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アラブ世界の食料安全保障を公共政策が促進する方法

持続可能な農業を育成し、全ての市民の食料へのアクセスを確保することで食料安全保障に取り組む公共政策。(SPA)
持続可能な農業を育成し、全ての市民の食料へのアクセスを確保することで食料安全保障に取り組む公共政策。(SPA)
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08 Jun 2023 10:06:04 GMT9

サウジアラビアとアラブ世界における食料資源の確保に不可欠なものは公共政策である。本稿では、アラブ世界における食料安全保障の文脈で、公共政策の役割について考察する。食料安全保障に関連する現行のプログラムや取り組み、政策課題を精査すると共に、食料安全保障の4つの側面である供給面、アクセス面、利用面、そして、安定面と、それぞれに対する公共政策の影響を分析する。

公共政策は、一般市民の要求に応えるために政府が用いる最重要手段であり、法律や規制、措置、資金拠出の優先度の組み合わせを通じて形づくられる。政府が社会的、経済的な課題に取り組むことを可能とするものが公共政策である。共通の問題に対しての国ごとの異なる解決策を公共政策は反映している。

国連の食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を、「あらゆる人が、十分で安全かつ栄養のある食料を安定して入手可能で、活動的で健康的な生活を送るための食事のニーズを満たしている状態」と定義している。世界銀行は、食料安全保障の達成のためには、次に述べる4つの次元が同時に満たされる必要があるとしている。

第1に、供給面である。当該の国または地域に食料が物理的に存在しているか否かである。持続可能な農業方式の推進や研究開発への投資、農家への財政的支援を通して公共政策は食品安全保障の供給面に好影響を及ぼすことが可能である。しかし、サウジアラビアやアラブ世界における食料の供給面での課題の1つは、輸入への依存である。アラブ世界は、その耕作地の制約や水不足、過酷な気候のため、食料の輸入に大きく依存している。この依存により、アラブ世界は価格変動やサプライチェーンの混乱に対して脆弱となっている。

第2に、アクセス面である。個々人が食料を入手する能力である。食料補助金を低所得世帯に提供したり、教育機関で栄養教育プログラムを実施したり、食料を必要とする人々に食料を配布するフードバンクを開設するといったことにより、公共政策は食品安全保障のアクセス面に好影響を与えることが可能だ。食料へのアクセス面においてサウジアラビアや他の湾岸諸国が抱えている課題は、所得の不平等の大きさである。アラブ世界で生活する多くの人々は、栄養価の高い食品を購入出来ず、貧困と失業が蔓延している地域もある。

第3に、利用面である。個々人が自身の栄養ニーズのために食品を効果的に利用する能力である。栄養教育プログラムを実施し、健康的な食習慣を推進することで、公共政策は食品安全保障の利用面に好影響を及ぼすことが出来る。しかし、サウジアラビアや他の湾岸協力会議加盟諸国にとってのこの利用面での課題は、不健康な食習慣の蔓延である。この地域の人々の多くは、飽和脂肪酸や砂糖、塩分を多く含む食事を摂取している。それは、肥満や糖尿病、その他の食生活関連疾患の発生率の高さに結果している。

最後に、第4の安定面である。当該国家や地域が、食品へのアクセスを長期的に維持する能力を意味している。持続可能な農業方式を推進し、食品廃棄物を減少させ、食品の備蓄と分配のインフラに投資することで、公共政策は食品安全保障の安定面に好影響を与えることが可能だ。この地域にとってこの安定面での課題は、食料生産やサプライチェーンを崩壊させ得る干ばつや洪水といった自然災害への脆弱性である。

農業開発の推進、研究への投資、貿易政策上の制約による不健康な食品の入手性の抑制によって、公共政策は食料安全保障に著しい好影響を及ぼすことが出来る。所得向上と貧困削減を目的とした政策は、人々の食料購入能力に好影響を与える。他方、教育や医療へのアクセスを制限する政策は食料安全保障に悪影響を与え得る。

