
マジッド・ラフィザデ博士
個人攻撃に終始した初回の米国大統領選挙討論会が、各候補者の政策綱領の明確なビジョンを伝えられなかったというのは、かなり控え目な言い方である。さらに2回の討論会が予定されているが、ドナルド・トランプとジョー・バイデンの将来のビジョンについて、かなり多くを有権者はまだ聞いていない。次の大統領の任期全体に渡る中東での米国の行動は、今後数十年にわたって反響を呼ぶことになるが、中東に対する外交政策とその個々の手段については特に、まだ明らかにされていない。
トランプ大統領それまでとは根本的に異なる手段を取ってきたことは、知られている。アブラハム合意を実現し、イランに最大の圧力をかけたことは、中東における彼の2つの傑出した業績である。前者については、前任者のバラク・オバマが湾岸諸国と持っていた厄介な関係を修復することに対して、彼はかなりの距離を置いていたことは明らかだ。
しかしこれは、イランのミサイルや、暴力的な代理計画を抑制できないという欠陥のある核合意であり、これらの同盟国に対するオバマ政権の冷遇がよく表されている。
取り引きにより、かなりの額の資金が利用可能になることで、ヒズボラやフーシといったグループの財源にテヘランがこれまで以上に大きな額を注ぎ込む可能性があるという予想外の影響が出てきた。サウジアラビアやバーレーンなどの国々は、これらのグループが潤うことで直接的な脅威にさらされるという明確な懸念があるにも関わらず、これらの国々はほぼ無視された。
トルコ、イラン、カタールは、湾岸にある米国の同盟国に対して真っ向から対峙している。
マジッド・ラフィザデ博士
原理主義と原理主義がもたらす地域政治への破壊的で不安定な影響という課題について、オバマは再び特定の米国の同盟国から遠ざかった。不名誉にもオバマ政権が民主主義の副産物と見なしたムスリム同胞団などのグループとの和解は、深刻に損なわれた。ムスリム同胞団が民主的な未来ではなく強硬に不寛容なビジョンを示していることを、アブダビ、テルアビブ、リヤド、マナーマはいずれも理解しており、この見解はかなりの懸念をもって迎えられた。
したがって、この地域の多くの人々が、バイデン政権の見通しに不安を抱いているのは無理もない。どのような形であれ過激主義を再び受け入れること、あるいはテヘランへの「大量の現金」を送ることは、米国の主要な同盟国の間で現れ始めているのが見て取れる平和を損なう危険性がある。バイデンは先月CNNの論説で、計画している中東へのアプローチについて悩ましい指標として、イランが核合意の余波で「地域の悪役」ではなくなったことを示唆した。
彼はこう書いている。「私はテヘランに、外交への確かな道を示します。イランが再び核合意を厳格に遵守するようになれば、米国はその後の交渉の出発点として再び合意に参加するでしょう。」
これは、数千マイル離れた場所にいる人にとっては簡単な見方だが、ヒズボラの武器貯蔵庫やシリアの民兵が引き起こす死と破壊に対処する土地の住民とっては、イランはその代理ネットワークを通じて、これまで以上に災いをもたらす悪役だ。こういった他の問題が解決されない限り、イランにより責任ある国際的役割を与えるためのいかなる努力も、失敗する運命にある。
これを理解することは、両候補者の中東に対するアプローチの中心となるはずだ。これは、原子力の研究開発が行われていると伝えられているパルチンなどのイランの軍事施設は、国際原子力機関の検査官によって常に監視されなければならないということを意味する。政権の外交政策の中核であり、核計画に関連していると思われるイランの弾道ミサイル計画の危険性も適切に対処されなければならない。そして、テログループに対するイランの支援に立ち向かわなければならない。さらに、イランのブレイクアウト時間(1つの核爆弾に必要な兵器グレードのウランを生産するのに必要な時間)は、1年よりはるかに長くなければならない。
イランの指導者の観点からは、西側との協定がイランの中心的な柱を変えることはない。そうではなく、イラン政権は一般的に、革命的理想を前進させるために国際的および地域的合意を利用する。
最終的には、この地域での米国の軍事的存在感が低下し、中国、ロシア、トルコといった他の軍隊がその空白を埋めようとしている時に、湾岸諸国と歩調を合わせて動くことがこれまで以上に不可欠だ。地政学的な砂は根本的に変化している。トルコ、イラン、カタールは、湾岸にある米国の同盟国に対して真っ向から立ち向かい、ますます強硬な筋書を推し進めているが、これは地域を揺るがすためのより壮大な戦略の一環のように思われる。
両大統領候補は、この強硬な筋書との戦いにおいて、アブラハム合意という優れた業績を基礎とすることに目を向けなければならない。中東における将来の地域的安定と米国の利益保護を追求する上で、かつての政権がしたように急進主義の勢力を封じ込めることができると無邪気に期待することは、選択肢にはならない。
初回の大統領選挙討論会の混沌とした性質を考えると、期待するにのは難しいかもしれないが、分析や中東に大きな影響力を得ようと競う2人の男性のビジョンを聞くことは、歓迎すべき流れの変化になるだろう。
*マジッド・ラフィザデ博士は、ハーバード大学で教育を受けたイラン系アメリカ人の政治学者。ツイッター: @Dr_Rafizadeh