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世界の一部だけではなく全体の利益のためには持続可能性に対する思慮深いアプローチが必要

抗議として政府の看板にトマトスープを投げつけて逮捕される「ジャスト・ストップ・オイル」のメンバーたち。2022年10月17日、ロンドン。(写真:AP)
抗議として政府の看板にトマトスープを投げつけて逮捕される「ジャスト・ストップ・オイル」のメンバーたち。2022年10月17日、ロンドン。(写真:AP)
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21 Oct 2022 11:10:22 GMT9
21 Oct 2022 11:10:22 GMT9

戦闘的な気候活動グループが自分たちの信念に対する注目を集めその計画を推進するための最も効果的な方法は、ショックを与え混乱を引き起こすことだ。

それは、もはやショックとなるものが何もない世界においては、ますます大げさな行動へとつながる。そのようなニュースが増えている。主に掲げられる目標は化石燃料の生産をやめさせることだ。交通を妨害するための道路上の障害物を毎日のように目にするようになった。先週には、2人の抗議者が化石燃料のない未来を要求するためにゴッホの絵に向かってトマトスープの缶を投げつけた一方、スコットランドヤードの看板にスプレーを吹きかけた者もいた。

畜産、特に養牛を標的とする抗議の新たな波が始まっている。植物ベースの食料サプライチェーンを要求することが目的だ。抗議者たちは、伝統的な畜産は気候に対して最大の悪影響をおよぼしているためやめる必要があると信じている。

活動団体が自分たちの要求への注目を集めるためにスーパーマーケット店内で牛乳をぶちまける一連の事件がイギリスと欧州で発生している。彼らは植物ベースの製品への移行と伝統的な畜産からの脱却を要求している。

NGOや各種NPOによるこうした行動は事態の一面にすぎない。

ソーシャルメディアでは、自分たちの計画を押し付けることに大きな重点が置かれている。政治家に抜本的な変革を行うよう圧力をかけるキャンペーンが行われているのだ。

政治家は過去10年、エネルギーや化石燃料に関するこういった圧力に屈し、代替案を確保することなく抜本的な施策を実施してきた。

気候に悪いと思われているという理由で原子力発電をやめ、石油精製所への投資を困難にし、気候にとっての好ましさを優先して地政学的現実を無視することを選んだのだ。

そして現在、現実から乖離した決定を主因として、欧州と世界のエネルギーサプライチェーンは崩壊している。政治家は完全な再生可能エネルギーを実現したとしきりに言っているが、電力需要や永続性を考慮していない。

そんなわけだから、政治家は有権者に対し、エネルギー節約のために集団でシャワーを浴びようなどという突拍子もない要請をしているのだ。現在の状況は石炭発電所の再稼働にもつながっている。つまり、政治家は圧力に屈したことでエネルギーサイクルを破綻さえてしまったのだ。

私が憂慮しているのは、食料供給についても同じ方向に進みつつあるのではないかということだ。既に畜産技術の禁止・妨害が行われているが、それを代替するものについては考慮されていない。その禁止が畜産物の品質や量にどのように影響するだろうかと問う者が誰もいないのだ。

ドイツのいくつかの都市は食肉の広告を禁止し始めている。数十年前の酒やタバコと同様に。

このような、ソーシャルメディアユーザーを喜ばせることを狙った拙速かつ極端な決定は、壊滅的な影響をもたらし、世界各地を飢餓に直面させるだろう。

そして、重要なのは次の点だ。エネルギーにせよ食料にせよ、最大の被害を受けるのは欧州や西側の人々ではなく、それらの資源が不足しているアフリカやアジアに住む人々だということだ。

こういったNGOに資金提供しているグループの大半が無視しがちなのはこの点だ。欧州や西側は世界の他の部分と比較してショックを吸収する余地を多く持っている。現在のようなエネルギー情勢であっても欧州は乗り切ることができるだろう。

世界の他の地域にはそのような余地はないし資金もないため、完全な崩壊に至る可能性がある。したがって、持続可能性に対するより的を絞った思慮深いアプローチが必要なのだ。それは地球全体に配慮したもの、一部の人を喜ばせるのではなく全員のことを考えたものでなければならない。

我々は地球をもっと大切にする必要がある。気候に対する影響を確実に軽減する必要があるのだ。

我々は皆、無害な環境で暮らしたいと思い、バランスの取れた変化に富んだ農業景観を望み、植物や動物の豊かな多様性を求めている。持続可能性についての目標は誰にとっても重要なものである。それは常識に基づいたものであるべきだ。しかし、そのような目標を実現するために西側の政治家が取っている行動は非生産的で有害なものになりつつある。拙速に決定を下すことが問題なのだ。残念ながら、彼らは自分たちの行動を正当化するレポートさえ作っている。

現在のエネルギー情勢をパンデミック後の需要のせいにすることはできない。誤った決定が積み重なった結果こうなったのだ。

持続可能性に対するより的を絞った思慮深いアプローチが必要なのだ。それは地球の片側だけでなく全体に配慮したものでなければならない。

ハーリド・アブー・ザフル

農業部門において同様の事態を発生させるわけにはいかない。食料に関して同じような混乱に直面すれば世界の人口全体が飢えることになるからだ。西側の政治家がこのような拙速な決定をし続けるのであれば、今後何百万人もの人々が飢えるだろう。そうなったら彼らは誰を責めるのだろうか?

環境や地球への配慮を独占できる者はいない。特に農業に関しては、何を行う必要があるのかという考えを押し付けるべきではないのだ。必要なのは、常識と技術革新を増やし、バッシングとボイコットを減らすことだ。

  • ハーリド・アブー・ザフル氏はメディア・テック企業ユーラビアのCEO。アル・ワタン・アル・アラビ誌の編集者でもある。
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