
米国でバイデン政権が誕生したが、この政権が国の外交政策を再調整しようとしているのは明らかだ。政策変更のひとつは、トランプ政権が核合意を離脱してイランに対する「最大限の圧力」戦略を再開したのに対し、イランとの関係を修復しようとしていることだ。
バイデン政権は、前任者の対イラン政策を確信的に批判している。しかし、元国務長官で現政権では気候問題を担当するジョン・ケリー氏、ウェンディー・シャーマン国務次官補、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官といった外国政策の主要な担当官たちが、イランに関してどのような立場であるかについて、多くの憶測が飛び交っている。手始めの戦略としては、もし核兵器を保有しているのであればさらに危険となる「孤独な孤立した無法者国家」という脅威を取り除くための取り組みとして、イランとの交渉を再開させようとしているようだ。
バイデン氏の新たな対イラン外交政策の構築と同時に起きているのが、イラン国内の人権状況の悪化だ。その一例が、最近逮捕されたイラン系アメリカ人実業家のエマド・シャルギ氏で、彼はスパイ容疑で禁固10年を言い渡された。
他にもスパイ容疑で投獄されたイラン人は何人もおり、米国や英国の市民権を持つ人々が含まれている。
バイデン政権は、人権を問題にすることでイランの怒りを刺激しないように警戒措置をとっている。例えば、投獄された数多くのイラン系アメリカ人の釈放を、イランの核開発能力をめぐる交渉再開の条件にはしないという。
バイデン政権は、非常に早まった外交政策上の結論へと身を投じようとしている。彼らはイランの核の野望を取り去る役目を果たそうとしているが、それは賢明ではない。結果として、中東における米国の運勢は衰退するだろう。
マリア・マーロウフ
イランと核能力の増強について協議するというこの新たな米国の計画から、実体や意味のある何かを期待すべきではない。イランに合意を遵守させたいとするバイデン氏や高官たちの望みよりも、自国の核能力を国際社会に的確に測定・評価させることを断固として阻もうとする神政国家イランのほうが勝るだろう。加えて、核開発計画に関する米国の対イランの取り組みは、イラン国内の人権尊重を確保するのに必要なバランスや、イランの基準遵守を監視する米国や国際社会の義務よりも、はるかに比重が重くなる。
ケリー氏、シャーマン氏、サリバン氏は特に、焦ってイランに手を差し伸べようとしている印象を受ける。これは、国同士が交渉を開始するときの典型的な外交規範であるゆっくりと順序立てたやり方とは対照的だ。今回の場合、彼らは緊急を要するものと実際とを混同させている。早急に協議を設定したいという彼らの意向は、中東や世界の安定を脅かさないで欲しいという、イランへの「妥協」とは言わないまでも、「要請」である。どのような相手との交渉も、常にそこには相手の態度を変えたいという願望がある。しかし米国のイランとの交渉が、イランの態度を変えるという希望はほとんどない。
イランとの交渉の大きな問題は、イランはその核開発計画が軍事目的ではないことを証明したがっていないという点だ。 従ってイランと交渉するいかなる国も、イランの核関連活動の最終結果については、賭けをしていることになる。イランと交渉すればするほど、その意図が不明確になるのだ。
バイデン政権は、非常に早まった外交政策上の結論へと身を投じようとしている。彼らはイランの核の野望を取り去る役目を果たそうとしているが、それは賢明ではない。結果として、中東における米国の運勢は衰退するだろう。
• マリア・マーロウフはレバノン人のジャーナリスト、ブロードキャスター、出版者、執筆家である。リヨン大学で政治社会学修士号を取得している。ツイッター: @bilarakib