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新型コロナを起因として、対外援助の再考が必要だ

シリア北西部イドリブ州入りする国際人道援助トラック。2020年9月7日撮影。(AFP)
シリア北西部イドリブ州入りする国際人道援助トラック。2020年9月7日撮影。(AFP)
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09 Sep 2020 12:09:46 GMT9

湾岸協力理事会(GCC)諸国は伝統的に世界で最も寛大な援助国の1つであり、その援助額が国連の設けた援助レベルの目標を超えたことも一度や二度ではない。過去10年間だけでも、GCCは500億ドル以上の助成金、そしてその額すら大きく上回る規模の援助を融資といった形で提供してきた。国際援助プログラムへの定期的な寄付に加え、GCC諸国は、自然災害や紛争の犠牲者を救援することを目的に世界中で緊急援助活動を行う国際機関に対し、惜しみない支援を提供してきた。

だが、新型コロナウイルス感染症により、援助政策の再考を余儀なくされている。パンデミックによりGCC経済に対する下押し圧力が増大しており、対外援助支出を含む政府支出の合理化が迫られているのだ。だがそれと同時に、新型コロナは中東の国を含む貧困国に壊滅的な打撃を与えており、そうした貧困国への支援の必要性は誰の目にも明らかだ。

国際通貨基金(IMF)の最新の報告によると、中東および北アフリカ(MENA)における2020年の実質国内総生産(GDP)は平均で4.7%減少すると予測されている。これは、4月にIMFが独自で見積った数字をさらに2%下回る数字である。脆弱な国や紛争下の国では状況はさらに悪く、IMFはこれらの国々の経済生産が年末までに13%減少すると予測している。さらに悪いことに、この地域ではパンデミックに見舞われるなか資本移動が突然逆転し、投資の資金流出によって推定で60億~80億ドルが失われつつある。

実際には、この地域の新たな成長予測に対するIMFの悲観的な見方は、石油輸出国の経済停滞の見通しと大きく関係している。GCC諸国やその他の石油輸出国は、パンデミックと石油市場の大幅な変動という二重の打撃に直面しているのだ。OPECおよびその他の主要な石油生産国(OPEC +)が達した合意と米国のシェールオイル生産の削減とが相まって、価格はある程度は安定した。それでも、コロナ前のレベルを下回っていることに変わりはない。

パンデミックに対するMENA諸国の政策対応は、医療費に焦点を当て、最も経済的に脆弱な人々に対する支援や流動性供給の確保に重点を置いたものだ。だが、少数のGCC加盟国を除き、財政面での救済措置や景気刺激策パッケージの平均サイズは、世界中の他の地域と比べると小規模に留まっている。パッケージの規模が限られているのは、原油価格の下落や他の地域への波及効果を起因として石油輸出国の収益が減少しているからだ。パンデミックはまた、政府歳入の大幅な減少や財政の持続可能性への脅威を多くの国にもたらした。非産油国については、債務残高対GDP比が2020年末までに平均95%に達すると予想されている。

経済活動のすべての側面が影響を受けており、パンデミック後の回復の見通しも不透明だ。地域のほとんどの国の外貨準備が悪影響を被ってしまっている。貧しい国々にとっては、パンデミックによって裕福な隣国の支援能力に制約が生じていることが、問題をさらに悪化させている。労働者送金は重要な収入源となって母国を助けてきたが、コロナ禍でこれも現在減少を続けている。全般的に、域内の貧しい国々に対する対外援助も、二国間援助、多国間援助ともに減少している。IMFがこれまでに約170億ドルの援助を提供しており、年末までにさらに50億ドルを駆り集めたいとしているが、IMFによるこうした取り組みがあるにしても、その援助の大半は返済義務のあるローンの形であり、パンデミックによって引き起こされた経済的荒廃に比べると、その額もほんの僅かにすぎない。

中東のより広い地域では、国から国への援助が費用対効果をもたらすという証拠はほとんどない。

アブデル・アジズ・アルワイシェグ

これは確かにジレンマ状態だ。貧しい国々はこれまで以上に支援の必要性が高まっているというのに、援助国自体が、これまで双方が慣れ親しんでいたようには援助を提供することができないのだ。援助国の財政の持続可能性を損なうことなく貧しい国々を助けることができるような、より良い手段はないのだろうか?

