シネム・センギス

トルコ共和国最高選挙管理委員会は、4月27日から5月9日にかけて実施される国会議員選挙および大統領選挙において、海外在住のトルコ人が越境や海外の選挙会場で投票できるようにすると発表した。選挙は5月14日に実施される予定だ。

トルコ共和国建国100周年と重なるこの選挙は、トルコの歴史上最も劇的な選挙と言われている。したがって、何百万人もの有権者の選択が極めて重要になる。一票一票が重要な意味を持つため、ディアスポラおよびディアスポラの選挙参加という話題は、競合する政党にとって非常に重要な意味を持ち、特別に注目されている。

この10年間、トルコの政党は積極的なディアスポラ関与政策を展開し、トルコ人のディアスポラを重要な選挙民の獲得源とすることに注力してきた。トルコの人口は8,000万人以上、海外在住のトルコ人は約700万人で、その大部分（約90%）は西欧州諸国に住んでいる。トルコ国籍を持つこうした移住者は選挙での投票権が付与されている。

ディアスポラの間で自国の政治を維持し、トルコ人の参加を促進するため、トルコは2010年に特別機関「在外トルコ人と関連コミュニティのための大統領府」を独立した政府機関として開設した。トルコの新大統領制で廃止された首相府の後援のもとに設立され、現在は文化観光省のもとで運営されている。

トルコの議会制が大統領制に変更された2014年の大統領選挙以降、欧州などのトルコ人がトルコの選挙に投票できるようになり、欧州諸国の一部の政治指導者が活発な選挙運動を行うようになった。ディアスポラ票の問題については、トルコがEU諸国と外交問題で対立し、トルコ政府高官や国会議員が海外居住者の集会で演説することを禁じた際にも議題となったことがある。こうした事件は、トルコとEUの関係を史上最悪なものにしたが、これらの政党は、海外在住のトルコ人から自分たちの党に有利な票を獲得することにも役立った。

選挙まで2カ月を切ったが、海外在住のトルコ人向けの選挙運動は特に実施されないようだ。

シネム・センギス

トルコ南部とシリア北部を襲い、5万人以上の死者を出した2月6日の大地震の前に、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、オラフ・ショルツ首相との会談に向けドイツを訪問する予定だった。アナリストによると、ショルツ首相はトルコ側の条件として、エルドアン大統領がドイツを訪問中に一切の集会を開かないことを求めたという。

トルコ人移民の最大のコミュニティが存在するドイツでは、与野党ともに集会やイベントを通じて5月14日の選挙を自国の都市に持ち込むことに反対している。

例年、トルコの選挙戦では、こうした集会がアンカラとベルリンをはじめとする欧州の首都との間の危機を招いた。2017年のドイツの法的規制では、EU圏外の国々出身の政治家は、選挙日の3カ月前よりも以前にドイツ国内で選挙集会やイベントを開催することができないことになっている。

このような背景から、トルコ大統領のドイツ訪問の内容や時期について、トルコとドイツの間で合意が得られず、訪問が中止されたと報じられた。また、与党・公正発展党の代議士がドイツで選挙活動をしていたことも、訪問が中止になった理由の一つであるとの報道もあった。この展開が議題になったのは震災後であり、トルコの政党幹部が欧州の都市でイベントや集会を開催しようとしたことは、現時点では皆無である。そのため、選挙まで2カ月を切ったが、海外在住のトルコ人向けの選挙運動は特に実施されないようだ。

世界では、在外投票に対して2つの相反するアプローチが存在する。在外投票推進派は、海外居住者が民主的権利を行使し、母国の将来について発言できるようにすべきであると主張する。一方、海外居住者は海外に住むことを選択したのだから、選挙が実施される国内に住む人々に関するいわゆる社会契約には含まれないという批判もある。つまり、国境を越えた有権者は、自身が投票したリーダーによって直接統治されるわけではないので、統治される側のみがこの権利を実践すべきなのだ。

トルコでは、海外居住者は国内の市民と同じように国の経済的、政治的課題に直面していないという批判もある。そのため、海外居住者の投票は国内の人々の意見を反映したものになっていない。

いずれにせよ、トルコ人のディアスポラの人々が母国で投票できるようになるのは、今回の選挙で6回目となる。海外居住者の票が選挙結果を大きく左右することはないものの、論争の多いトルコの選挙において、今回の選挙では競合し合う政党にとって、一票一票が重要になる。

• シネム・センギス氏は、トルコの政治アナリストで、トルコと中東の関係を専門としている。ツイッター：@SinemCngz