アラブ世界の経済や社会、環境、そして人的資本に影響を与える非常に重要な課題として、多様なプログラムが食料安全保障を推進している。

トゥルキ・ファイサル・アルラシード博士

サウジアラビアのビジョン2030と国連の17の持続可能な開発目標に同調するように、アラブ世界の経済や社会、環境、人的資本に影響を与える非常に重要な課題として、多様なプログラムが食料安全保障を推進している。公共政策は、持続可能な農業の育成や商品廃棄物の削減、全市民の食料へのアクセスの確保を通じて食料安全保障に取り組んでいる。

経済的には、国家は、研究開発や再生化可能資源、国内での食料生産に投資することで、持続可能な農業を唱道することが可能である。そうすることで、食料の輸入への依存を減少させ、雇用機会を創出し、経済発展を進めることが可能となる。

社会的には、食料助成金の交付や栄養教育プログラムの実施、フードバンクの開設によって、公共政策は、飢饉や栄養障害、社会的排除への取り組みが可能となる。こうした対策は、最終的に公衆衛生を全体的に改善する。

環境的には、有機農業や農薬の使用制限、節水技術によって、公共政策は、持続可能な農業を目指し、食品廃棄物の削減を行うことが出来る。フードバンクへの寄付や家庭での堆肥化プログラムを推進する政策は、廃棄物対策に効果的である。

そして、公共政策が農業に特化した教育や訓練へのアクセスを可能とした場合には、人的資本が開発されるに至る。職業訓練プログラムや、研究と開発の支援、農業分野における奨学金制度は、すべて、労働者の技量向上に役立ち、農業部門の生産性の増加に資する。

供給面、アクセス面、利用面、そして、安定面のすべての側面に対して取り組む公共政策こそが、本質的に、サウジアラビアや近隣の湾岸協力会議加盟諸国における食料安全保障の確保において最重要事項なのである。効果的な公共政策は経済成長を刺激し、社会的包摂を促進し、環境を保護し、人的資本を向上させる。

食料安全保障政策を重視することは、サウジアラビアのビジョン2030や国連のSDGs、G20リヤド首脳宣言、第32回アラブ連盟ジェッダ・サミット最終宣言において示された目標の達成に役立つ。スーパーマーケットの在庫をモニタリングし、人口増加や都市化による需要増への対応を行うことは、持続可能な経済における食料安全保障の重要性を浮彫りにする。

結論として、食料安全保障は、サウジアラビアや他の湾岸協力会議加盟諸国そしてさらに広範なアラブ世界の経済的、社会的、環境的、人的資本に直接的に影響を与え得る根本的な懸案事項である。公共政策は、持続可能な農業を推進し、食品廃棄物を削減し、すべての市民の食料へのアクセスを確保するために、依然として不可欠である。

食料輸入や所得不平等、不健康な食習慣、自然災害への脆弱性の課題を認識しそれらへの対応を行うことで、公共政策はアラブ世界において健康的で食料安全保障を達成する枠組みを作り上げることが出来るようになる、これは、つまり、食料安全保障のための公共政策は、国家の安全保障や貧困緩和、総合的な経済成長にも資するということなのである。

サウジアラビアの指導層は、世界貿易機関(WTO)の食料安全保障の理解に沿って、食料安全保障を実施し、市民の栄養要件を満たすために、戦略的計画の立案と実施、そして、各政府や関係機関との協力に全力を上げている。

  • トゥルキ・ファイサル・アルラシード博士は、アリゾナ大学農学生命科学部農業生命システム工学科の非常勤教授。著書に『パブリック・ガバナンスと戦略的経営能力 湾岸諸国におけるパブリック・ガバナンス』 (“Public Governance and Strategic Management Capabilities: Public Governance in the Gulf States”) “と『農業開発戦略:サウジアラビアの経験』 Agricultural Development Strategies: The Saudi Experience)がある。
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