
ジョージ・チャールズ・ダーレー
リヤド : かつて、人類が生み出すごみは少量だった。食料は包装されることはなく、青果の皮は動物の飼料となった。馬やラクダの糞は肥料として使われるか、乾燥させて、暖を取る際の燃料として使われた。大地で生み出されたもののほとんどが、大地へ直接返ってゆき、環境を害することはほとんど、あるいはまったくなかった。
今日、私たちは消費の時代に生きている。多くの商品が購入されるものの、その結果生じるごみ処理に関して、その有害な影響が顧みられることはほとんど、あるいはまったくない。一度しか使わないものが大量に生産され、かなりの費用で流通している。それらはほんの一時だけ使用して、あとは永久に捨てられるのみである。
サウジアラビアでは毎年、1,500 万トンを下らないごみが発生する。そのほとんどが、巨大なごみ処理場行きとなる。そしてそこは、地中奥深くでしみ出る危険な毒素が蔓延する場所となる。
幸いにも、王国において、あるいは世界においても、海洋が変化する兆候は見られない。近年登場した「循環型経済(サーキュラー・エコノミー)」として知られる概念には、あらゆる形態の固形廃棄物は、新たな、あるいはさらに価値ある資源の原料となり得る、という考え方が内在する。
これは、中世において基材を金に変えようと探求した錬金術への、現代の解答である。
循環型経済には、アップサイクル ( 廃棄物をより価値の高い製品へを変換する処理 ) およびダウンサイクル ( 廃棄物を質や機能のより低い物の生産に使用する ) の両方がある。
プラスチックは、その出発点として分かりやすい。プラスチックは、およそ 100 年前には奇跡の物質として歓迎され、現在は食料雑貨店、衣類、自動車、そして電子機器の至る所で目にするものとなった。
プラスチックに対する当初の熱狂は、冷静に現状を把握することへと徐々に変化している。プラスチックは分解するのに最大 500 年かかり、そのため環境に惨状をもたらしている。私たちが日々目にする路上に捨てられたプラスチックの袋、コップ、ボトル、ストロー、これこそがその惨状である。
しかし、サウジアラビアでは、プラスチック廃棄物のおよそ 50 パーセントがリサイクルのために回収されているのをご存知だろうか。
この使用済みプラスチックは、一旦洗浄、加工され、ペレットに生まれ変わる。ペレットは熱を加えて溶かすことで、家庭用タイルからベンチ、道路わきの縁に至るまで、どんなものでも作ることができる。日本はこの分野の先駆者で、現在はプラスチック廃棄物のおよそ 90 パーセントがリサイクルされている。
実際、リサイクル目的での分類を容易にするため、様々な種類のごみを分別する収集容器が世帯に 6 種類以上あることは、日本では普通のことだ。
インドのケララ高速道路研究所は、リサイクルしたプラスチックを原料とする路面素材を開発した。それは、従来の舗装用アスファルトよりも耐久性があり、激しいモンスーンの雨にも持ちこたえることができるものだ。
また家庭の廃棄物から、家を暖めたり、将来の電気自動車を充電する際に必要なエネルギーを作り出せる可能性がある。
有機物は ( つまり、リンゴの芯から玉ねぎの皮にいたるまでどんなものでも ) 分解する際、メタンガスを発生する。そしてこれがエネルギー源なのである。その他の固形廃棄物、例えば厚紙や木は、焼却して、再度エネルギーを供給することができる。
これらの処理は総称して、「廃棄物からのエネルギー回収(WtE) 」として知られる。また、排出煙をろ過することで、WtE からの炭素排出をほとんどゼロにまで減らす方法も存在する。
キングサウード大学工学部が行った 2017 年の研究では、ジェッダだけでも、ごみの焼却から 180 メガワット (MW) の電力を、そしてごみを原料とする合成ガス (syngas) からさらに 87.3 MW 発電できる可能性があるという結果が導かれた。
ジェッダにあるキング・アブドゥルアジーズ大学の環境学研究拠点の助教アブドゥル・サッター・ニザミ博士による別の研究では、サウジアラビア全土の食料廃棄物を合成ガスプラントで活用した場合、年間 3 テラワット時を発電可能と推定される。
汚水は、 2 つの点でまた別の貴重な資源である。第一に、家庭廃棄物と同様、汚水はメタンを発生する。これはエネルギー生成に活用することができる。第二に、汚水を処理して、灌漑や産業用として再利用できる。
