
東京:東京都は、コロナ禍の最中でも競技大会をやめることすらできない状況に「追い込まれた」と、有名な元オリンピック選手である日本オリンピック委員会(JOC)の理事が、6月4日に発表された論説の中で率直に述べた。
山口香氏は、国民の多くが疑義を感じているのに、IOC(国際オリンピック委員会)も、日本政府も、大会組織委員会も、声を聞く気がないと語った。
世論調査によって質問の仕方が異なるが、50~80%の日本人がオリンピック競技大会の開催に反対している。
「今はやめることすらできない状況に追い込まれている。やるも地獄、やらぬも地獄だ」と、山口氏が日本の共同通信社発行の論説で述べた。
「IOCも日本の世論は重要ではないと考えているようだ」
山口氏は1988年のソウルオリンピック柔道で銅メダルを獲得し、元世界チャンピオンでもある。 同氏は現在、筑波大学で教鞭をとっている。
「オリンピックは何のために、そして誰のために開催されるのか?」と山口氏。「オリンピックにはもはや意義が無く、彼らのためだけに開催されるのです。やめる時期はもう逸したと思います」
政府の公式発表では、これまで東京五輪・パラリンピック開催のために154億ドルが費やされ、会計検査院によると、この額は倍になる可能性もある。
スイスに本拠地を置くIOCは、収入のほぼ75%を放映権収入に頼っている。IOCの収入は東京オリンピックが1年延期されたことにより滞り、東京大会が中止になれば、放送収入が30億~40億ドル失われる可能性もあると見られている。
海外からのファンは東京オリンピック会場での観戦を既に禁じられている。
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長は金曜日の定例会見で、日本の観客を入れるかどうかについては、組織委は政府の指導に従うと語った。政府の決定は東京の緊急事態宣言が終わる6月20日に見込まれている。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は3日の記者会見で、開催は無観客で行われるべきだと語った。
「国民がオリンピック開催の安全性について非常に不安に思っているのは事実だ」と氏が述べ、「感染状況が改善されても、無観客が限界だと思う」との考えを示した。
オリンピックは100%確実に開催されるのかと問われた橋本会長は、IOCと組織委員会が競技大会は開催されると言っており、7月23日の開会に向けて会場の準備が進んでいると答えた。
IOCのリチャード・パウンド委員は先週、「アルマゲドン(世界戦争、人類滅亡)でも起きない限り」大会は進むと語った。
数週間前には、IOC副会長のジョン・コーツ調整委員長が、新型コロナによる緊急事態宣言が発令された状況下でも、オリンピックを強行すると語っている。
橋本会長はもう少し慎重な回答をしてる。
「100%かどうかはともかく、同じような質問を何度も受けています」と橋本氏が言う。「IOCと東京都が開催は難しいと判断した場合は、そうした判断に応えるのが私たちの役目です」
同会長はまた、コーツ調整委員長が発表した、トーマス・バッハIOC会長の7月12日の日本訪問は今の所未定であると語った。
「すべてが未定です」と同会長が述べた。
バッハ会長の日本訪問は5月にも広島で予定されていたが、当時日本各地で緊急事態宣言が発令されたことを受けて中止になった。
IOCの計画では、200以上の国と地域から15,000人のオリンピックとパラリンピックの選手を東京に集め、選手村に隔離する。競技が終った後は選手には2日以内に帰ってもらう。
更には、コーチや審査員、役員、放送局、メディア、その他オリンピック・ファミリーと呼ばれる人たちも含めるとと何万人という人たちが日本を訪れることになる。
「スポーツは今や一大産業になっています」と橋本会長が語る。「しかし、この産業化された大会の中にも、この大会のためにできる限りのことをしてきた選手、純粋な選手たちがいるのです。私たちにとっては、そうした選手たちに、自分たちの努力を見せる場を与えることも東京オリンピックの使命であるのです」
世界保健機関(WHO)地域事務局長も務めた、政府のコロナ分科会の尾身茂会長は、菅義偉首相にオリンピックが開催されるべき理由の説明を求めて、圧力を強めている。
3日の国会の委員会で尾身会長は、「パンデミックの中でオリンピックをやるというのは、普通はない」と発言し、4日には同じく国会で、緊急事態宣言発令中はオリンピックの開催は「避けるべきである」と発言した。
「オリンピックをきっかけに人の流れを引き起こさないことが重要」と、4日尾身会長が語った。
日本ではこれまでに約13,000人の新型コロナウイルス感染による死者が出ており、ワクチン接種が遅れる中、完全に予防接種を受けた人はまだ人口の3%に満たない。
AP通信