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二重災害への備え:洪水と地震

2019年10月17日、カリフォルニア州サンフランシスコで地震の訓練時に教室から避難する児童。(Getty Images/『AFP通信』)
2019年10月17日、カリフォルニア州サンフランシスコで地震の訓練時に教室から避難する児童。(Getty Images/『AFP通信』)
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27 Aug 2023 10:08:52 GMT9

通常、地震やハリケーンなど、複数の大災害が単一の地域を襲うことは想定されていない。ハリケーンが上陸すると、それは熱帯低気圧に変わり、急激な雨を降らせ、一部の地域では24時間で1年分の降水量が記録されることもある。その後、大雨は乾燥して干からびた丘陵地を大水となって下り、堆積物を巻き込みながら渓谷、川、そして小川に流れ込む。河川の氾濫も頻発し、被害は何億ドルにも及ぶことがある。

一部の学者は、地震と気候変動による異常気象が同時発生するシナリオを検討している。実際、地震と気候変動による異常気象が結びついた二重災害について、懸念はされつつも偶然が重ならなければ発生しないとも思われているが、発生すれば壊滅的な影響を及ぼす可能性がある。カリフォルニア州では、ハリケーン・ヒラリーが襲来したタイミングで、ロサンゼルスの北に位置するオーハイでM5.1の地震が発生した。この場所は、サンアンドレアス断層よりも危険な場所だ。なぜなら、この断層では100年を優に超える期間にわたって地震が発生しておらず、「巨大地震」の発生が予測されているからだ。

ハリケーンへの備えに心配が広がっている中で、いつまた地震が来るかわからない状況になれば、一部の人々は大きな不安を感じるだろう。気候変動によって、ハリケーンや台風がますます新たなパターンで大都市、ならびに港湾および鉄道などのインフラに激しい風雨をもたらすことが増えている。そのため、カリフォルニア州でこのほど発生した二重災害の他にも、二重災害は発生している。しかし、「二重大災害」は、人々の心配の原因になるだけではなく、理論的には経済への壊滅的な打撃にもなり得る。特に地震の可能性のある地域では、仮説的なシナリオ、気候変動のデータ、そして土壌侵食の測定値を組み合わせた予測分析を行っている専門家がいる。こうした専門家は、気候変動と侵食が大きな被害をさらに増大させる要因となると警告している。

米国は、米国中部での二重自然災害が発生するシナリオを検討しており、そのシナリオでは数十の橋やトンネルを含めて数多くの鉄道の線路や道路が破壊される可能性が指摘されている。このような災害が発生すれば、米国経済にどのような影響が生じるだろうか。気象パターンとインフラ、およびその下にある地盤という要因はますます交絡していく可能性があるため、上述のモデルは全世界に当てはまるものだ。たとえば、環太平洋諸国はすべて脆弱だ。その例としては、日本の福島の原発事故を挙げるだけで十分だろう。この事故は、2011年の地震によって引き起こされた津波が原因だった。福島で地震/原発の二重災害が発生したことから、同様の災害が再び起こる可能性に科学者の懸念が集まっている。

実際、カリフォルニア州では、今回のハリケーンによって州南部に位置する一部の石油精製所の安全性が損なわれるのではないかとの懸念がある。これらの施設に被害が生じたり稼動が停止することはなかったが、リスク評価計画でのシナリオ通りに進んでしまうかのように思われた瞬間もあった。

合計で1日あたり110万バレルの原油処理能力を持つロサンゼルス地域の各精製所は、1939年以来南カリフォルニア州に脅威をもたらす初のハリケーンであるハリケーン・ヒラリーの接近に備えていた。

当然、地震への備えは州によっても、さらには国によっても異なる。特に商業・ビジネス施設に関しては、カリフォルニア州は地震への備えに関して非常に厳格な規則と規制を導入しており、こうした規則や規制はインフラプロジェクトにも適用されている。それでも、安全保障関連の当局者は大規模な地震と洪水の同時発生の可能性を検討しており、州内でエネルギーを生産したり届けたりするのに必要な物流ラインが破壊される可能性があると危惧している。

米国中部で大規模な地震が発生すれば、数週間にわたって輸送と送電がストップしてしまう可能性がある。

セオドア・カラシック博士

重要な点として、米国西海岸地域は、現地の石油精製所ならびにアジアおよび中東からの石油輸入で内燃機関用燃料を調達している。カリフォルニア州と米国のメキシコ湾岸地域や米国中西部の精製所を接続するパイプラインは存在しない。しかし、心配が必要なインフラはそれだけではない。西海岸沿いの港湾は、海外からの商品およびサービスを運び込んで、米国内陸部への終着地に向かう列車に積み替える拠点として機能しているのだ。

これらの米国のインフラの多くでは深刻な老朽化が始まっており、改築が必要な状況となっている。こうしたネットワークを支えるインフラ周辺の地盤の状況を、気候変動を考慮に入れたより優れた科学研究を通して理解する必要が高まっている。特に、多くの脆弱な地域、特に海岸線近くの地域に位置する築30年超が経過した物流ラインに関しては、インフラの安全全般を再評価する必要がある。地震の際に地盤が液状化して、地震の揺れが増幅される可能性があるからだ。気候変動の影響を受けるようになる海岸線地域についてリスクアセスメント計画を立てる際には、港湾と鉄道が閉鎖される可能性も考慮しなければならない。

こうしたインフラは、激しい嵐にさらされる危険性が増している起伏に富んだ丘陵地帯と山々を通り、より強力なハリケーンに襲われやすい特定の海岸線に沿って走っている。米国中部で大規模な地震が発生すれば、数週間にわたって輸送と送電がストップしてしまう可能性がある。こうしたシナリオも検討されているが、気候変動を考慮に入れて、シナリオ自体を見直す必要もあるだろう。地震は確かに地震特有の周期で発生するが、山火事で地盤が非常に緩んだ地域に気候変動で風雨がもたらされると、地震後の復旧が複雑になる。

この他にも、洪水で国力が後退し、経済的な困難が深まる事例は、世界中で見られている。パキスタンは特に、他の地域にはないような洪水が発生し、排水と復旧作業に長い時間がかかることで知られている。幸いなことに、洪水の間には地震はなかったが、山岳地帯では何が起きてもおかしくなく、何かが起きれば現地だけではなく下流の人々も影響を受ける可能性がある。世界中のすべての国が同様の問題を抱えている。米国やパキスタンの他にも、多くの国々が大規模な自然災害に苦しんできているのだ。

全体として、政策専門家は気候変動に備え、国際会議などを通じて危険な災害を軽減するために必要な要件を揃える取り組みを進めている。しかし、事実として、地球は常に変動している。二重災害の理解を深めることで、より安全なインフラの整備の必要性や嵐による洪水への対応など、多くの懸念事項への注意を喚起できるだろう。

• 文責:セオドア・カラシック博士。ワシントンのGulf State Analyticsにて上級顧問を務める。Twitter @KarasikTheodore

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