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イスラエルに見せつけた、パレスチナ人の政治力

ガザ市でのデモで、イスラエルの空爆で破壊された建物の横を行進しながらパレスチナの旗を振る参加者たち。(AP通信写真)
ガザ市でのデモで、イスラエルの空爆で破壊された建物の横を行進しながらパレスチナの旗を振る参加者たち。(AP通信写真)
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30 Jun 2021 02:06:14 GMT9
30 Jun 2021 02:06:14 GMT9

ラムジー・バロード

パレスチナ人の多くは先月のイスラエル軍とガザの武装組織の武力衝突と、同時期にパレスチナ全土で起こった暴動は、両者の形勢を一変させたと感じている。一方、イスラエルは全力でその考えは間違いだと証明しようとしている。

パレスチナ人がこのように考えるのはもっともだ。包囲され貧困にあえぐ、非常に小さなガザ地区の極めて小さな武装勢力が、巨大で明らかに力では上回るイスラエル軍の軍事兵器を追い返す、とまではいかなくても、少なくともなんとか、鎮圧したのだから。

パレスチナにとって、これは軍事力だけの問題ではなく、待ち望んできた国としての団結に関わる。事実、パレスチナ民衆の暴動は、世界中の様々な政治的背景の人々からの支持を集め、パレスチナについてのまったく新しい言説を生み出している。その流れに派閥はなく、主張は明確で、先進的だ。

これまでの成果を実際の政治的戦略に落とし込み、オスロ合意以降の抑圧的でしばしば悲劇的な時代からついに脱することができるかどうかが、パレスチナの人々にとっての課題となる。もちろん、そう簡単にはいかないだろう。現状維持を熱心に望む強い勢力が存在するのは確かだ。そのような勢力にとっては、パレスチナの独立に向かう前向きな変化はすべて政治的、戦略的、経済的な喪失を意味する。

民主的な統治のシステムを持たないパレスチナ自治政府(PA)は、その脆弱な立場をこれまでになくはっきりと感じている。パレスチナの民衆は誰もこの「自治政府」を信頼していないだけでなく、パレスチナ解放の障害だと思ってすらいるのだ。マフムード・アッバース大統領と腐敗したその側近の多くが暴動の波に乗り、発言を180度転換させたのも驚きではない。一瞬ではあったが、援助国の承認を得るために注意深く組み立てられた言説から、「抵抗」と「革命」を高らかに賛美する姿勢に変わったのだ。この一派は、どんなことをしても自分たちの特権をまもり、存続しようと必死だ。

だが、もしパレスチナ人がより多くの民衆を巻き込み、暴動が盛り上がり続けた時に最も失うものが大きいのはイスラエルだ。団結した国に率いられ、明確な要求を提示する大衆暴動が長期的に続けば、長年のイスラエル軍による占領と人権侵害政治は脅かされるだろう。

現在、ネフタリ・ベネット首相とヤイル・ラピド氏の経験不足な連立政権が率いるイスラエル政府がガザ戦争後の戦略を明確に持っていないことは明らかだ。騒々しく突拍子もない展開で起こったベンヤミン・ネタニヤフ前首相からベネット首相の現連立政権への政権移行を一瞬、忘れてしまえば、今もネタニヤフ前首相が君臨しているかのように感じられる。

これまでのところ、ベネット首相はパレスチナに関するすべての決定をネタニヤフ前首相の戦略に準じてきた。ベネット首相と、ネタニヤフ前首相の連立パートナーであったベニー・ガンツ防衛大臣は、今もガザ地区でのイスラエル軍の勝利について語り、この「勝利」を基に進んでいく必要性について発言している。6月15日と18日、イスラエル軍はガザ地区のいくつかの区域を攻撃した。だが、ミサイルをあと数発追加したからといって、5月の戦闘の結果が変わるわけではない。

