
アラブニュース
バンコク:ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下の先週のバンコク訪問は、サウジとタイの関係の新たな章だけでなく、政府関係者や国民が両王国の明るい未来を見ることができる新たな地平を開いた。
サウジアラビアとタイの関係は、今年1月にタイのプラユット・チャンオチャ首相がリヤドを訪問した際に両国が30年以上ぶりに相互の大使を任命することに合意したことで正式に修復された。
皇太子は、11月18日~19日にタイで開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の特別ゲストとしてバンコクに到着した。サウジの高官がこの種の外遊を行うのは初めてのことだった。
アブドルラフマン・ビン・アブドルアジーズ・アル・スハイバニ駐タイ・サウジアラビア大使はアラブニュースに対し、「1957年の両国の国交樹立以来、サウジの指導部レベルでは初の訪問となった」と語る。
「両国の関係をより幅広い地平、有望で明るい未来へと動かすだろう」
「また、サウジビジョン2030およびタイの開発優先課題から見た潜在的な投資機会を探ることで両国の経済・貿易関係を強化する措置の加速に貢献するだろう」
皇太子とタイの指導部との会談では、エネルギー、投資、観光、腐敗防止の取り組み、国交正常化などに関する多数の覚書が成立した。
バンコクに到着した皇太子は、公式にはタイの指導部トップと王室メンバーに、非公式にも他の多くの人々、特に若い世代に迎えられた。彼らはソーシャルメディア上で皇太子を歓迎し、オンラインファンクラブを立ち上げた。
多くのタイ国民は歓迎メッセージの中で、自国にサウジの皇太子を迎えることができて「光栄」だと書いた。
皇太子の訪問時の写真や動画がネット上で拡散し、「ようこそ皇太子殿下」「これこそこの国(タイ)が望むものだ」「ハッピー:タイとサウジの関係が32年ぶりに急接近」「MBS万歳」といったキャプション付きで広まった。
アル・スハイバニ対しはアラブニュースに対し、「両国関係は正しい軌道に乗ったように思われる。これからより強力かつより包括的に発展していくだろう」と語る。
「サウジ大使館は、この歴史的訪問の際に結ばれた合意や了解覚書の実施やフォローアップに力を入れていく」
タイ外務省情報局長であり間もなく駐米タイ大使に就任するタニー・サングラット氏はアラブニュースに対し、皇太子の訪問は「タイ国内や世界中にいるタイ人からの大きな注目を集めた」と語る。
同氏は次のように言う。「我々はサウジアラビアを大きな可能性を持った国として見ている。首相である皇太子殿下はタイ国民から非常に幅広く尊敬を集めている」
「タイの人々はサウジアラビアとのさらなる協力を期待していると思う」
タイはサウジアラビアとの関係修復によって、変動の激しいエネルギー市場とエネルギー移行を生き抜くうえでの強力なパートナーを得ただけでなく、多くの人が言うように、タイの存在感があまり強くない中東への「玄関口」を見出した。
関係修復により、タイの輸出業者だけでなく投資家も湾岸諸国や中東地域での機会をより多く得られるようになるだろう。
バンコクの安全保障国際問題研究所所長のティティナン・ポンスティラック教授はアラブニュースに対し、「これはタイにとって非常に大きな問題だ。サウジアラビアは中東における重要なパートナーだ」と語った。
「タイにとっては中東市場に再参入するための玄関口だ。サウジアラビアとの関係がなければ多くの扉は閉ざされていた。今後より多くの扉が開かれるだろう」
ビジネス開発に携わるサッパラーク・アラムキットポータ氏は、皇太子の訪問を「絶好の機会」と見る。
同氏は、タイと中東の間のビジネスの可能性がこれから促進されるとして、「このような機会が得られて非常に嬉しい」と言う。
タイで初めて10億ドルを超える評価額を獲得したフィンテックスタートアップの創業者であるジラユート・スルプスリスパ氏は、サウジ皇太子がタイを訪問し新たな橋が架けられたことを嬉しく思うと話す。
同氏はアラブニュースに対し次のように語った。「これからタイとサウジアラビアの間ではさらに多くのことを行える。サウジとは、未来のエネルギーやグリーン水素のほか、デジタル経済などの他の面における将来の成長のために協力できる」。また、医療観光などの機会もあると付け加えた。
医療サービスが発達しているタイは既に、患者を受け入れる協定をクウェートやカタールなどとの間で結んでいる。サウジアラビアとの合意は今後の両国関係の中で検討される可能性が高い。
「我が国は医療観光で有名だ」とスルプスリスパ氏は言う。「誰もがここに来て、素敵な休暇、ビーチ、山々、ホテル、サービスを楽しむことができる。歯の治療も受けられるし、病気や怪我から回復することもできる。他の国の数分の一の費用で健康診断を受けることもできる」
しかし、関係修復がもたらすのはビジネス機会だけではない。
アル・スハイバニ大使は、修復されたサウジとタイの関係を強固にするうえで文化が果たす潜在的な役割について次のように語る。「両国には似ている所が多くある。特に、もてなしの心、寛容さ、気さくさ、そして最も重要なのは文化の豊かさだ」
「このことによって、国民間の関係や交流の強化だけでなく、社会・文化・宗教の多くの面において建設的対話の促進が進むだろう」
そのような交流こそ、タイの人々が長い間待ち望んでいたものだ。
マーケティングに携わるボララック・トゥラフォーン氏は、サウジの存在はタイの多文化ランドスケープの中に長い間欠けていたものだと話す。
「サウジアラビアと(タイ)は実は豊かな文化を持っている。その豊かな文化を利用して、食べ物や自然からファッションや手工芸品までのあらゆる面で交流するのは良いことだ」
両国民を近づけるための最も有望な手段は食だと同氏は考える。食は心を捉え文化的影響を広げるための良い方法だ。
「タイの屋台料理は皆好きだと思う」とアラブニュースに対して語る同氏は、バンコクに早くサウジ料理のレストランができて欲しいと話す。「サウジの食べ物も是非味わってみたい」