米・イスラエル関係の歴史全体を通して、ドナルド・トランプほどイスラエル政府とイデオロギー的に合致したワシントンの政権はなかった。国際問題に関して意見は完全に一致している…1つの例外、中国を除いては。
マイク・ポンペオ米国務長官が最近イスラエルを急遽訪問した際、その表向きの説明は、米国のイラン政策と、占拠下にあるヨルダン川西岸の一部を併合するイスラエルの計画の両方を緊急に調整する必要性があるというものだった。ポンペオが空路イスラエルを訪問中、ワシントンの頭の中には他の話題に劣らず、イスラエルと中国の絶え間なく進化を続ける関係があったことが明らかになった。トランプ政権は悪化を続ける中国との関係への対処において、「あなたたちは我々の側に立つか敵かのどちらかだ」という考え方から、徐々に二極化する方法を取るようになっている。他の同盟国と同様にイスラエルも、歩調を合わせることが期待されている。
米国と中国の間の対立は徐々に増している。COVID-19パンデミックに対する中国の「過失」に関して、トランプやその支持者たちが敵意に満ちた言動を行い、それが中国当局の強硬な反応を引き起こすという現在のパターンは、すでに日常茶飯事になった。その土台となっているのは、米国が宣言した中国との貿易戦争における数年にわたる言葉の攻撃と、主に米国による一方的な制裁措置だ。どちらの側も必要な予防措置を取っていないため、この言葉による集中砲火が世界の平和と安定を危険にさらしている。中国で始まり、トランプ政権が破滅的な対処をしているコロナウイルスのパンデミックはこの関係性をさらに害すると共に、5ヶ月を切った大統領選の世論調査で民主党のライバルであるジョー・バイデンに遅れを取っている同大統領に都合よく利用されている。
このような状況の中、イスラエルの政策決定者たちを当惑させたポンペオのメッセージは、米国にとって安全保障リスクや機密性のある分野における中国との結びつきは断ち切られなければならない、というものだった。これには、学術的プロジェクトや技術的な研究開発も含まれる。
イスラエルは何年もの間、この国際的な力を持つ二国間の対立に巻き込まれることをなんとか避けてきた。ワシントンとの政治的・軍事的・経済的同盟関係を維持する一方で、中国とも貿易関係を構築し、投資および技術的協力関係を発展させている。これには、その量において米国に次ぐ世界第2位の軍用プラットフォームやコンポーネントが含まれる。拡大を続ける地経学的・地政学的協力関係には、両国の相互利益に基づく健全な基盤が存在する。
米・イスラエル関係の歴史全体を通して、ドナルド・トランプほどイスラエル政府とイデオロギー的に合致したワシントンの政権はなかった。国際問題に関して意見は完全に一致している…1つの例外、中国を除いては。
ヨッシ・メケルバーグ
中国とイスラエルとの関係は今世紀に入り、政治外交から投資や貿易、共同教育プログラム、科学的協力、ますます拡大する双方向への観光事業まで、協力のペースと広がりにおいて強さを増した。中国がイスラエルに向ける関心の1つの側面は2国間レベルにあるものの、大きくはその世界規模の「一帯一路」構想とMENA地域における存在感の発揮という文脈の中に置かれている。しかし、そのような背景における国際的な要素が、2国間の貿易のペースと性質を衰えさせている。その中でも大きな要素が、中国への特定技術の供給に対する米国の反発と、より最近の貿易戦争である。一方で中国は、イランを含むMENA地域の他の国との良好な関係維持によってバランスを取らなければならない。
両国の人口や領土における大きな違いにもかかわらず、関係性のパターンは中国がイスラエルを技術イノベーションの世界的ハブとして評価する中で進化してきた。一方で小国としてのイスラエルは自らの前に広がる巨大な中国市場と、自国経済への投資に前向きな中国の経済力に目を向けている。両国間の経済的な結びつきの全体像を理解するには、香港との貿易を併せて考えることが重要である。香港は、増加の一途をたどる貿易関係を促進する主要ハブの役割を果たしている。イスラエルによる中国本土と香港への2018年の輸出額は、合わせて90億ドルだった。一方で輸入額は68億ドルに達し、そのほぼ全てが中国からの輸入だった。それ以上に目を引くのは、それら2018年の数字のうち、イスラエルからの輸出額が前年比44%以上も増えていることだ。一方で輸入は前年比9%増だった。
イスラエル・パレスチナ紛争を含む同地域の政治に対する北京の多少の関心が助けとなり、中国とイスラエルとの間で蜜月関係のように見えるものが長期化している。それを米国は、自国の利益に対する脅威ととらえている。中でも特に脅威と感じているのが、イスラエルのインフラに対する中国の投資だ。例えば、中国は一帯一路構想の一環として、イスラエルでハイファやアシュドットの港を含む主要なインフラプロジェクトを開発・運営し、テルアビブの軽量軌道を建設しようとしている。また中国は現地のハイテクシーンにおける主要な投資家にもなりつつあり、イスラエルのスタートアップは中国市場に進出しようと懸命になっている。
しかし、もし前述の全てが有望に聞こえるとすれば、ワシントンの深刻な懸念も高めていることになる。中国に対する米国固有の敵対心は、トランプやペンタゴン、国務省、または共和党員に限らず、多くの民主党員にも共通のものである。それは世界のさまざまな地域のテクノロジーを巡る、より広く言えば覇権を巡る、中国の意図と競争に対する本質的な不信感から生じているものだ。米国はそれを、自国の影響範囲への侵略と受け止めている。しかし米国は、より具体的に言えば1990年代以降、軍用または軍民共用の高度なテクノロジーのイスラエルから中国への移転を巡り、イスラエルに対して懸念を強めてきた。さらに、イスラエルの港湾開発は北京に対し、MENA地域において米国とより効果的に競争するチャンスをもたらすだけでなく、船を頻繁にハリファのドックへ入れる米国第六艦隊に関する情報の監視・収集を可能にする。
最近開かれたイスラエルの治安対策閣僚会議で外務省が、イスラエルは中国による自国への投資に厳しい制限を課さない限り、トランプ政権といずれ衝突する可能性があると警告した。米国大統領がこの両国を地政学的安全保障上の脅威であり、中国との貿易戦争の目的達成を妨害する存在と考えるからだ。米大統領選挙とコロナウイルスのパンデミックによって、既存の緊張状態はすでにその程度が高まっている。現在ワシントンはこの問題に関し、イスラエルを脅して仲間に入れる準備ができているように見える。
ヨッシ・メケルバーグはリージェンツ大学ロンドンで国際関係・社会科学課程のトップを務める教授。王立国際問題研究所でMENAプログラムのアソシエイトフェローも務める。国際的な出版物や電子メディアへ定期的に寄稿。Twitter: @YMekelberg