Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

イスラエル人はパレスチナ市民を真の意味で対等な存在と認めるべきである

イスラエルのパレスチナ人の間の暴力は、刻々と時を刻む社会的・政治的な時限爆弾である。(AFP/資料)
イスラエルのパレスチナ人の間の暴力は、刻々と時を刻む社会的・政治的な時限爆弾である。(AFP/資料)
Short Url:
29 Jun 2023 03:06:42 GMT9
29 Jun 2023 03:06:42 GMT9

異例のことであるが、イスラエルの公共ラジオは先週、昼時のニュース番組の冒頭で、凶悪犯罪が急増するなか、今年に入ってこれまでに殺害されたイスラエル在住のパレスチナ人103名の名前を読み上げた。冷然としてはいるが、これは重要なジェスチャーであり、このほぼ毎日のように起こっている、全く制御不能に陥りそうな大虐殺の冷たい数字の背後にある名前を知らせるものである。

こうした犠牲がギャングの抗争によるものであれ、家庭内暴力によるものであれ、当局は事態を統制できなくなっているようだ。比較すれば、この事態の深刻さが明らかになる。2022年全体では、106人のイスラエル在住のパレスチナ人が殺害された。地域社会におけるこれまでの殺人件数は十分に衝撃的なものであったが、今起きていることは、直ちに、当局による協調的かつ断固とした対応を必要とする致死性の流行病に他ならない。

法の執行は初めの一歩であり、必要条件ではあるが、十分条件ではない。イスラエルの歴代政権が数十年にわたって放置してきたこと、その多くは、同国の人口の20%を占める大規模なパレスチナ人少数民族に対する社会的・制度的人種差別によるものである、という点に対処することによってのみ、この流血を伴う奈落の底から抜け出す道が開かれるのである。

暴力殺人件数の急増は、一般的犯罪の増加に起因するところが大きいが、それが傍観者を救済しているわけでもない。パレスチナ人は全人口の5分の1を占めるが、今年これまでに殺害されたパレスチナ人の76%はイスラエル市民であり、こうした犯罪が解決され、加害者が裁判にかけられる率はわずか25%で、イスラエルのユダヤ人よりもずっと低い。

イスラエルのパレスチナ市民は、原則的には平等な権利を享受しているが、差別されている領域も多い。外交問題評議会が3月に発表した報告書では、「ほぼすべてのアラブの町や都市で、ユダヤ人の多い町や都市よりも生活水準が低い」ということが強調された。不平等、貧困、人口密度の間に強い相関関係があることは、これまでに世界中の研究によって幾度となく証明されており、イスラエルにあるパレスチナの町や村の大部分では、この3つの要素すべてが高い水準で存在し、暴力犯罪の発生率も高い。

しかし、現在の殺人やその他の暴力犯罪の急激な増加には、長期的要因と短期的要因の両方がある。昨年の警察当局による主要犯罪ファミリーへの圧力が、犯罪ファミリー同士の分裂を生み、それが暴力的な対立につながったと主張する専門家もいるが、これはごく一部分の説明でしかない。あまりにも長い間、政府の政策は、ユダヤ人社会における場合と同じように、犯罪の予防と逮捕という観点からは犯罪に対処する能力の開発を重視してこなかった。これと相まって、犯罪組織が武器や弾薬を蓄えることが可能となり、その一部はイスラエル国内から違法に調達され、また一部はヨルダン川西岸やヨルダンから密輸された。犯罪者や犯罪予備軍にとって、裁判にかけられるどころか逮捕される可能性も極めて低く、簡単に武器を手に入れられると分かることこそ、暴力への誘因だ。

殺人事件の大半は、政府がその責任を負うべき法と秩序の崩壊に起因するものである。

ヨシ・メケルバーグ

たとえば、2週間前に性的指向を理由に家族から脅迫を受け射殺された18歳のサリット・アーメド氏のように、名誉を守るという名目でなされた殺人もあるが、殺人の大半は法と秩序の崩壊に起因しており、政府はその責任を取らねばならない。

史上最も過激な極右派政権が発足して以来、イスラエルのパレスチナ人殺害が急増しているのは偶然ではない。イスラエルが誕生して以来、人種差別的な要素が非常に強く働き、アラブ人同士の殺し合いが続く限り、イデオロギー的な理由でパレスチナ人が差別され、無視されてきたことは公然の秘密である。2021年春にパレスチナ人の間で勃発した紛争は、その一部が人種が入り交じった都市に住むユダヤ人の隣人に向けられたもので、当局に警鐘を鳴らすと共に、数十年にわたる国家への恨みと相まって、武器や弾薬の蓄積がすべてのイスラエル人にとっての問題であることを思い起こさせた。

2021年から22年にかけての短期政権、ナフタリ・ベネット氏とヤイール・ラピード氏の政権時代には、イスラエルに住むパレスチナ人の凶悪犯罪への取り組みにある程度の進展が見られた。これはまさに、この国の歴史上初めて、パレスチナ系政党が連立政権に参加した結果である。その結果、この悲惨な状況に対する態度が一時的に変化し、資源配分にも変化が生じた。しかし、こうした予算を増やすことに執拗に反対を煽り、偏狭な態度でハマスやテロ行為に資金を流すものであると評したのは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相やイタマル・ベングビール国家安全保障相など、現在権力を握っている人物たちだ。

イスラエルのシンクタンク、国家安全保障研究所(INSS)が先月発表した分析では、最近の犯罪増加の主な原因は、「表向きには、現政権発足以来、アラブ人地区の犯罪を抑制するための国家の取り組みが緩んでいることにある」と結論づけている。これはイスラエル国内にいる法を遵守している大多数のパレスチナ人にとっては、当局が再びパレスチナ人を見捨て、あらゆる種類の犯罪的暴力からパレスチナ人を守る責任を放棄しているというメッセージである。そのため、パレスチナ人は自分たちの将来を恐れ、国家の統治機関の真意を疑い、警察への協力に消極的になり、恐怖心さえ抱くようになる。

しかし、このような状況下で、ベングビール氏と同氏の超国家主義者の顧問団が考え出した最も創造的な解決策は、大半のパレスチナ人にとって抑圧と恐怖の原因である内部治安組織イスラエル総保安庁(シンベト)を積極的に関与させるというものだ。シンベトもイスラエルのパレスチナ市民も、独裁政権を連想させ、犯罪的暴力の防止だけでなく、政治的目的のために悪用される可能性もあるため、このような事態が起こることを望んでいない。

イスラエルのパレスチナ人の間の暴力は、刻々と時を刻む社会的・政治的な時限爆弾である。この問題を解決するには、何よりもまず、多数派であるユダヤ人側の根本的な意識改革が必要である。すなわち、パレスチナ市民が、他の国民と同じ社会的・経済的発展の機会を含め、市民権に基づくすべての権利と特権を与えられる真に対等な存在として扱われるようになる、という変化である。しかし何よりも、パレスチナ人の命が守られなければならない。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係学教授、チャタムハウスMENAプログラムアソシエイトフェロー。国際的なアナログ・デジタルメディアに定期的に寄稿している。

 

ツイッター:@YMekelberg

特に人気
オススメ

return to top