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トランプ政権は略奪された土地をネタニヤフ首相率いるイスラエルに与え続ける

イスラエルによる入植活動を違法とはみなさないとのアメリカの声明に関して、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「歴史の過ちを正すものだ」と語った。(AFP)
イスラエルによる入植活動を違法とはみなさないとのアメリカの声明に関して、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「歴史の過ちを正すものだ」と語った。(AFP)
26 Nov 2019 12:11:25 GMT9

アメリカでの弾劾、またイラン、イラク、レバノン、ボリビア、及び香港での大規模な抗議活動の話題で持ちきりだった今週、集めるべき注目をほとんど集めずに終わってしまった極めて大きな進展がある。マイク・ポンペオ国務長官が、イスラエルによるパレスチナの入植活動を、アメリカは今後違法とはみなさないと発表したのだ。

その発表がなされるまでも、次から次へと、パレスチナ問題で根本的に親イスラエルに偏った発表が行われていた。例えばアメリカのドナルド・トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都だと認め、その後ゴラン高原もイスラエルの領土として認めた。またイスラエルは過去の入植活動を遡及的に合法化する計画を発表した。さらにヨルダン川西岸の農村地帯のほとんどをイスラエルに併合するとの提案が、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政権内の同調者から出された。さらにアメリカは、パレスチナ難民への資金援助を停止し、パレスチナ難民の帰還の権利を否定することを決めた。さらにネタニヤフ首相は、選挙公約としてヨルダン渓谷全域を併合することを挙げた。

それに並行して、入植地での建設活動や入植自体の拡大も急加速している。安い住宅価格と国からの給付金を求めて、今や620,000人のイスラエル人が占領された土地に住んでおり、この数字はイスラエルのユダヤ人の人口の10%にもなる。

かつては一部の狂信的な運動の参加者のみが入植者となっていたが、2000年9月(当時、ヨルダン川西岸の入植者の人数は、東エルサレムを除くと、約170,000人だった)以降右派政権が続き、入植活動はイスラエルの国家的事業となった。入植地は半永久的な一般のイスラエルの通勤圏となり、銀行の住宅ローンも簡単に契約できるようになっている。

しかし同時に、イスラエルでは政治の麻痺状態が進んでおり、結果の出ない議会議員選挙は3回目に突入しようとしている。その主な原因は、ネタニヤフ首相が、自身が首相ではなくなる政権のあり方全てを阻止しようとしていることだ。つまりネタニヤフ首相は、汚職容疑で辞任する事態を避けるため、国全体を人質にする決心なのだ。

またその背景では、イランの支援を受ける武装勢力との小競り合いも激しさを増している。さらにシリアやレバノンとの国境でも緊張が高まっており、また先日のガザでの衝突からは、全面的な衝突はほとんど事前に何の警告もなく簡単に起こりうることがわかる。

ジャレッド・クシュナー氏が言う「すべての取引を終わらせるための取引」などと言うものは元から悪い冗談のようなものであった上に、またトランプ大統領がネタニヤフ首相に贅沢な贈り物をしたことで完全に滑稽で無意味なものとなった(元々自分のものではない土地を贈り物にするほどチープなことはあるだろうか)。

入植活動は、単に居住地を拡大するためだけのものではなく、むしろパレスチナ独立の希望に毒を塗った短剣を振り下ろすためのものだ。

バリア・アラムディン

入植活動は、単に居住地を拡大するためだけのものではなく、むしろパレスチナ独立の希望に毒を塗った短剣を振り下ろすためのものだ。250以上の入植地や前哨基地の地図上での配置は、パレスチナの土地を切り裂き、パレスチナから東エルサレムへのアクセスを遮断し、人口密集地を互いに引き離すために計算されているものなのだ。

ヨルダン渓谷(ヨルダン川西岸の約3分の1)のユダヤ人入植者は、約11,000人のみだ。しかし、軍用地や「自然保護区」として土地を接収されたことにより、パレスチナ人の農家に残された土地はわずか12%となっている。かつてこの地方では、パレスチナの農作物のほとんどが生産されていた。パレスチナ人が建設許可を得ることはほぼ不可能であり、仮設の住居は定期的に破壊されている。

