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コロナウイルスが米国の石油支配の時代を終わらせる?

ヒューストン港のヒューストン水路に並ぶ製油所。2019年3月6日テキサス州ヒューストンにて。(AFP/File Photo)
ヒューストン港のヒューストン水路に並ぶ製油所。2019年3月6日テキサス州ヒューストンにて。(AFP/File Photo)
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23 Apr 2020 01:04:29 GMT9
23 Apr 2020 01:04:29 GMT9

フランク・ケイン

ドバイ:2019年3月、テキサス州にある石油の町ヒューストンで、マイク・ポンペオ国務長官は歓迎ムードに包まれた。

「石油業界版ダボス」と呼ばれ、エネルギー専門家が一堂に会する毎年恒例のCERAWeek会議で、世界的な石油産業における米国の復権に拍手が巻き起こった。この年の後半、米国は1970年以来初めて石油の最大生産国、主要な輸出国かつ自給国になる見通しだった。

「米国のエネルギー計画についてきてください」と長官が述べると、熱狂的な拍手が沸き起こった。

現在、その青写真はズタズタだ。今週の市場崩壊を見れば、米国の石油は事実上破滅している。

世界的なエネルギー市場における米国の短い覇権時代は、近い将来終わりを迎える。

[caption id="attachment_13481" align="alignnone" width="525"] 2020年4月20日、テキサス州ヒューストンのバレロ社ヒューストン製油所から車で出てくる従業員。(AFP通信)[/caption]

20日、米国の原油指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)の1バレル当たりの価格は大幅に下落し、0ドルに達した後、すぐに「マイナス」領域に入った。

一時期、石油会社が不要な石油を買い取るときに消費者に支払う価格は40ドルになると言われた。

米国の石油産業への余波は深刻なものになるだろう。

すでに小規模の石油会社は、米国の原油を高騰させたテキサス州、ニューメキシコ州などの産油州で掘削作業を廃止し始めている。

採掘装置の稼働数「リグカウント」は昨年の半分だ。

コロナウイルス感染症(COVID-19)による被害と戦う産油州の経済、米国大統領選挙イヤーの政治、グローバル経済がどうなるかは計り知れない。

この影響は、同じく主要な産油国であるサウジアラビアとロシアにも及ぶだろう。

[caption id="attachment_13483" align="alignnone" width="525"] 2020年4月20日、カリフォルニア州ハンティントンビーチにあるハンティントンビーチ油田のオイルデリック。(AFP通信)[/caption]

世界経済のロックダウンにより、製品需要が壊滅的な打撃を受けるという史上最大の脅威に直面しながら、米国は何とか世界市場を安定させようとしてきた。

 「これは米国が誇るエネルギー産業に深刻な打撃を与えるでしょう」と、ある米国の石油アナリストが匿名で述べた。

「もし特別な理由があっても、今後この混乱の時期にWTIの原油価格を上げることができたとしても、世界の石油産業の世界情勢は完全に変わります」

米国がどうしてこのような悲惨な状態に陥ったかを理解するには、まず米国がどのように石油を支配するようになったかを知る必要がある。

すべては、テクノロジーと資金のユニークな組み合わせに関係している。それはポンペオ国務長官がヒューストンで「現代の奇跡」と呼び、15年にわたるシェールガス生産ブームを引き起こしたものだ。

アラビア湾で採掘された従来の原油とは異なり、シェールはオイルを含む岩石を絞りだすという複雑な工程がある。

精製に適したものにするために、水平掘削や複雑な化学処理など新しい技術が必要で、大規模な投資も欠かせなかった。

[caption id="attachment_13485" align="alignnone" width="525"] 2020年4月20日、コロナウイルスのパンデミック中に上から見たハンティントンビーチ油田の石油ポンプジャック。カリフォルニア州ハンティントンビーチにて。(AFP通信)[/caption]

