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野蛮な人質外交はイランにとって逆効果である

2022年3月16日、オマーンのマスカットに到着した、イランから解放されたナザニン・ザガリ・ラトクリフ氏(手前)とアヌシェ・アシュリ氏。(オマーン通信社 via AP)
2022年3月16日、オマーンのマスカットに到着した、イランから解放されたナザニン・ザガリ・ラトクリフ氏(手前)とアヌシェ・アシュリ氏。(オマーン通信社 via AP)
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18 Mar 2022 11:03:51 GMT9
18 Mar 2022 11:03:51 GMT9

英国人ナザニン・ザガリ・ラトクリフ氏が、イランで最もでたらめな容疑で6年間拘留された後、ついに釈放された。これは万人の喜びである。英国のリズ・トラス外相は水曜日、ロンドンがテヘランに4億ポンド(5億2500万ドル)の「合法的な債務」を支払い、それが人道支援の目的にのみ使用されるという保証を得たことを確認した。この債務は、1970年代にイランの国王が1500台の英国製戦車を発注したことに由来する。しかし、引き渡しを受ける前に国王は現政権に追放された。その後、イランは世界最大のテロ支援国家になった。

英国政府は、そのような政権に最先端の軍備を提供することは、責任を負えないと判断した。しかし、イスラム指導者(ムッラー)たちは返金を受けることをあきらめず、人質外交という手慣れた政策に打って出た。テヘランの新政権が数十人のアメリカ人外交官を1年以上拘束した、悪名高い「イランアメリカ大使館人質事件」に始まり、こうした人質獲得は1979年のイスラム共和国の設立当初から「外交」の武器に含まれてきた。

最近では、外国人が大使館襲撃に巻き込まれることはない。その代わり、外国人はスパイ行為や政権に対する脅威という偽りの容疑で個人として逮捕される。その後極めて不透明で政治的動機に基づく裁判で有罪判決を受ける。そして、これらの不幸な民間人は、その出身国との交渉のための切り札として保有されるのである。

しかし、テヘランがこの手法を開拓してから40年、いまだに有効であることが不可解である。英国の人々は、ザガリ・ラトクリフ氏のケースを広く知っており、彼女がかけられた裁判は茶番劇だと考えていた。私たちは皆、英国政府に彼女の解放を要求した。しかし、この不正がイラン政府以外の何者かによって行われたとは誰も思っていなかった。英国政府に対して、テヘランの気まぐれや欲望に屈するように圧力をかける者はほとんどいなかったのである。

ナザニン・ザガリ・ラトクリフ氏の事件が達成したことといえば、怒り、落胆、信頼の崩壊、そしてテヘランに対する敵意だけであろう。

アジーム・イブラヒム博士

つまり、今回の事態がロンドンに与えた圧力の結果が何であれ、それはテヘランの目標に好意的・同調的な方向でなかったことは確かだ。どちらかといえば、その逆であった。1953年のモハメド・モサデグ民主主義政権の崩壊や、その後のレザー・シャー・パフラヴィー独裁政権への英国の支援など、イラン問題への英国の関与という真に暗い歴史を認める者にとってさえ、これは変わらないザガリ・ラトクリフ氏のような無実の民間人、それも英国人だけでなくイランで生まれ育った人をこのように非人道的に扱えば、テヘランへの同情は一瞬にして消えてしまうのだ。私たちが政府にザガリ・ラトクリフ氏やカイリー・ムーア・ギルバート氏のために「何かをしてほしい」と求めるとき、それはイランに有利になるように何かを譲ることを要求しているのではないのだ。

ヨーロッパの大半は、トランプ政権時代にアメリカが核の「包括的共同行動計画(JCPOA)」から手を引いたとき、イランが傷ついた当事者だと考えていた。オバマ政権はこの協定に、テヘランが協定を守ることを確認するための強固なコンプライアンス体制を盛り込んでいた。そして、我々の知る限り、テヘランは実際にその約束を守っていた。だからこそ、英国は欧州の同盟国とともにこの協定を支持し続け、バイデン政権下で協定を復活させるための交渉において、事実上イラン側の支持を主張することになったのであろう。

その点で、ロンドンはイランからの誘導や強制を必要としなかった。にもかかわらずイランは、罪のない市民を人質に取るという形で、英国政府に影響力を行使しようとした。そして達成されたことといえば、怒り、落胆、信頼の崩壊、そしてテヘランに対する敵意だけであろう。すべてが衝撃的な逆効果である。

JCPOAは、イランと欧米の関係正常化に向けた歓迎すべき第一歩であり、恒久的な平和に向けた有望な一歩であった。私たちは引き続き平和を願い、それに向けて努力する。しかし、イランが実践している人質外交は野蛮で非人道的なものである。このため、欧米の平和構築者であろうとする人々でさえもイラン政権を敵視し、一方で戦争タカ派にはさらなる武装の口実を与えている。

アジーム・イブラヒム博士はワシントンDCのニューラインズ戦略政策研究所のディレクターであり、米国陸軍士官学校戦略研究所の研究教授。Twitter: @AzeemIbrahim

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