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エネルギー問題の第一人者、石油企業や政策立案者への新たな展望を示す

「新たなる地図:エネルギー、気候、そして国家の衝突」、ダニエル・ヤーギン著(9月15日出版、ペンギン・ランダム・ハウス)
「新たなる地図:エネルギー、気候、そして国家の衝突」、ダニエル・ヤーギン著(9月15日出版、ペンギン・ランダム・ハウス)
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11 Sep 2020 07:09:55 GMT9
11 Sep 2020 07:09:55 GMT9

フランク・ケイン

ダニエル・ヤーギンの新著の出版日は常にエネルギー業界のカレンダー上の記念日となる。そして、彼の最新著「新たなる地図:エネルギー、気候、そして国家の衝突」には確かに出版を待つだけの価値がある。

アメリカ人評論家のヤーギンはエネルギー問題の第一人者だ。1990年に石油産業についての壮大な歴史書「石油の世紀」によりピューリッツァー賞を受け、この著作は今日になってもエネルギー産業界に留まらずビジネス全般における最も影響力のある書籍として引用され続けている。

2011年の「探求」では、ヤーギンは、視野を拡大して新たな動きを含むエネルギー関連の全領域について論考を行い、前著で記された歴史の続きを著した。新たな動きとは、すなわち、再生可能エネルギーや電力輸送、水素といった代替燃料であった。ヤーギンは、また、この著作では、地政学とマクロ経済学的要因によって形作られる現代世界の中核にエネルギーを正しく位置付けた上で考察を行うべく全力を尽くしたのだった。

「新たなる地図」はその後の10年間のエネルギー界の激動を経て上梓される。再生可能エネルギーやその他のエネルギー源は、この間に、ヤーギンの予測通り、技術的・経済的制約を突破し、化石燃料の支配に対する正当な挑戦者となったのである。

しかし、この化石燃料への挑戦の最中にも、ヤーギンのこれまでの著作から得られた教訓は有効なままである。実際、以前にも増して役立つ教訓となっているのだ。それは、エネルギーとは極度に政治的な事柄であり、地質学者や科学者にとって重要なのと同様に、政策立案者やマクロ経済学者にとっても重大な関心事だという視点なのである。

「これは、地政学とエネルギー界の劇的な変化によって形作られつつある新たな世界情勢についての本です。また、この情勢下で私たちにはどのような未来に向かって行くのかという問いについての本でもあります」と、ヤーギンは記している。

ヤーギンのテーマへの取り組み方は彼のこれまでの著作の読者にとっては馴染み深いものだ。何十年にもわたって大統領や国王、最高経営責任者たちと膝を交えて語り合いつつ、ジャーナリストの視点で議事録を精査し続けてきたヤーギンでなければ知り得なかった興味深い細部が、広範なテーマ毎の物語を生き生きとしたものにしている。

「エネルギーは世界での供給とフローの将来にわたる変化を反映しています。アメリカ合衆国のエネルギー界における位置の特筆すべき変化、そして、新しく姿を現した気候の政治によってそうした変化の大部分は引き起こされました」と、ヤーギンは書いている。

シェール革命がアメリカ合衆国を世界のエネルギー覇権国に押し上げた力強い10年間を職業人として生きたアメリカ人のヤーギンであるが故に、米国内のエネルギー市場の複雑さとそのワシントンの権力者たちとの相互作用がこの最新著の大きな部分を占める。

ヤーギンは、しかしながら、他の重要なマクロ要因にも当然多大な紙幅を割いている。すなわち、共産主義の崩壊により失われてしまった大国としての地位の回復に向けてのウラジミール・プーチン大統領体制下でのロシアのエネルギー部門の継続的な復活劇、そして世界最大の消費国としての地位を踏み台にしたエネルギー大国としての中国の台頭である。

中東の読者にとっては、新たな世界情勢上での中東地域の位置について、そして伝統的な炭化水素生産者として直面する課題について、ヤーギンの考察を読んで考えさせられることが多くあるはずだ。

「石油の市場として非常に長い間不動の位置を保って来たと思われるのは運輸業、具体的には自動車です。その時代は終わりました。未来への『ロードマップ』にその市場は無いのです」とヤーギンは述べている。

化石燃料の歴史学者であるにも関わらず、ヤーギンは気候変動否定論者ではない。「研究や観測、気候モデル、政治動員、規制権力、社会運動、金融機関、そして深まる不安によってもたらされた気候関連の政策の勢いは、エネルギーのシステムに変容を引き起こすことになります」と、彼は書いている。

そして、言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大とそれによってもたらされた国際的なエネルギー産業界の大きな変化がある。

「大厄災」とヤーギン自身が見出しをつけたように、彼が何年も費やした原稿を仕上げている最中に新型コロナウイルスの感染拡大は発生した。しかし、彼はそれも新著に取り込んだのである。新型コロナウイルス禍により世界的に石油需要が落ち込み、サウジアラビアとロシアが生産方針について、結局、3月にウィーンで折り合うことが出来なかった。この協議の失敗が、最新著では、多くの劇的な細部と共に解説されている。

この書籍に1つだけ欠点があるとすれば、それは、ヤーギンの自然な気さくさといつもの楽観的な姿勢から外れ、悲観的な調子で締めくくられている点だ。

最後の言葉は「国家の衝突」であり、世界の他の破局的な予見を思い起こさせる。新型コロナウイルス禍の日々の深刻な陰鬱さが、恐らく、ヤーギンの精神状態にも一時的に影を落としていたのだと思いたい。

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