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ネタニヤフ首相への批判を強めるバイデン大統領

バイデン政権には、イスラエルの民主主義体制の維持のために、米国の影響力を行使しイスラエルに圧力をかける用意がある。(資料画像 / AFP)
バイデン政権には、イスラエルの民主主義体制の維持のために、米国の影響力を行使しイスラエルに圧力をかける用意がある。(資料画像 / AFP)
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13 Apr 2023 01:04:52 GMT9
13 Apr 2023 01:04:52 GMT9

米政府関係者は、現在のイスラエルとその指導者への失望を示すのに用いる婉曲表現を使い果たしかけている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と彼の同調者らによる反民主主義的かつ無謀な動きへの批判がいわゆる匿名の情報源ではなく、例えばジョー・バイデン米国大統領やアントニー・ブリンケン米国務長官といった人々の口から直接発せられるようになったことは新奇で歓迎すべきことだ。

米政権とイスラエル政権の意見の不一致は前例の無いことではない。これまでの重大局面として、1956年のスエズ危機後のドワイト・D・アイゼンハワー米大統領によるシナイ半島からのイスラエルの撤退の要請、あるいは、1978年にエジプトとの和平合意に必要な譲歩をイスラエルのメナヘム・ベギン首相に求めたジミー・カーター米大統領のそこはかとない圧力、1991年にマドリッド平和会議に注力していた米政権によるイスラエルが新たな入植地の建設を中断しなければ財政的な制裁を加えるという脅迫を挙げることができる。こうした局面のすべてで、他の場合と同様、イスラエルはこの緊密な同盟の上級メンバー国の意向に従って行動の修正を行ってきた。

とはいえ、こうした局面のいずれにおいても、米政権は両国間の絆を疑問視することはなかった。すべての場合において、米政権はイスラエルとの意見の不一致は友好国間のものであることを明確にしていた。しかし、現在、イスラエルの司法を弱体化しようという動きに対して、バイデン大統領と米政権の非常に高いレベルの人々がこの政策が現実となった場合には両国間の関係の本質そのものを疑問視すると言い出すほどの明確な非難を行っている。これは、米国の姿勢の根本的な変化である。イスラエルの自由民主主義的な性質を損なおうとする試みについて、これら2つの同盟国の関係に亀裂が広がっていることを象徴的に表しているのが、不賛成の頻度とその原因、そして不賛成を示すために使用される語彙である。さらには、ネタニヤフ首相と彼の政権に対する米国の批判は、いわゆる司法改革に対するイスラエル全国での抗議行動が勢い付くにつれて、一層大胆になっているように見受けられる。これは、イスラエルの抗議行動者たちにとって、自国の民主主義を守るためのもっともな奮闘を継続する上で、追い風になるに違いない。

ネタニヤフ首相は40年以上にわたってバイデン大統領と知己であること、そしてこの現在の米政権の指導者がイスラエルに長年にわたって友好的であることに言及し続けている。この2点は紛れもない事実だ。しかし、ネタニヤフ首相が最近述べることは何事であれ鵜呑みにするわけにはいかない。これら2つの事実は、むしろ、民主主義国家としてのイスラエルの未来についてバイデン大統領が非常に深く懸念している理由を示している。バイデン大統領は、ネタニヤフ首相個人にも、また、彼の政府が進めようとしている法案の裏にある動機にも不信感を持っている。両首脳は、先月、電話会談を行った。その際、バイデン大統領は、ネタニヤフ首相に対して計画中の司法改革についての妥協点を探すことを勧めた。しかし、ネタニヤフ首相は、助言を聞き入れることなく、法案の成立過程を数週間停止することを提案した防衛相の解任を不用意に発表した。その結果、数万人が街頭での抗議活動を展開する事態が招かれてしまった。この経緯は、ネタニヤフ首相は、権力の座に留まるためであれば、イスラエルの治安を脅かし、イスラエルの利益のみならず中東地域の米国の利益すらも危険にさらす心づもりでいることを明確に表している。

