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増大する企業債務がもたらす、ポストコロナの回復基調にひそむリスク

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30 May 2020 07:05:50 GMT9
30 May 2020 07:05:50 GMT9

世界の多くの国々で、ロックダウンという休眠状態が明けようとしている。そんな時期に、新型コロナウイルスの世界的大流行がもたらした後遺症はまだ終わりを迎えてなどいない、などと言えば、これから景気が前向きになろうというのに気勢を殺ぐような物言いかもしれない。

2020年という恐怖の年において、打撃を与えかねない経済要因はまだすべて出揃っていない。それをリストアップすれば次のようになる。本年度の残りは、GDP成長率が壊滅的となる。最低でも1~9月期の企業収益は急激に落ち込む。企業が何とかしてポストコロナの新たな日常に適応しようと努めても、個人や企業の財務状態は悪化をたどる。

これだけでも十分思わしくない。が、金融アナリストの中にはこんな見立てもある。万が一破綻すれば、目下われわれがあえぐ景気低迷に金融危機まで付け加わりかねない、世界金融システムにおける最も弱い環なるものがあるというのだ。

ローン担保証券(CLO)というものがあり、これが金融市場崩壊の口火となる可能性がある。この結果、今はまだ見えていない今年中に起こりうる経済問題がさらにこじれるということだ。

世界金融危機を招来した債務担保証券(CDO)と、CLOはよく似ている。どちらも、機関投資家が国際債券市場で売り買いするトレード可能な金融商品として一括される、移ろいやすい性質の一群の資産ということだ。

2000年代初め、CDOを主に構成するのは住宅ローンで、上はトリプルAクラスの不動産から、下は「サブプライム」などとオブラートに包んだ言い方をしたが要は「貧乏人」の土地まで、実に幅のあるものだった。米国の不動産市場がマイナスに転じた際は、まずサブプライムが先行し、CDOの優良資産までも巻きこんだ。

結果として、銀行や金融機関は、各国政府が何億ドルもの救済措置を取らねばならぬほどの不良債務を抱えこんだ。

金融市場破綻の引き金を引くのはローン担保証券(CLO)となるやもしれない。

フランク・ケイン

CLOでは住宅ローンの代わりに社債をあつかう。世界金融危機後、企業は加速度的な社債発行により資金調達をおこなってきている。これは、量的緩和と低金利の時代であるならまだしも意味もあった。

たいていのCLOの原資となるシンジケートローンに銀行は喜び勇んで関与した。未公開株式投資の業界でも、企業合併や買収の安上がりな元手として重宝した。

米連邦準備銀行が最近示した試算によると、昨年末の時点ですでに企業債務は10兆ドルを超過していた。世界金融危機直後の水準に照らせば、80%増となる数字だ。

新型コロナの感染拡大で、企業は債券発行のペースを速めた。今年後半にも予測される資金繰りの困窮に見舞われる前に、どこも金庫にカネを詰めこもうと躍起なのだ。中東の各企業は社債発行にかけては特に目立つ動きを見せてきている。中東ではCLOを一般的な投資先とはしないものの、いったん事態が悪化すれば、湾岸諸国の金融システムも他地域と同様、丸裸となりかねない。

CLO崩壊が目前だ、などと言う者はない。銀行や格付け機関は世界金融危機から大いに学んでおり、この種の金融商品についてはいっそう厳格なルールを導入しているのである。

米連邦準備銀行では本格的な措置を講じ、株式市場・債券市場全般の下支えをしただけではない。「高利回り」などと上品に呼ばれながらも、その実「ジャンク債」と称されることの多いセクターへの数億ドル規模の支援拡大を強化するにまでいたっている。これまでのところこうした措置は奏効したし、疲弊する世界経済をよそに、株式市場が空前の水準にまで持ち直しているのも主にはこれが原因だ。

が、ここに急変調が起こりるといった流れは想定しがたいものではない。筋書きとしては次のようになる。まず、パンデミックの重圧に耐えかね、企業の半期収益が瓦解する。これを受け、格付け機関は社債発行企業の信用度を格下げする。その結果、これら企業は債務償還ができなくなる。それがCLOを保有する大銀行なり未公開株式投資企業といったところへ連鎖的な金融問題を呼び起こす。

世界経済の再開が加速し、経済活動が旧に復すれば、こうした筋書き通りにはまずならないはずだ。さはさりながら、リスクはリスクだ。なおざりにしてよいものではない。

  • フランク・ケイン氏はドバイに本拠を置く実績あるビジネス・ジャーナリスト。ツイッター:@frankkanedubai
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