する自制心を発揮している。石油タンカーおよび石油生産施設を狙った容赦のない攻撃は、浅いアラビア湾岸の水域に対しても、標的とされた場所周辺の市民や自然環境に対しても、環境の激変をもたらすかもしれない。

イラン第一の広告塔、モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ<t0/><t1/>外務大臣は国際メディアに対し、ほほえみながら何度も何度も嘘を繰り返しつつ、「全面戦争」という言葉で威嚇し、イランには「アメリカの兵士が最後にの一人になるまで」戦う用意があると啖呵を切っている。イランの指導者らが激しい言葉を使うのは彼らが追い詰められ、崖っぷちに立たされている状態であり、失うものもないためだ。イランを地域で最上位の大国として扱うべきではない。イランは近隣諸国を煩わせるささいな存在でありながら、宥和政策という一連の未熟な試みによって、国際的な脅威にまで変貌することを許されてきたのだ。

1930年代のヨーロッパの指導者らの譲歩がナチスドイツとの世界的な敵対に至ったのとちょうど同じように、今日、極めて破滅的な戦争を回避するためにはミサイル基地、軍用品、代理民兵、あるいは軍事的核施設に至るまで、イランの戦争遂行能力を徹底的に減じるしかない。断固とした対応が紛争を引き起こす可能性を危惧するコメンテーターもいる。むしろ、慎重に調整された多国間による対応こそが全面戦争を防ぐ唯一の手段かもしれない。

確固たる首尾一貫した国際的対応の喚起にはかなりの政治的な意志が必要となる。だが、国際システムの完全性を保護することに失敗すれば、伝染する不安定さ、エネルギー安全保障への脅威に対する膨大なコストがもたらされる。

イランによる侵略の脅威を無力化できるのであれば、トランプ大統領は自らの多国間協調主義への嫌悪感を克服しなければならないし、他の世界の指導者たちもトランプ嫌いを克服しなければならない。NATO、EU、アラブ連盟やその他の世界規模の団体は共通の脅威に対する重要な解決策を描くために団結しなければならない。今度の国連総会は加盟国が一つにまとまるための最高のタイミングとなり得るだろう。

現代の外交交渉はゼロサムゲームとして不当に扱われることが多い。だが、ロシアも、アジアも、ヨーロッパも、テロや好戦的行為をいとわない「ならず者国家」が国際的な安定性を弱体化させる可能性に等しく脅かされている。全世界の経済は、石油施設と供給ルートへの攻撃によって危険にさらされている。

私たちが今日、たった一国の平和を愛する国連加盟国の領土保全を守ることに失敗すれば、明日には私たち自身の国が国際法と集団安全保障というシステムの崩壊によって危機にひんすることになるだろう。

バリア・アラムディン<t2/>は中東およびイギリスで受賞歴のあるジャーナリスト、アナウンサーである。アラムディン氏は Media Services Syndicate の編集長で、数多くの国家元首に対してインタビューを行ってきた。

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