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ウクライナ危機は、公平な多国間主義の必要性を浮き彫りにした

ウクライナの首都キーウの北西にあるブチャの町で報道陣の取材に応じるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。2022年4月4日。(AFP)
ウクライナの首都キーウの北西にあるブチャの町で報道陣の取材に応じるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。2022年4月4日。(AFP)
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08 Apr 2022 12:04:12 GMT9

火曜の夜に行われた国連安全保障理事会のウクライナに関する討議で、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、こう問いかけて理事会のメンバー国に行動を呼びかけた。「国連はもう終わろうとしているのか。国際法の時代は終わったとでも思っているのか」

ゼレンスキー大統領の発言は、最近は国際法の支配が著しく損なわれており、それに伴って、崇高な国際社会のルール・ベース・システムも損なわれているという多くの人々の実感を表している。ウクライナ危機は、世界のルール・ベース・システムの崩壊を示す最新の例だが、その他にも例は尽きない。

ウクライナについての最近の国連での議論を聞いていると、語る人によって国際法という言葉が異なる意味を持つことに気づかされる。以前から、いくつかの原則には様々な解釈が存在したのは事実だが、第二次世界大戦後、国連やブレトンウッズ機関などの改革により、国際法の基本原則や国家間の関係をめぐるコンセンサスが何とか形成されてきていた。

しかし、近年では、一つの国際ルールに基づくシステムという考え方は否定されつつあり、「システム同士の競争」という冷戦時代に東欧圏で流行した考えが好まれるようになっている。

国際社会のシステムは第二次世界大戦後からずっと制作段階にあるといえるが、現在「国際ルール・ベース」と呼ばれる秩序やシステムは1990年代、ソ連崩壊後に米国を中心とする西欧諸国によって形づくられた部分が大きい。この言葉は、フランシス・フクヤマの著書『歴史の終わり』、つまり、「システム同士の競争」という仮定の終焉によって広く知られるようになった。

それでも、この新しい用語は、世界中で多くの信奉者を生み出し、様々なコミュニティでは新旧の福音を説くことが仕事における必須条件のようになった。人気が出たのは、戦後の多国間体制、国連憲章や国際法の尊重に支えられていたためだ。だが、最大の魅力は、安定と、それに伴う繁栄と、長く続く平和への希望だった。

9.11のテロと、特にそれに対する米国の対応は、この国際的なルール・ベース・システムにまつわるコンセンサスの崩壊を加速させた。米国やその他多くの国々が、反テロリズムを名目に手段を選ばない戦争を展開したためだ。「テロとの戦い」で採用された戦術は、従来の法執行のルールを超え、主権の尊重や国境の不可侵性など、これまで神聖視されてきた新秩序のルールの多くに反していた。

たとえば、イラクへの侵攻は、誤った情報に基づいており、国連の安全保障理事会からの適切な承認なしに実行された。これによって中東の様々な問題が詰まったパンドラの箱が開けられ、国際法の支配が崩れる一因となった。日常的に行われる拷問や国境を越えた逮捕、標的型暗殺、グアンタナモ湾でのテロ容疑者の裁判なしでの長期拘留なども、同様の効果をもたらした。

テロとの戦いの意図はたいていが崇高なものであったが、その戦争において用いられた手段は無秩序な空気を助長し、そこに崇高な意図を持たない国々が飛びついた。

新たな「ルールのない」混沌状態で、イランはテロや宗派の民兵組織、外国の傭兵を使って近隣諸国の問題に干渉し、その影響力を拡大する過程で何百万人もの命を犠牲にし、行く先々に不安定と貧困をもたらした。

シリアのアサド大統領も自国民を徹底的に攻撃し、化学兵器や民間人居住区への無差別空爆により50万人以上を殺害した。さらに多くの人々が拷問を受け、行方不明となった。シリアの人口の半数は家を失い、難民や国内避難民に認定されている。

シリアの騒乱に対する国際社会の反応は力なく、それもルール・ベース・システムに深刻なダメージを与えた。特に、アサド政権が国際法に明らかに違反している化学兵器を何度も適用した時にそれは際立った。

ミャンマーの少数民族に対する大量虐殺政策に対しても、難民への支援以外、国際社会からの反発はほとんどなかった。そして、2019年にインドがカシミール地方の特別な地位を剥奪し、多くの国連決議に明確に違反して事実上の併合を行い、何十年も続いてきた安定した地域の取り決めを根底から覆した時にも、国際社会はほとんど反応しなかった。

残念なことに、1990年以降の世界秩序のルールを破った国の例は尽きず、その多くは「グローバル・サウス」で起こっている。こうした違反行為に立ち向かう国際社会の行動は限られており、秩序の存在への信頼が失われる恐れがある。中国と米国の貿易戦争や新たな冷戦も、世界秩序への信頼を低下させる一因となっている。

途上国が大きな犠牲を強いられる場合、復旧されたシステムが全世界に適用されることを保証する必要がある。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士

ウクライナの戦争は、我々の目を覚まさせ、多国間主義や国際的なルール・ベースの秩序を取り戻すための真剣な取り組みが必要であることを思い出させてくれた。ウクライナ危機とそれ以前にヨーロッパの外で発生した危機に対する反応の対比は、新たに取り戻した秩序では公平性が必要であることを浮き彫りにしている。

ほぼ全世界がウクライナを支持している現状を捉え、多国間主義への支持を新たにしていくべきだが、この危機的状態が緩和された後、国際社会の主要国がどれほどコミットメントを見せるかについては懐疑的な意見が根強い。途上国が大きな犠牲を強いられる場合、復旧されたシステムが全世界に適用されることを保証する必要がある。

復活したルール・ベース・システムのルールについて、関連するすべての国や地域が真剣に議論し合うことが大切だ。ウクライナ戦争以降も、そのシステムを継続していくために。

  • アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士は湾岸協力会議政治問題・交渉担当事務次長で、アラブニュースのコラムニスト。本記事で表明した見解は個人的なものであり、湾岸協力会議の見解を必ずしも代表するものではない。ツイッター: @abuhamad1
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