石川県の祭りどころ、能登で苦渋の決断が下った。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産「青柏祭(せいはくさい)の曳山行事」(七尾市)が、今年は開催中止となった。巨大な山車「でか山」の巡行による安全確保の難しさや余震など、能登半島地震の影響が考慮された。
曳山行事は、1000年以上の歴史を持つ青柏祭の目玉。例年5月3~5日に実施し、大地主(おおとこぬし)神社に奉納される。高さ約12メートル、重さ約20トンの3基が練り歩くさまは勇壮で、海外からの見物客も多い。新型コロナウイルス禍による中止や簡素化を経て、昨年は4年ぶりに全面開催したばかりだった。
道路は波打ち、復旧は進んでいない。50人が4日かける山車の組み立て中に地震があればどうなるか。今月14日の「青柏祭でか山保存会」の総会では、出席した35人全員が中止を支持した。15日に市に中止を伝えた高木純二会長(66)は、「悔しい思い。若い衆もかわいそうだ」と声を落とした。
高木さんは幼少期から祭りを愛してきた。高校卒業後は山車の進路を操る「梃子掛(てこかけ)」や、指示役の「後見(こうけん)」を歴任。でか山がごとんと重い音を響かせて曲がると、拍手と歓声が湧き、たまらなく心地良い瞬間だった。だからこそ思う。「みんなが安心して楽しめる状況になった時に、復興のシンボルになりたい」
曳山行事は中止となったが、でか山は3基とも被害を免れた。青柏祭の神事は執り行われる予定で、大地主神社禰宜(ねぎ)の大森重宗さん(33)は「しっかり本儀(神事)を準備したい。全員が安全に過ごせるようになることが一番」と願う。
青柏祭は能登を彩る祭りの先陣。各地の開催判断に影響する可能性も否めない。七尾市の茶谷義隆市長は、でか山に乗って太鼓をたたいた中学生時代を懐かしみながら、「早く復旧を進め、来年の開催に協力したい」と誓う。日常の中にあってこその祭り。それが能登の象徴となる。
時事通信