
ラワン・ラドワン
ジェッダ:サウジアラビアではほんの数年前までクリスマスは目立たないイベントで、国外出身者が密かに祝うものだった。ところが最近は宗教的寛容の環境・文化のおかげで、国外出身者だけでなく国内出身者もクリスマスを公然と祝い楽しんでいる。
ジェッダで最も賑わう界隈の一つでは、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」が流れる地元のパン屋で、客が雪の結晶の形をしたシュガークッキーやジンジャーブレッドマンを食べ、ホイップクリームをのせたホットチョコレートを飲んでいる。
十年足らず前、クリスマスを公然と祝うことなど考えられない国だったサウジアラビアではこのような光景を目にすることはまずなかった。ところが今や、クリスマスのシンボル、歌、伝統がサウジの都市の商業的・社会的生活に取り入れられている。
確かに、サウジアラビアでは以前にもクリスマスのような非イスラムの宗教イベントは祝われていたが、大抵は密かに、あるいは国外出身者のみが参加し民間企業が管理する地区で排他的に行われていた。
1971年にテキサスで発行されたサウジアラムコの雑誌に掲載された「ダーランのクリスマス」と題した記事では、「イスラム教徒が多数派の中東の真ん中」でクリスマスを祝う様子が紹介されている。この地でのクリスマスには大きな違いが一つあった。クリスマス・ページェントに本物のラクダが使われていたのだ。
この記事によると、このダーランの石油労働者居住区のことを米国の新聞は「ニューヨークから東に8500マイル離れたところに移植された典型的な南カリフォルニア郊外」と評したという。
また、1970年にはクリスマス・ページェントが地元のソフトボール場で行われ「2000人の観衆が集まったが、そのほとんどが砂漠の寒さから身を守るために毛布にくるまっていた」ことも紹介されている。
この時のページェントには男性、女性、子供、天使のコーラスのほか、三博士のために3隻の堂々たる砂漠の船が登場したという。
ラクダに乗ることを不安に思った三博士の一人が、サウジのラクダ使いでページェントの経験が豊富なナセル・ファハド・ドサリーさんに心配を打ち明けたところ、こうなだめられた。「心配ご無用。これで死んだ三博士は今のところいないから」
これらのアラムコ・コミュニティの窓や屋根はリース、イルミネーション、トナカイ、そり、雪だるまなどで飾られた。住民たちは最高のクリスマスデコレーションを決めるコンテストを開催していたという。
退職したアラムコの元幹部であるアリ・M・バルチ氏は、2020年にアラブニュースが行ったインタビューの中で、外国人同僚のクリスマスの準備を手伝っていた想い出を語っている。
彼はこう振り返っている。「あの頃は良かった。皆で分かち合い大いに楽しんだ良き日々が思い出されます」
サウジの慣習で常緑針葉樹の輸入が長年禁止されていたので、門で閉ざされた居住コミュニティ内の家族は伝統的なクリスマスツリーの代わりを探すために創意工夫を凝らさなければならないことも多かった。オーナメントで飾った小さなヤシの木などが使われた。
不要な注意を引かないように、伝統的なクリスマスディナーが少人数の客のために準備されるのが普通だった。クリスマスに欠かせない七面鳥のローストを、入手が容易なラム肉などで補わなければならないこともあった。
サウジアラビアには長年、様々な宗教的背景を持った数千人の外国人労働者とその家族が住んでいるが、イスラム教以外の宗教慣行が公然と許されるようになったのはごく最近になってからだ。
2016年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下が「サウジビジョン2030」を発表した。それに伴い、サウジの潜在可能性を解き放ち、経済の多角化と生活の質の優先を通して野心的で堅固で活気のある社会を作り出すための多くの改革が打ち出された。
過去6年間にわたり、ビジョン2030は寛容と開放の文化を作り出してきた。サウジの宗教機関は再編されつつあり、コーランの教えに基づく政府のシステムも慎重に再検討されている。
皇太子は国がより現代的な新路線を取ることを計画しており、「穏健なイスラム」への回帰を宣言している。昨年のインタビューの中では、サウジアラビアは「政体としてはイスラム、方法としては穏健を掲げる寛容な国だ」と語っている。
「我々は単に以前従っていたものに立ち戻ろうとしているだけだ。すなわち、世界と全ての宗教に開かれた穏健なイスラムだ」
サウジアラビアのこうした前例のない変化が最も明白になるのは、おそらくクリスマスの時期だろう。
今では、サウジアラビア各地のカフェ、レストラン、パーティーグッズ店、モールがきらめくイルミネーションやデコレーションで飾られている。ツリー、トナカイのヘッドバンド、サンタの帽子、様々な形や大きさのカラフルなオーナメント、クリスマスをモチーフとした菓子、プレゼント包装などが売られている。
公然と祝われている休暇イベントはクリスマスだけではない。バレンタインデーやニューイヤーズイブのシンボルやアイテムも今では広く見られるようになっており、やはり隔世の感がある。
サウジアラビアでクリスマスがますます受け入れられていることは接客業にとって歓迎すべき風潮だ。いくつかの5つ星ホテルや民間ケータリング会社はクリスマス特別ディナーの提供を始めた。サンタクロースが登場することさえある。
大使館や領事館の多くは職員のためのクリスマスパーティーを開き、それぞれの母国の定番料理で祝っている。
ただ、過去の制限への警戒から、サウジアラビアでは多くの人がクリスマスについて公然と話すことにはまだ抵抗を感じている。宗教的にデリケートな事情を考えて、やはり目立たないようにするのが一番だと考える国外出身者や観光客もいる。
それでもイスラム教徒の多くは、クリスマスはイスラムの伝統ではないものの、友人、家族、隣人と共に集まるのが好きな人々が喜びを分かち合う時期だと思っている。
あるサウジ人女性はアラブニュースに語る。「私たちはイスラム教徒として、クリスマスが自分たちの宗教の一部ではないことは理解しています。しかし、この国には多くの国から来た人々が住んでいるので、私たちは皆と一緒に自分たちの祝日を祝い、彼らの祝日も祝うのです」
別のサウジ人はこう話す。「肝心なのは施しの精神という共通のメッセージです。聖書にも『汝の隣人を愛せよ』とあるではないですか。イスラムでも同じです。これは異なる信仰の間をつなぐ点だと思います。イスラムも隣人を尊重することや彼らを家族同然に愛することを強調していますから」
「これはあらゆる宗教を信じる人々が共有する宗教的価値です。それにクリスマスはカラフルで楽しいですよね。ここ(サウジアラビア)でイスラム教徒とキリスト教徒が共に祝うことが敬虔と宗教的寛容のしるしになると思います」