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サウジアラビアのPIFの爆買いはパンデミックからの回復への信任投票

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19 May 2020 10:05:41 GMT9
19 May 2020 10:05:41 GMT9

私たちはその発言に注目すべきだった。サウジアラビアの公共投資ファンド(PIF)のヤセル・ルマイヤン総裁は先月のバーチャル投資家集会で、「危機を無駄にすべきではない。我々はあらゆるチャンスを検討している」と話した。

コロナウイルス伝染病(COVID-19)パンデミックが引き起こした世界的な経済の混乱の中、彼の言葉を真に受ける人はほとんどいなかった。しかし先週末、米国投資業界の監視役である米証券取引委員会(SEC)が公表したフォーム13F報告書の中で、PIFの野心が証明された。

米国当局が全ての大規模投資機関に求めるこの開示は、PIFが危機の最中も全く時間を無駄にしていなかったことを示した。事実、パンデミックによるロックダウンで経済活動が立ち往生したため世界の株式市場が急落した上半期中も、PIFは非常に活発に活動していた。

PIFは米国資産の爆買いに約77億ドルを費やした。その多くは、特に状況悪化の予測に対して影響を受けやすいと見なされていた旅行やホスピタリティ、エンターテインメントなどの分野、およびエネルギーと金融サービスが対象となった。

この開示を少し精査すると、いろいろ分かることがある。まず注目すべきは、カナディアン・ナチュラル・リソーシズやサンコー・エナジー・オブ・カナダ、および欧州のロイヤル・ダッチ・シェル、トタル、BPなど、米国外の企業への投資がいくつかあるものの、それらは全て米国預託証券(ADR)など、米国上場証券への投資の形で行われていることだ。

もう一つのポイントは、この資料は時系列を表すタイムラインではなく、瞬間を切り取ったスナップショットであることだ。PIFの証券購入時期は正確に特定されておらず、分かるのは3月末時点でのそれら証券の価値だけである。そのため、王国の国家資産ファンドがそれらの資産にいくら支払ったのか、正確に話すことはできない。

しかし、その大部分が3月初旬の数週間で購入されたと推測するのは合理的である。その時期、米国市場は約30%下落し、その後連邦当局が金融市場を安定化させるため、最初の「バズーカ」市場介入を行った。

それらが望ましい効果を上げて株は3月末から反発し、それまでの下落の半分以上を取り戻している。PIFがすでに一部の投資で含み益となっている可能性は十分にある。

PIFが選んだ銘柄は広く言って5つのカテゴリーに分類される。バンク・オブ・アメリカとシティグループは2大金融機関であり、すでに王国と企業金融および投資金融業務関係を有する金融「ブルーチップ(優良株)」と見なされている。それらは長期的に安全な投資であるが、金融市場のさらなる悪化に対して影響を受けやすい可能性がある。

PIFの爆買いは、そのポートフォリオをサウジアラビアと同国の大規模プロジェクトへの集中から脱却させるのに役立つ。

フランク・ケイン

娯楽および旅行は、ソーシャルディスタンス措置と航空機での旅行制限により大きな打撃を受けた。マリオット・インターナショナル、ブッキング・ホールディングス、およびカーニバル・クルージーズは世界的な旅行の新常態が明らかになるまで困難に直面することが明らかだが、回復の恩恵を直ちに受ける銘柄と見なすことができるかもしれない。

ディズニー・コープやライブ・ネイションなど、エンターテインメント銘柄にも同じことが当てはまる。ただし、ソーシャルディスタンスの継続や人々が密集するイベントに対して当然抱くことになる不安が理由で、パンデミック前のレベルに戻るにはより時間がかかるかもしれない。

PIFはテクノロジー分野に投資の多くを割き、オートマチック・データ・プロセッシング、IBM、クアルコム、ブロードコムなどを購入した。テクノロジーは一般的に、健康危機の長期的な勝者となると見なされている分野の1つである。

PIFによる別の大きな投資先であるボーイングは、すでに737MAX問題で苦しんでいたが、航空機の新規受注を巡る不透明感が増したことで状況がさらに悪化した。同社は防衛やテクノロジーなどその他の事業を通して、王国ではよく知られている。

エネルギー、特に独立系石油会社への投資は、一部の懐疑的な見方に火を付けた。結局のところPIFの目的は、王国の経済を多様化して石油依存から脱却させることである。しかしエネルギーはサウジアラビアが明らかに熟知している分野であり、今後の世界的なエネルギー政策におけるいくらかの影響力と、石油価格が改善した時の資本の増加をPIFにもたらす可能性がある。

ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイへの少額の投資は、危機の最中に悲観的な声と同調していたこの伝説的投資家へのしっぺ返しと見なされた。しかしPIFがこの「オマハの賢人」を支援するのも悪いことではないかもしれない。

PIFの爆買いは、そのポートフォリオをサウジアラビアと同国の大規模プロジェクトへの集中から脱却させるのに役立つ。王国に利益をもたらし、自身の多様化の野心も支援することになる長期的な国際投資は、PIF戦略の中核部分である。

しかし何よりも、77億ドルのバーゲンハント(割安株の爆買)は、経済と金融の回復が急速で力強いものになるということへの大きな信任投票である。今後数ヶ月で、それがどれくらい優れた選択であったか示されるだろう。

  • フランク・ケインは受賞歴のあるドバイのビジネスジャーナリスト。Twitter: @frankkanedubai
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