固形廃棄物および汚水の気化という可能性は、サウジアラビアには特に関連が深い。サウジアラビアでは、海水を脱塩処理することで大部分の真水を得ており、そのため一滴と言えども貴重だからである。
サウジ政府はすでにこれを実現しており、2030 年までに再生可能エネルギー源から、必要エネルギーの少なくとも半分を生成するための措置を、将来を見据えて講じている。「廃棄物からのエネルギー回収」は、この新しい枠組みにおいて、間違いなくその一翼を担うことだろう。
デンマークの都市、マーセリスボーでは現在、水処理施設を運転するのに必要な電力の 150 パーセントを、汚水から得たメタンにより発電している。余った電力は、家庭や事業所に飲料水を供給するのに使用している。
サウジアラビアの汚水の多くは、ろ過して転用されている。これによって、安価で豊富なエネルギーを生成する場面が生まれている。
土地の利用に関しても、同様の考え方を当てはめることができる。現在荒廃地として放置されている地域を、美しい公共空間として再開発することも可能だ。
サルマン国王は、この分野のパイオニアだ。彼がリヤド州の州知事に就くまでは、リヤドの西端を流れる干上がった川床、ワディ・ハニーファは、ごみや産業廃棄物が捨てられる見苦しい場所だった。
サルマン国王は、造園家、植物学者、そして水管理の専門家から成る国際チームと協働し、この枯れ谷を、今日のようなこの上なく美しい曲がりくねった公園地帯、数千本の木々が生い茂り、みずみずしい湿地帯があり、魅力的なピクニックのできる公園地帯へと生まれ変わらせたのだ。
荒廃地を再生した別の事例には、マンハッタンのハイラインがある。ここは、1960 年代にニューヨーク港の大部分が閉鎖されて以来、廃止されていた鉄道の高架部分だ。
この錆びついた景観を乱す建造物は、大きな混乱と多額の費用をかけて廃止する代わりに、コンクリートジャングルの間を抜ける、愛らしい緑あふれる遊歩道として生まれ変わった。現在は観光客が足を運ぶ主要スポットとなっている。
荒廃地を転用して、新しい魅力的な空間が形成されるように、多くのアーティストが、放棄された素材を使って驚くような作品を創り出している。彼らは同時に、私たちの住む星を過剰に酷使することに対して力強い声明を発表している。
ミラノに拠点を置くアーティスト、マリア・クリスティーナ・フィヌッティは、2 トンにおよぶプラスチックボトルのふたと、数千の赤い食料品用の袋を使い、それをリサイクルしたプラスチック容器の中に配置し、「HELP ( 助けて )」という単語を綴った。
ある評論家はこの作品を、「人類の叫び、海洋汚染という環境災害を抑制する」、と評した。
同様に、2 人のシンガポール人アーティスト、ヴォン・ウォンとジョシュア・ゴーは、「Plastikophobia ( プラスチック恐怖症 )」という名の作品を創った。これは、18,000 におよぶ廃棄されたプラスチックコップから創られた、周囲を取り囲むような芸術装置だ。一度しか使わないプラスチックによる汚染への意識を喚起しようとするものだ。
刹那主義の数十年、そして環境破壊に対して明白な否定を表明した今でも、洗練されたごみ管理を取り巻くあらゆる政策は、未だその初期の段階にしかない。知識と技術はある。それを実行する必要があるのだ。
王国は、正しい方向へとすでに足を踏み出している。3 月に始まった、同国のサウジ・グリーン・イニシアチブでは、環境問題に取り組み、再生可能エネルギーの使用を加速させ、炭素排出量を 1 億 3,000 万トン以上削減するため、地域の協力を要請する。
中東グリーン・イニシアチブでも同様に、地域全体で炭素排出量の 60 パーセント削減を掲げている。
また、王国内に 100 億本の木々を植え、4,000 万ヘクタールにおよぶ荒廃地を再生する計画もある。より広い湾岸地域では、500 億本の木々を植え、2 億ヘクタールにおよぶ荒廃地を再生する計画がある。
この多くは、社会そして個人レベルにおける啓蒙と想像力に依存するだろう。この世界を、私たちの消費を支えてくれる無限の資源と期待して、その結果生じるがらくたの廃棄場と化させるか、あるいは汚染のより少ない、より持続可能な循環型経済を目指すか。
特に若い人達の間では、自分達の住む星の将来に対する懸念が増しており、これを守ろうと彼らは非常に意欲を持っている。この認識は、政府の政策に反映され始めている。サウジアラビアにおいても、世界においてもそうである。