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パンデミックに直面する女性のリーダーシップとヒロイズム

2020年4月24日、新北市のサイバーセキュリティー捜査局の除幕式に、台湾の蔡英文総統(中央)が到着する。(AFP)
2020年4月24日、新北市のサイバーセキュリティー捜査局の除幕式に、台湾の蔡英文総統(中央)が到着する。(AFP)
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27 Apr 2020 10:04:12 GMT9
27 Apr 2020 10:04:12 GMT9

私たちのほとんどは、新型コロナウイルスが重症患者の身体にどのような壊滅的影響を及ぼすのかをほとんど知らない。しかし勇敢な医療スタッフたちは、しばしば痛ましいほど不適切な防護服をまとい、毎日目の前で死を見つめている。

女性よりも男性のほうが新型コロナウイルスに感染しやすいようだとの記事が多く書かれてきた。しかしあるイタリアの研究で、働く年代の女性たちに感染リスクがより高いことがわかった。おそらくは、医療、公的介護、教育といった生活に欠かせない分野で多くの女性たちが従事しているためだと思われる。米国で新型コロナウイルスに感染した医療従業者のうちの約73%が女性である。

看護師や公的介護職の約90%が女性である。米国で女性が就いている職の3分の1は、必要不可欠な職務に指定されている(非白人女性ではこの数値はさらに高まる)。女性たちはワクチンを発見する最先端科学の分野にも数多くいるかと思えば、葬儀屋として感染の中心地で山のような遺体を情け深く処理していたりもする。

女性がリーダーである国は世界で7%に満たないにも拘らず、ニュージーランド、ドイツ、台湾、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、デンマークなど、それらの国の多くが迅速かつ効果的に感染症と戦っている国のリストで上位を占めている。これらの諸国は現在、慎重に緊急措置を緩和できる段階に最も近い位置にいる。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、(わずか6名発症後に)国境閉鎖と都市封鎖という迅速な決断と、感染を経路で断つという効果的なメッセージとで賛辞を勝ち取った。ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相も初期の都市封鎖を実行し、科学者たちに主導権を握らせた。アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相は、全国民が無料で検査を受けられるようにした。北欧諸国で唯一男性がリーダーであるスウェーデンは、学校や職場の封鎖を拒んで不評を買い、同国はその後に欧州で最も死亡率の高い国の仲間入りをしてしまった。

アンゲラ・メルケル首相(教育を受けた科学者でもある)は単刀直入ながら静かに、自分の国はまだ初期段階であり、世界有数のドイツの医療システムが近隣諸国よりも低い死亡率を維持していると発表した。台湾の蔡英文総統の迅速な取り組み(12月の段階で武漢からの航空便を検査し、健康チェックを義務付けた)が、中国と距離的に近いにも拘らずこれまでに6名の死者で済んでいるという結果につながっている。カリブ海セントマーティン島のシルベリア・ジェイコブス首相は、次のような単刀直入の公的メッセージを発信してインターネット上で話題となった。「絶対に、移動は、控えてください。もし家にお気に入りのパンがないのなら、クラッカーを食べていてください」

これらのリーダーたちは女性であるからよい働きをしたのだと主張するのは短絡すぎるとしても、女性がトップにのし上がるには極度の困難に直面するため、彼女たちが実に並外れた人物であるのは当然だと解説者たちは指摘してきた(一方でドナルド・トランプやボリス・ジョンソンのような人々は特権を持って生まれてきたのだ)。これらのリーダーたちはみな非常に優れたコミュニケーション能力を持っている。メルケル首相は親しみを込めて「ムッティ(お母さん)」と呼ばれており、一連の危機のなかでドイツを堅実に導いていると尊敬されている。

多くの男性リーダーたちが、今回の危機が自分たちにまっしぐらに向かってきていると気づくまでに、これほど長くかかったことに私は唖然とした。

バリア・アラムディン

何十年も女性リーダーたちにインタビューをしてきて、私は、彼女たちは政策決定が人に及ぼす結果に対してより同調できるのだと分かった。インディラ・ガンディーへの晩年のインタビューで彼女は、細かいことに取り組める女性たちの能力の大切さを私に何度も強調した。政治とは基本的に、競争相手に勝つことではなく、社会の最も弱い人々の生活を改善することであり、社会を短期的・長期的なリスクから守ることなのだと語った。