ガンツ防衛大臣は6月20日、「軍事的業績を政治的利益に」返還すべき時がきたと語った。口で言うだけならば、簡単だ。彼が論じるとおり、イスラエルは何年もガザで「軍事的業績」を積み重ねてきた。つまり、2008年~2009年のガザ地区での最初の大規模な戦闘以来だ。それ以降、何千人ものパレスチナ人、それもほとんどは一般市民が殺され、もっと多くの人々が負傷させられてきた。それでも、パレスチナ抵抗運動は衰退を見せることはなく、イスラエルの「政治的利益」は皆無のままだ。

ガンツ防衛大臣はベネット首相とラピド氏同様、イスラエルのガザ戦略が完全な失敗だったことに気づいている。彼らの最大の目標は権力を保持することだ。そのため、彼らは、右派の政治家によって定められ、極右派によって保たれてきた古いゲームのルールに縛られている。明らかに失敗しているこの戦略から少しでも反れることは、不安定な連立政権の崩壊につながる可能性がある。

新しい現実的な戦略を練る代わりに、イスラエル新政権は象徴的なメッセージをせっせと発信している。最初のメッセージは最大のターゲットであるイスラエルの右派の有権者たち、特に不満を抱いたままのネタニヤフ前首相の支持層に向けたものだ。このメッセージでは、新政権は前政権と同じくらいイスラエルの「安全」を重要視しており、占領地とパレスチナ全土の多数派に対し、パレスチナ独立国家の実現は決してあり得ないと保証した。

次のメッセージはパレスチナ人と、そこから派生して、5月の戦闘中の大衆暴動に参加した人々と政府を含む地域全体に向けたもので、イスラエルの軍事力は今も無敵であり、現地での根本的な軍事力の差は変わっていないと告げた。

もしパレスチナ人がより多くの民衆を巻き込み、暴動が盛り上がり続けた時に最も失うものが大きいのはイスラエルだ。.

ラムジー・バロード

ガザ地区内外への攻撃の強化、シェィク・ジャラーや東エルサレム全域での武力的挑発、ガザ地区の再建が早急に必要とされる中の移動制限などを続けることで、ベネット首相の連立政権は政治劇を演じている。ガザとエルサレムが注目を集めている限り、ベネット・ラピド連立政権は時間を稼ぎ、迫りくる政治的崩壊から国民の目を背けようとし続けるだろう。

ここでもまた、パレスチナ人がイスラエルの政治において決定的な役割を担っていることがわかる。結局のところ、先月に見せたパレスチナの団結と固い決意がネタニヤフ前首相に恥をかかせ、反対勢力に彼を失脚させる力を与えたのだ。そして、今、パレスチナ人はベネット連立政権の存続の鍵を握っているかもしれない。特に彼らが、ガザのパレスチナ武装勢力が捕虜にした数人のイスラエル軍兵士を解放するかわりに、イスラエルで劣悪な環境に置かれている何百人ものパレスチナ人収監者を自由にするという取引に応じた場合だ。

2011年10月、最後に捕虜と収監者との交換が行われた日、ネタニヤフ前首相は自分がイスラエルの救世主であるというイメージを打ち出すために注意深く書かれたスピーチをテレビで放映した。ベネット・ラピド政権も同様の機会に恵まれるだろう。

イスラエルの新リーダーたちには、非常に注意深く事を進めていく義務がある。パレスチナ人はもはやイスラエルの政治に振り回される単なる駒でないこと、この数週間で見られたように、彼ら自身も政治を行う力があることを証明している。

これまで、ベネット首相はネタニヤフ前首相とまったく同じように政治を進めてきた。だが、イスラエルで最も長く政権を握った首相ですら最終的にはその政策の意義を国民に納得させることに失敗したのであれば、ベネット首相の見え透いた政策はもっと早いうちに暴かれ、その対価は確実により大きなものとなるだろう。

ラムジー・バロード氏(Ramzy Baroud)は20年以上、中東についての執筆を続けてきた。コラムニストとして世界の様々な通信社に寄稿しているほか、メディア・コンサルタントも務め、著書も多数。PalestineChronicle.comの創刊者。ツイッター: @RamzyBaroud

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