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コロナ陰謀論を暴く

飛行機でイギリスに入国する人に対し、コロナウイルスについて警告する掲示板の前を通る女性(2020年1月28日ロンドン・ヒースロー空港で撮影、フランス通信社)
飛行機でイギリスに入国する人に対し、コロナウイルスについて警告する掲示板の前を通る女性(2020年1月28日ロンドン・ヒースロー空港で撮影、フランス通信社)
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18 Apr 2020 11:04:03 GMT9
18 Apr 2020 11:04:03 GMT9

カレド・アブ・ザール

コロナウイルスの世界規模での急速な感染拡大に伴い、ソーシャルメディア上では根も葉もない噂や陰謀論が飛び交うようになった。人々が自宅待機を強いられる中、WhatsAppやTikTokといった通信ネットワークは、根拠の薄弱な風説やでたらめな主張を広げる絶好の媒体となっている。

最も早期に現れた陰謀論の一つは、高額なワクチンを販売して利益を得るため、アメリカが2014年にコロナウイルスを開発し、その特許を取得していたというものだ。

Arab TVの有名司会者を含む世界中の有象無象の人々が、ソーシャルメディアでこの風説を拡散した。「コロナウイルス」という記載のある特許書の冒頭頁の印刷を添付して、それにまつわる話をでっち上げるというのがそのやり方である。

ほんの数分でも時間を割いて調べてみれば、それが鳥から卵に感染する別種のコロナウイルスに対するワクチンについての特許書であり、養鶏業向けに作られたものであることはわかる。

この情報をシェアした人は何百万にも及ぶはずだが、正誤を確認したり、虚偽性を指摘したりした人はごくわずかだ。筆者の下にも、フランス語からアラビア語まで、様々な形式と言語で書かれた同内容の記事が世界中から届いた。また他にも似たようなものを受け取り、ウイルスの影響で時間も有ったので、何時間もかけてその内容と主張の馬鹿馬鹿しさを立証した。よって以下に紹介することとする。

あるケースでは、ソーシャルメディアの著名人らが、米政府、もしくは諜報機関が十年以上前に作成したパンデミックについてのレポートを紹介し、例のごとくアメリカを標的とした陰謀説を開陳している。

これも蓋を開ければ単純な話だ。世界がパンデミックに襲われたのは今回が初めてではない。1918年にはスペイン風邪が何百万もの人々を死に至らしめ、2002年にはSARS、2012年にはMERS、2014年にはエボラウイルスが世界に脅威を広めた。数々の諜報機関やシンクタンクは何年にもわたり、起こりうるシナリオを予想してレポートを作り続けてきたのだ。そればかりでなく、2002年以降、報道局の多くが同様の資料を公表している。何も秘密があるわけではない。その多くはインターネット上に公開されている。

SARSの流行を受け、ブッシュ大統領は演説で大規模なアウトブレイク(感染が爆発的に広まること)が起きた場合の対応について梗概を述べたが、アメリカは今回のパンデミックで激しく打撃を受けている。それにもかかわらず陰謀論者たちは、あの手この手で事実を歪曲する。しかも驚くべきことに、まるで薬を求めるかのように、多くの人がそれに飛びついているのだ。

ある有名な陰謀論に至っては、コロナウイルスの感染拡大を、免疫力を低下させると噂される5Gネットワークの開発に結びつけている。このケースでも、専門家でないソーシャルメディアの著名人らが、5Gの利用地域とコロナウイルス感染者の分布を重ね合わせた地図を紹介する動画を拡散している。

しかし当然のことながら、関連性と因果関係を一緒くたにしてはいけない。多くの感染者が出ているイランは5Gを開設していない。オーストラリアは2019年5月から5Gの利用を始めているが、感染者が出たのは2020年になってからである。こういった事実を確認するだけで、そんないかがわしい話は出来ようもないのだ。

こういった情報を広める人は、科学者や専門家、当局を無視して、センセーショナリズムに走る。もしくは国家や著名人に対する憤懣を煽ってくれるものに飛びつく。

では、なぜこのような現象が世界中で起きるのか。国から資金提供を受けた組織が、このような風聞を広めているとでもいうのか。最も重要なことには、なぜそんなにも多くの人が陰謀説を信じるのか。さらに、どうして政府は簡単にその虚構を暴き立てることができないのか。

全ての陰謀論は同じ方式で成り立っている。正しい情報を文脈から引き離し、嘘を付け加える。そして自信あり気で知名度のある情報通が誤った分析を施せば、はい、陰謀論の出来上がり、という具合だ。挙句の果てには大手マスコミが放映し、お墨付きを与えてしまうこともある。

とはいえ、それでも人々は陰謀論を唱えるリンクや動画を信じ、拡散することを選ぶ。この惨事は「自然」に発生したのではなく、隠れた権力や悪の組織が引き起こしたものだ。コロナウイルスにより、改めてそう確信した人もいるかもしれない。恐怖とは、政治的利益を得るため、あるいは簡単に一時的な世情不安を作り出すため、陰謀論者が利用する究極の餌である。

恐怖とは、政治的利益を得るため、あるいは簡単に一時的な世情不安を作り出すため、陰謀論者が利用する究極の餌である。

カレド・アブ・ザール

陰謀論を広めようとする集団ないし個人は、世界中どこでも変わりがない。今回のパンデミック以前から、極右極左に関わらず、そうした人々は同じことをしてきたし、今後もそうし続けるだろう。疑惑の種を撒き、政府や公共機関、これまで世界に安定をもたらしてきたものの正当性を責め立てるのだ。

アメリカでは、こうした陰謀論の流布に関与しているとして、国際政治上競争関係にあるロシアと中国を非難する声が上がっている。だがその真偽に関わらず、アメリカは、世界のリーダーであり、そのバランスを保つ役割を担っている限り、今後も陰謀論者の格好の標的であり続けるだろう。

人々や指導者の間に不確実性、疑いや恐怖が広がっているこの状況は、陰謀論にとっては格好の餌場である。難しいことかもしれないが、唯一確かな解決法は、人々に常識を取り戻させ、大国同士が胸襟を開いて対話を行い、協力していくことだろう。

カレド・アブ・ザールはメディア・テック企業EurabiaCEOであり、Al-Watan Al-Arabiの編集者も務めている。

飛行機でイギリスに入国する人に対し、コロナウイルスについて警告する掲示板の前を通る女性(2020年1月28日ロンドン・ヒースロー空港で撮影、フランス通信社)

オピニオン:恐怖とは、政治的利益を得るため、あるいは簡単に一時的な世情不安を作り出すため、陰謀論者が利用する究極の餌である。カレド・アブ・ザール

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