トランプ大統領はエルサレム、ゴラン高原、及びヨルダン川西岸に関して完全に親イスラエルの姿勢を取っており、これは不法であり、ネタニヤフ首相が収監される事態を避ける支援をあからさまに行なっているものである。それなのにトランプ政権はなぜ、不当に地域の安全を破壊したりトルコにシリアに住むクルド人の民族浄化を許したりしたことについて、法廷の場で追及を受けずに済んでいるのだろうか。

2003年のイラク侵攻や2011年のアラブの春以前は、何十年にもわたって主にパレスチナ問題が地域の安定性を脅かし原理主義思想のゆりかごとなっていた。パレスチナはアルカイダの人員募集プロパガンダでも中心的に取り上げられ、またパレスチナ問題を主な理由にイスラム聖戦機構とヒズボラはイランから武器と資金の供与を受けることを正当化した。

つまりパレスチナ問題がトロイの木馬となり、イランのアヤトラらとアルカイダの指導者の故オサマ・ビン・ラディン氏はパレスチナ人たちにほとんど同情することがなかったにも関わらず、スンニ派の過激思想とイランの支援を受けたシーア派の武装主義が地域に根差すことになった。

アラブ世界や国際社会からの支援があってもなくても、いずれかの時点で、略奪と貧困に耐えきれなくなったパレスチナ人は新たなインティファーダ(反乱)を起こすことになるだろう。これこそ恐らく、ネタニヤフ首相が望んでいるところなのだ。そうなれば、軍の力を用いてパレスチナを封鎖し、さらに土地を略奪し、さらに市民の自由を制限する口実になるからである。

しかしネタニヤフ首相は、占領下の450万人のパレスチナ人全員、及びイスラエルに住む200万人近いパレスチナ人による平和的なインティファーダにはなすすべがないだろう。抗議の声がそれほど大規模に市民の間から上がれば、イスラエルの対応能力は麻痺し、パレスチナ問題はまた国際社会によって取り組むべき問題として再度認識されることになる。

パレスチナの地位を一方的に決定する試みは、国際法に根ざした世界のシステムは崩れ去ってしまっていることを示す、多くの証拠の1つである。こうした試みは、極めて多くの国連決議に違反している。国連決議で何十年も変わらなかったエルサレム、占領下の土地、難民、及びその他の問題に関する態度が崩れ去っているのだ。

もし国際法が首尾一貫して厳密に適用されない場合、国際法はあってないようなものである。独裁者や好戦的な指導者は、イスラエルやイランも許されてきたのだからと、自らの虐殺的で領土拡張論的な計画を正当化して推し進めることになるだろう。

さらに500万人のパレスチナ人がパレスチナ国境のすぐ外に住んでいることから、いくら空虚な併合宣言を行ったとしても、これほど多くの人々からはいつか反乱が起こり、イスラエルはそれに対してなすすべがなくなるだろう。またそうなったとすれば、パレスチナ全土を飲み込もうとするイスラエルは間接民主主義国家ではあり得ず、多くの人々の反対の声を押しつぶすという成功するはずのない試みを行う軍部独裁国家に完全に移行せざるを得ないことになるかもしれない。

そのようなあからさまにアパルトヘイト的な国家は、世界のどこに行っても人々からの支持を得ることはできないだろうし、それは教育を受けた良心的なアメリカ人の間でも同じだろう。外国からの資金提供と軍事援助に頼りきっているイスラエルにとって、世界から支持を得られない状態になってしまえば、イスラエルの存続自体を確たるものにする根本的な主義が侵されることになる。

トランプ大統領とネタニヤフ首相は、自らの党派間の争いを手段を選ばず優位に進めようと、シオニズムの最も壮大な野望を全て実現したと自慢げに語っているが、実際には、長期的に見ればシオニズムの消滅を確実なものにしているだけだ。

  • バリア・アラムディンは、受賞歴のあるジャーナリスト兼ニュースキャスターとして、中東及びイギリスで活動中。Media Services Syndicateの編集者であり、これまで多くの首脳をインタビュー。

 

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