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未来の医療を根本的に見直す必要性

疫学者は、感染症の発生を予防、警告、緩和、管理する上で重要な役割を担っている。(AFP)
疫学者は、感染症の発生を予防、警告、緩和、管理する上で重要な役割を担っている。(AFP)
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25 Aug 2022 04:08:05 GMT9
25 Aug 2022 04:08:05 GMT9

新型コロナウィルス感染症の発生以来、医療関連のニュースは世界中で大きく取り上げられるようになった。世界がこの厳しい戦いを制しつつある中、各国政府はパンデミック時に経験した重要な課題を振り返るとともに、将来に向けてより合理的で包括的な医療モデルを再考し、作り出す必要がある。

このモデルでは、さまざまなきっかけで発生しうる複雑かつ緊急の健康問題を考慮する必要があるため、優れた医療サービスを提供するために、医療訓練を受けた多様な人材への投資を行う必要がある。そのため、当面は専門分野に特化した有能な医療従事者が必要とされるだろう。

今回のパンデミックは、感染症の予防、警戒、緩和、管理において疫学者が果たす重要な役割を浮き彫りにした。その証拠として、パンデミックの発生以来、発生源の特定、感染の主要因の理解、集団間でのウイルス拡散の監視など、タイムリーな意思決定につなげるための意欲的かつ徹底的な取り組みが数多く行われている。

さらに疫学者は、地域別の1日の患者数、入院率、死亡率、患者の人口統計データ、重症化の危険因子、一般的な症状、有効な治療法などの有益なデータを公表し、この疾患自体に対する理解を深める上で重要な役割を果たした。このような有益な情報を集約すれば、リーダーは様々なシナリオで病気の影響を軽減する方針を示すために利用することができる。

また疫学者は、緊急事態や危機管理の専門家チームと協力して、科学的根拠を主要な基準として、各国が不安定な衛生危機に鋭敏に対応できるように対応するための行動計画を策定しなければならない。

また、疫病の発生件数が増加するにつれ、関連する環境リスクと様々な健康問題を結びつけることができる環境衛生の専門家を確保することも必要になってくる。

サラ・アル=ムッラ

例えば、ロンドン大学インペリアルカレッジの医学研究評議会世界感染症解析センターは、200人以上の研究者で構成されており、感染症のモデル化とマネジメントに関する重要な研究を行っている。同センターは、H1N1インフルエンザの大流行、中東呼吸器症候群(MERS)の流行、ジカ熱の流行、西アフリカとコンゴ民主共和国でのエボラ出血熱の流行など、リアルタイムの疫学モデリングと影響評価を行うことを中核業務としている。

また、疾病の撲滅、軽減、蔓延防止を目的とした集団予防接種キャンペーン、行動変容、健康教育プログラムなど、公衆衛生の向上に向けた介入策の効果も評価している。

今後疫病の発生件数が増加するにつれ、関連する環境リスクとさまざまな健康問題を結びつけることができる環境衛生の専門家を雇用することも必要になってくる。屋外や屋内の空気の質、水や衛生システム、廃棄物管理、生物多様性保護などの改善努力は、パンデミックの発生や急速な拡大の可能性を低減するために必要な政策手段の一部に過ぎない。

アメリカ疾病対策予防センターが2017年に発表した研究によると、専門家は、動物から人間へと伝染する病気である人獣共通感染症が、将来的に人間が罹る新たな病気や新種の病気の4分の3を占めると予測している。こうした病気の引き金となる根本原因に対処することが、人々の健康を守り、早期死亡率を減らすことにつながるのだ。

新型の疾患が出現し、既存の疾患と複合的に作用するようになると、政府は効果的な介入、公衆衛生に影響を及ぼす行動・社会的要因、効果的な治療、予防戦略に関する指針を提供できる強力な科学的証拠に頼ることが極めて重要になるだろう。

また、影響力のある研究プロジェクトを支持することで、患者の生活を一変させる画期的な技術革新につながる可能性もある。現在、世界中の多くの研究機関で特に注目されている分野は、疼痛管理、高齢者医療、小児の希少疾患、予防医学と疫学、感染症、女性の健康などだ。

これらの取り組みに共通するのは、意思決定の判断材料としてビッグデータ解析が欠かせないということだ。デジタル情報化時代は、医療システムにおける数々のイノベーションへの道を切り開き、患者にとっての総合的な価値を向上させた。

成功を収めてきたデータに基づくソリューションの例としては、医療施設に十分な数の医療従事者を適切に配置するための患者・スタッフ比率の予測、医療記録のデジタル化による病歴の容易なアクセスと追跡、有効なケースマネジメント原則の特定、医療ミスの調査、医療機器と供給管理の改善、処方管理プロセスの強化、学習と開発へのデータの活用などがある。

同じように、将来的に患者に優れた医療サービスを提供するためには、医療技術への依存と資本化がますます進むだろう。これらのイノベーションの中で最も重要なのは、遠隔医療相談システムを通じて、いつでもどこでも医療ケアを提供できるようになることだろう。

CTスキャンを解析する人工知能、外科医の手術をサポートする複合現実ヘッドセット、スマートウォッチを使った血液分析など、診断と治療を支援するテクノロジーへの道はすでに開かれている。

公衆衛生政策の根幹にあるのは、患者が自分の健康管理を自分の手で行えるようにするためのエンパワーメントだ。そのためには、健康増進の専門家チームを育成し、コミュニティの中でセルフケアや自己管理に関する重要なガイダンスを提供することなどが考えられる。

一般的なプログラムとしては、コミュニティのさまざまなセクションを対象としたオンライン健康ポータルの立ち上げ、学校給食のメニューや体育の授業の見直し、病気やその原因に関するコミュニティ向けの啓発セッション、多くの人に見てもらうための有益な医療ドキュメンタリーの制作などが挙げられる。

これらを支援するために、保健機関は行動医学の専門家を雇い、健康に関する意思決定における主な要素を理解し、患者のさまざまな障害や動機を考慮した介入や指導の設計を支援する必要がある。

各個人が自分の健康に責任に持つことに加えて、公衆衛生政策では、子ども、高齢の親、慢性疾患を持つ人など、弱い立場にある家族のケアに必要な知識とスキルを身に付けさせられるよう努めなければならない。臨床ソーシャルワーカーも採用し、患者が自宅で安心して適切なケアを受けられるよう家族を支援し、介護技術に関する効果的な指導を行い、予防的観点でもって医療機関への依存を減らしていく必要がある。

このような公衆衛生の構造的な変化を検討することによって、リーダーはその崇高な使命を支えるエッセンシャルワーカーや有能なスタッフのいるチームとの関わりを通じて、医療サービスのスペクトラムを再構築することができるようになる。

  • サラ・アル=ムッラ氏はUAEの公務員。人間開発政策と児童文学に関心を寄せている。連絡先:www.amorelicious.com
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