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新型コロナウイルスでロックダウン中、旅について考え直す

イタリアのアマルフィ海岸にあるポジターノの町。(ウィキメディア・コモンズ)
イタリアのアマルフィ海岸にあるポジターノの町。(ウィキメディア・コモンズ)
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22 May 2020 11:05:30 GMT9
22 May 2020 11:05:30 GMT9

かつてイブン・バットゥータがこう言った。「旅 ― 旅は私たちから言葉を奪う。そしてやがて私たちを語り手に変える。」行ってみたくてたまらなかった場所へと新たな旅に乗り出すことほど、気分を盛り上げてくれるものはない。自然への癒しの旅から、活気あふれる都会の街、それに離島から森の中の山小屋まで。そういった体験さえあれば、これまでに経験したいくつもの忘れられない瞬間や変わったできごとを語りながら、愛する人たちとにぎやかな午後を過ごすことができる。旅によって人は豊かになり、特別な感情、体験、サヴォアフェール(機転の良さ)を得ることができる。

しかし今はまだ、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)の影響で、世界中がロックダウン(都市封鎖)下にあり旅行を制限されている。そこで私は元気を出すため、自分が一番好きな娯楽を別の方法で楽しむことにした。旅の素晴らしさをもっともよく味わう方法はもしかすると、家にいながら様々な旅に埋もれることかもしれない。そこでこのひらめきの妥当性を探ろうと検索してみると、ありがたいことに、これを裏付ける研究論文が数多く見つかった。

2014年にサイコロジカル・サイエンス誌に、研究者のアミット・クマール氏、マシュー・キリングワース氏、トーマス・ギロヴィッチ氏による、体験に対する期待の価値とそれが私たちの喜びに与える影響に関する論文が発表された。この研究によると、お金を払って何かを体験することは、一般的には、物質を所有することよりも、私たちに喜びを与えるのだという。興味深いことに、私たちは何かを将来体験することを楽しみにすると、それと一緒にある種の恍惚と喜びを、それが起こるまで体験するというのだ。

そこで私はこの識見を活用し、家にいながら旅の体験を味わう方法を考え直してみた。この記事を書くかたわらで、イタリア南岸にある魅惑的な岸壁の町、ポジターノをめぐる2時間の散策ツアーを取り上げたYouTube動画がテレビに映し出されている。私はほとんどすぐにその美しさの虜になり、笑顔になった。動画はうまい具合に夏に撮影されたもので、散策は崖の上から始まり、その後ビーチへと下っていく。桃色や黄色やチェリー色の家々を飾る、ショッキングピンク色のブーゲンビリアや紫色のフジといった見事な植物群が広がり、下降する人々の目を楽しませてくれる。土産店には複雑なデザインのシーブルー色やレモン色のエンボス加工が施されたタイルやシックなビーチウェアが置かれ、爽やかなレモン・シャーベットの露店が並ぶ。散策中はキラキラと光る海がたえず目に入り、ベストスポットのほとんどにカフェかレストランがある。カラフルな町並み、お酒で盛り上がりながらのんびりと過ごす人たち、海辺のレストラン、アマルフィ海岸周辺への冒険に連れ出そうと待ち構える数々のボート、この世のものとは思えないビーチには美しいパノラマ景色が広がっている。

好奇心が勝った私は、ジョン・スタインベック氏が書いたポジターノの旅行記事をハーパーズ バザー誌に発見した。アメリカ人作家である同氏は、1953年に初めてポジターノを訪れ、同地を愛情を込めて「滞在中は現実ではないように感じるが、訪れた後は誘惑的に現実に感じる夢の地」と表現している。これほど魅力的な土地を訪れた者だけが語ることのできる、うっとりするような話をつづった優れた記事で、読むこと自体に喜びを感じる。記事は、危険な階段を見下ろす細い道を通って町にたどり着くまでの逸話、海賊や商人への対応におわれたポジターノの歴史、地元の人たちの芯の強さ、彼らがあつかうレース編みや製靴といった数々の産業、そして数千年かけて築かれた町について取り上げている。スタインベック氏はレ シレヌーセに滞在した。4人のナポリ人侯爵夫人によって所有されていた別荘が、海を臨む魅惑的なホテルに改築されたものだ。ホテルが提供するもっとも貴重な体験はレストランLa Spondaかもしれない。天井まで伸びたブドウのつるで見事な装飾が施され、夜は400本のロウソクが灯される。私は日没時の外のテラスの写真を見ただけで、携帯電話の「将来の休暇」アルバムに追加したくらいだ。

私は興味のある旅行本をまとめた読書リストも作っている。優れた本であれば、その国が持ついくつもの名物に触れることができる。その良い例として、今読んでいるバリー・ケルパー氏の『Istanbul: The Collected Traveler — An Inspired Companion Guide』がある。まさに人の心を虜にする本だ。このエッセイ集は、ビザンティン帝国の歴史、オスマン朝美術、トルコのバラ、料理など、様々なことを網羅した多岐にわたる本だ。非常に鮮やかな文面で、まるで神秘的な話で私を魅了する語り手が目の前に座っているかのようだ。

日没時の外のテラスの写真を見ただけで、携帯電話の「将来の休暇」アルバムに追加したくらいだ。

サラ・アル・ムラ

こういった詳細なエッセイを読むことのメリットをもう1つあげると、典型的な観光プランの枠を超えられることだ。視野を広げ、他文化が持つ微妙な差異を理解し、美をあらゆる形で味わえるレパートリーを築くことができる。私のリストにある他の本を紹介すると、ケルパー氏によるパリとトスカーナのコレクション、アメリカのテレビ番組の司会者で旅行作家でもあるリック・スティーブス氏による『Postcards from Europe』、哲学者のアラン・ド・ボトン氏による『The Art of Travel』、作家のヘレン・ラッセル氏による『The Year of Living Danishly』がある。スティーブス氏は、自身のブログで、旅行の特別な体験や思い出を取り上げた「Daily Dose of Europe」も連載している。

旅行番組を見る、旅行本を読む、トラベルライターとつながる、あるいは将来の休暇の計画を立てるなど、ロックダウン中に旅行熱を保つ方法はいくつかある。

サラ・アル・ムラ氏はアラブ首長国連邦出身の公務員で、人間開発政策と児童文学に関心を持つ。

 

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