多くの男性リーダーたちが、今回の危機が自分たちにまっしぐらに向かってきていると気づくまでにこれほど長くかかったことに、私は唖然とした。米国は大統領選の年であり、英国はブレグジットの交渉中、そしてEUは多くの危機を抱えており、政治家たちは取るに足らない衛生管理問題に重点を置くのは気が進まないように見えた。そして危機に見舞われたとき、彼らは呆れるほどに自分たちが深みにはまってしまっていることに気づき、女性リーダーたちに数週間遅れて措置を取った。トランプ大統領が新型コロナウイルスをライバルである民主党の「でっち上げ」だと糾弾し、「奇跡のように消え去るだろう」と予言したのは周知の通りだ。彼が人体に紫外線を照射したり人に消毒剤を注射したりといった死を招く恐れのある推奨をしたことについては言うまでもない。

そうこうする間、私たちはドメスティックバイオレンスの「流行病」にも直面しており、女性たちは自分たちが虐待者とともに毎日24時間閉じ込められていることに気づいた。件数が倍増した国もあり、イラク、中南米、インドやその他の諸国で女性たちが折檻を受けたり殴られたりして死に至るというおぞましいケースが報告されている。

男女間の暴力は、新型コロナウイルス流行の前からすでに危機的レベルであり、昨年中に世界の女性の5人に1人近くが暴力を経験している。2014年のエボラ出血熱の流行の際には女性や子供たちに対する性的暴力の著しい増加が見られた。エボラ出血熱の時にはまた、妊婦に向けられるはずの医療資源が奪われたことから妊産婦の死亡も急増した。

イラク女性の約20%がドメスティックバイオレンスを経験しており、既婚女性の36%が夫からの精神的虐待を報告している。とは言え、ドメスティックバイオレンスの報告件数は実際よりも少なく、いわゆる名誉殺人は往々にして自殺として記録される。レバノン女性保護団体が並外れて多くの件数を報告している。

貧困諸国、難民キャンプ、紛争地帯の女性たちは最も被害を受けやすく、医療や清潔な水へのアクセスも限られたなか密集状態で暮らしている。実際に国連は、パンデミックによる経済的低迷からくる「聖書レベルの甚大な」食料不足を警告しており、発展途上国の何億もの人々を飢餓に追い込む恐れがあり、ウイルスそのものよりも多くの死者を出す可能性があると言っている。

アラブ諸国は医療労働への女性参加という面では世界の多くの国々に後れをとっているものの、湾岸協力会議の加盟国は急速に追いついている。女子医学生が男子医学生の人数を抜くこともしばしばあり、サウジの大学は優れた女性の医学部卒業生を毎年何千人も輩出している。

女性は世界医療労働人口の70%を占めているが、リーダー的地位に就いているのはわずか25%だ。新型コロナウイルスのチームはほぼ男性ばかりであり、最良の人材を不適格とみなし、人口の半分の着眼点を排除していることになる。このパンデミック終息後に、看護師や介護士は依然として労働人口のなかの低賃金の部類に含まれているだろうか?

新型コロナウイルスは、通常の「男性的な」政治業務をただ一時的に中断させているだけではない。我々はパンデミックの時代に突入しつつあるのかも知れない。そこでは環境や生物学的な脅威が私たちの生活様式を取り返しのつかないほど変貌させ、食糧不足、大量移民、国家崩壊、資源を巡る闘争の激化、そしてもちろんジェンダーバイオレンスも引き起こす。

その成功の記録が証明しているのであれば私たちは、21世紀に打ち寄せるこの戦略的脅威に立ち向かうべく、女性たちが適切に国家の最高レベルに送り込まれるようにしなければならない。

バリア・アラムディン氏は中東と英国で活躍する受賞歴をもつジャーナリストであり、ブロードキャスターである。メディア・サービス・シンディケートの編集者で、数々の国家元首たちにインタビューをしてきた。

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