経済学者たちは長年、受益国にとってはより効果的で、援助国にとっては負担がより軽くなる手段への取り組みとして、富裕国による援助の再評価を提唱してきた。ハンガリー系イギリス人の著名な開発経済学者であるピーター・バウアー氏は、途上国を支援する最も効果的な手段は国から国への対外援助であるという、これまで広く信じられてきた考え方に一貫して反対してきた。バウアー氏は自著 “Dissent on Development” の中で、「対外援助とは、富裕国の貧しい人々が貧しい国の裕福な人々を助けるプロセスである」と述べている。バウアー氏はそのような援助にしばしばつきまとう汚職や不公平、効率の悪さについて言及しているのだ。

援助をめぐる議論の場では、従来型の公的援助を支持する意見が何十年にもわたって優勢だったが、コロナ以降、この問題を再検討し、対外援助の管理の仕方を各国が決定していくことの重要性がこれまで以上に高まった。中東のより広い地域では、国から国への援助が費用対効果をもたらすという証拠はほとんどない。対外援助がその意図された目的を満たしていないのは確かである。援助を受けた後でも、経済成長、貧困の撲滅、一般市民の生活水準の向上、適切なレベルの公共サービスの提供といった課題を解決できていない受益国は少なくない。

従来型の対外援助の目的として、紛争の終結および平和安定化が引き合いに出されることが多いが、対外援助がそのどちらももたらしていないという証拠は数多くある。援助に依存してきた国々は、安全保障においても安定化においてもあまりうまく対応できていない。たとえばアフガニスタンは、過去20年間ほとんどすべての財政を外国からの援助に依存してきたが、この国の状態は安定からも安全からもほど遠い。中東でもそれ以外の地域でも、こうした例は尽きない。

こうして従来型の国家間公的援助にプラス効果がほとんど見られないことから、代替案を検討することが重要となってくる。民間部門を支援して雇用を創出するとか、大いに必要とされている公共サービスを提供する、といった形での援助を考えてみてはどうか。援助国と受益国の民間部門間での提携が奨励され、支援されるべきではないか。投資保証や融資保証プログラムが不可欠であるだけでなく、民間起業家支援に向けた信用緩和も不可欠だ。さらに、援助は適切な経済管理や民間起業家支援に向けたキャパシティ・ビルディングやトレーニングを対象とするべきだとも考える。

この他にも、従来の国家間援助の代替案として数多くの手段が考えられる。どの代替案を選んでも、助成金よりも少ない費用でより大きな効果をもたらすに違いない。これらの手段を使って税収基盤を拡大させたり自己資金調達手段を提供することにより、経済管理の改善や財政の持続可能性の強化といった効果が期待できる。それに、こうした手段なら腐敗や汚職の影響も受けにくい。

難民や国内避難民といった脆弱なコミュニティに対する緊急人道援助は必要に応じて継続する必要があるが、従来型の経済援助や財政支援は、より効果的な代替手段に取って代わるべきである。

短期的には、公的援助の削減がなんらかのマイナス効果をもたらすことになるかもしれないが、長期的には、国の回復力や自立の力を促進することにより、より持続的なプラス効果をもたらすことができるのではないだろうか。

  • アブデル・アジズ・アルワイシェグは湾岸協力会議(GCC)の事務次長補(交渉・ 戦略的対話担当)であり、アラブニュースのコラムニストである。この記事で表明されている見解は個人のものであり、必ずしもGCCの見解を代表するものではない。Twitter: @abuhamad1
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