当初、大手の石油会社はシェールガスを無視していたため、短期的なリターンを求める銀行やその他の投資家はシェールガス投資の矢面に立たされ、リスクを負った。

この最先端のエネルギー技術と米国の企業家資本の融合は、原油価格が比較的高かった頃はうまく機能していた。

最初のシェールガスブームが到来したのは、2008年の世界的な金融危機が終わり、原油価格が回復した時期だ。当時の原油価格は1バレル150ドル以上だった。

当時の水準では、シェールガスは圧勝で、オペレーターに多額の利益をもたらすことが保証されていた。

2014年夏以降、原油価格が下落すると、最初のブームは終わりを迎えた。

2016年の初め、WTIが1バレル30ドルを下回ったとき、何百ものシェールガス会社が破綻したり、ガスを地中に残したまま掘削装置を片付けて帰っていった。

掘削とくみ上げを再開させたのはOPECプラスだった。2016年後半にサウジアラビアとロシアを中心に発足したこの連合は、OPEC加盟国とその他の産油国の間で減産協定を主導した。

同連合にはあらゆる面で歩み寄りがあった。

サウジアラビアとロシアは生産能力よりも少ない量の石油を販売するが、価格は市場でが提供するよりも高値だ。

米国の総生産量の約65%を占めるシェールオイル事業は、圧倒的な勝ち組だった。

原油価格がだいたい40ドルを上回っていれば利益があった。ピューリッツァー賞受賞歴のあるエネルギー専門家のダニエル・ヤーギンは、OPECとシェールオイルの関係を「共存共栄」と評し、望むよりも低い価格で互いにうまくやっていこうとしていると述べた。

ただ、そこに関係する人全員が同じように考えているわけではなかった。

OPECプラスの協定が先月初旬に明らかになったとき、あるサウジの石油会社の重役はアラブニュースにこう述べた。「我々(OPECプラス)は契約を結んだが、実際に恩恵を受けるのは米国の石油産業だ。3年間、我々は彼らの事業を存続させた。しかし時代は変わった」

[caption id="attachment_13486" align="alignnone" width="525"] 2020年4月20日、コロナウイルスのパンデミック中に上から見たハンティントンビーチ油田の石油ポンプジャック。カリフォルニア州ハンティントンビーチにて。(AFP通信)[/caption]

OPECプラスの契約終了によって、グローバル企業にはいっそう不安定さが増したが、その時すでに史上最大の難題にさしかかっていた。

世界規模のパンデミックと、それに続く世界中の経済活動と移動の制限が、かつてない規模で需要を破壊していた。

一日当たり約3,000万バレルの需要が喪失し、仮にOPECプラスの同盟が復活したが、供給量を考慮して970万バレル減産しただけで 、今週の米国のシェール業界が受けた被害は避けられなかった。

20日夜にWTIが暴落し、マイナス領域に陥ったのは重大な技術的要因があったためだ。

1ヶ月単位の契約が終了し、大口トレーダーが露呈したことで、暴落が加速した。

しかし暴落の根本的な原因は、単に米国が誰も使用していない石油を生産しすぎたことだった。

米国の石油タンクは事実上満タンで、産業、自動車、飛行機旅行で消費されない石油を備蓄する場所はどこにもない。

[caption id="attachment_13480" align="alignnone" width="500"] 遠方に見える海上石油プラットフォームとタンカー。2020年4月20日カリフォルニア州ハンティントンビーチで撮影。(AFP通信)[/caption]

米国のシェールオイルに残されたオプションは厳しい。油田の「シャットイン」(石油業界で一時封鎖の意味)をすると全米の何十万人もの石油労働者の生活はもちろん、石油貯蔵所の物的リスクが伴う。また銀行や投資家から手を引いてもらうと、命を脅かすパンデミックの最中に、同じような大惨事を引き起こすことになる。

米国大統領選挙イヤーに、 復活したOPECプラスの取引を仲介したときに「何十万人もの雇用」を救ったと主張した「取引を成立させる」トランプ大統領だが、今回のような経済への打撃が政治に与える影響は大きい。 

もちろんテキサス州はまだ原油を備蓄するだろうし、2016年のように将来価格が上昇し、再び掘削装置を準備することも考えられなくはない。

しかしパンデミックによる経済的影響を予測するのは難しく、それがいつになるか、あるいはサウジアラビアやロシアのような効率性の高い生産国が、以前の米国市場にずっと勝ち続けることができるか、予測することはほとんど不可能だ。

さもなければ世界がもっと少ない石油量でずっと生活していく方法を学ぶかだ。

とりあえず、米国の「現代の奇跡」は終わりを迎えた。

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