バイデン大統領は、ネタニヤフ首相個人にも、また、彼の政府が進めようとしている法案の裏にある動機にも不信感を持っている。

ヨシ・メケルバーグ

こうした無責任な振る舞いを続けるネタニヤフ首相は、両国の密接な関係のおかげで、米国ほどイスラエルに強い影響を及ぼし得る国は無いという事実を無視しているかのようである。

さらには、バイデン政権には、イスラエルの民主主義体制の維持のために、米国の影響力を行使しイスラエルに圧力をかける用意があることが明らかになった。

ネタニヤフ首相をホワイトハウスに招待するかについて最近質問されたバイデン大統領は、「当面はしない」と簡潔かつ決然とした返答をし、イスラエル政権への不満を示した。

この返答はネタニヤフ首相に対する明確かつ公然たる外交的な痛撃であっただけでなく、イスラエルで展開している状況に対する米国の姿勢と、ネタニヤフ首相を「喜んで」歓待しつつイスラエル政府が選択した反民主主義的な進路に口先だけの非難めいた言辞を弄するヨーロッパの一部の指導者たちの姿勢の間の大きな相違を浮彫りにすることにもなった。そうしたヨーロッパの指導者たちがネタニヤフ首相を公邸で迎える事は、ネタニヤフ首相の行動に対する彼らの懸念の表明の影響力を低減させる。そのような歓待は、イスラエルの民主主義を損なったり、イスラエルによる占領を定着させたりするためにネタニヤフ政権が何をしようとも、イスラエルは西欧民主主義世界の一部であり続け、それに伴う利点は享受し続けるが果たすべき義務はないというイスラエルの右派の御伽噺の下支えになってしまうのだ。

外交においては、体裁は修辞と同等かそれ以上の力を持ち得る。また、イスラエルのある元高官が私に言ったことだが、世界がイスラエルについて何を言い何を考えようとも、礼儀正しく受け流されるのが関の山で気に留められることは無い。しかし、イスラエルがその安全保障と繁栄を依存している米政権相手ではそうはいかない。米政権に対して、「余計なお世話だ」とイスラエルの内政への口出しを控えるようにという趣旨の軽率な発言をするイスラエルの右派もいるが、あるイスラエルの政治家が述べたように、米国の膨大な軍事的、経済的、政治的な支援を享受しておきながらそれらを都合良く無視する事は、危険を覚悟で米政権を無視することに等しいのだ。さらには、米国は、イスラエルにとって最大かつ最有力な支援母体であるユダヤ人コミュニティを擁している。その大多数は米民主党に投票する。長年にわたって米国のユダヤ人コミュニティが大規模な支援をイスラエルに対して継続してきた理由は、イスラエルの民主主義的な性質である。それには、多様なユダヤ教をイスラエルが受容してきたことも含まれている。しかし、救世主を信奉する極右政権の手によりイスラエルの民主主義的な性質は現在危機に瀕している。そして、それに伴って、イスラエルと米国のユダヤ人たちとの絆も台無しになりかけているのだ。

先月開催された米国の現政権の取り組みである第2回年次民主主義サミットに向けて、バイデン大統領は、「米国内外で民主的なガバナンスを強化するための奮闘は私たちの時代を特徴づける挑戦です。それは、人々の人々のための人々による、透明性があり、説明責任を果たす政府こそが永続的な平和と繁栄、そして人間の尊厳を実現する最善の方法であり続けているからなのです」と主張した。ここで疑問が生じる。人々の意思を無視し、占領下で生活するパレスチナ人からすべてを奪い続けるイスラエル政権の反民主主義的な政策にバイデン大統領のように懸念を表明しつつ、他方ではイスラエルを依然として優遇し続けることを米国はいつまで続けられるのだろうか?

  • ヨシ・メケルバーグ氏は、王立国際問題研究所MENAプログラムの国際関係論の教授兼アソシエート・フェローで、国際的な出版メディアや電子メディアに頻繁に寄稿している。

ツイッター: @YMekelberg

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