
タレク・アリ・アフマド
ロンドン:「カルロス・ゴーンほどの人物が闇の人物たちと関わってまでして、密出国し、地球の反対側まで安全に逃れたという事実、その核心を一体どうやったら突けるか?」日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告を題材にしたドキュメンタリー映画「ラストフライト」の監督を務めたニック・グリーン氏がアラブニュースに語った。
ゴーン被告が東京での自宅軟禁から日本を脱出し故国レバノンに戻って以来、誰しもが気にかけていることがある。どうやって世界で出入国管理が最も厳しいと言っても過言でない国境をすり抜けられたのかという点だ。
「すでに知っている内容だと思われるでしょうが、ストーリーの背後には人間がいます。実質上は強奪事件となった出来事の裏にある人間ドラマを探る作業は、実にユニークな体験でした」とグリーン監督は語った。
本来は倒産しかけていた日産を救ったことから「ミスターフィックス」と呼ばれるゴーン被告は、東京で逮捕された。給与の過少申告や個人的な目的で会社の資金を流用したなどの、有価証券報告書の虚偽記載容疑であった。
65歳のプロ経営者ゴーン被告は、拘置所に収容されるか、自宅とはいえ24時間監視付の厳しい保釈条件を課された状態で、13カ月間を過ごした。しかし2019年12月、ゴーン被告はテレビや映画の世界さながらの、複雑でドラマチックな脱出劇を成功させた。
それでも、すべては現実に起きたことだ。
アラブニュースでは、待望のドキュメンタリー映画が誕生した舞台裏について独占取材を行った。サウジのテレビ局系列会社「MBCスタジオ」が初めて、フランスの独立系「アレフ・ワン」とイギリスのBBC Storyvilleと手を組み、世界各国でロケを敢行して作成した作品だ。
「本当の意味で国際社会を舞台にしたストーリーです」とグリーン監督は語った。「ですからストーリーを伝えるには、明らかに世界を跨ぐ必要があります。ストーリーの重要な部分は間違いなく日本が舞台です。また重要な部分はベイルートであり、パリです。誰もストーリーについて知り得ませんでした。カルロスが一度も話したことがなかったからです」
ゴーン被告の逮捕と国外逃亡劇の一部始終を世界中の報道機関が報じたが、「ラストフライト」ではニュースでは扱われなかったゴーン被告の人間味にスポットライトが当たると期待される。
「報道機関や世界中の放送局が、毎日のようにこのストーリーを報道してきましたが、あくまで外部の視点に基づいたものです。本作品では、ユニークかつ初めて内部からの視点を提供します。要するにカルロス・ゴーンとその妻キャロル・ゴーンの視点から見たストーリーです」と、ドキュメンタリーのエグゼクティブプロデューサーを務めるノラ・メリ氏がアラブニュースに語った。
「ストーリーが最初どのように始まり、どう過ごしていたのかを二人が語るのは史上初です」と彼女は語った。加えてドキュメンタリー映画を見るうち、観客は最終的には内部関係者の視点を理解するだろうと語った。
世界中がコロナ禍に襲われる中、世界各地でロケを敢行
ゴーン被告は世界中で活動していたため、複数のロケ地で撮影された。レバノン、日本、フランス、イギリス、南アフリカなどだ。コロナ禍の真っただ中で飛行機が運休し、移動が止められてしまったため困難な作業となった。
「当時は南アフリカの変異株が広がっていたため、ケープタウンまで移動できませんでした。そのため、Zoom通話を使って全シーンを撮影する他なくなりました」とグリーン監督は語った。
グリーン監督のもとには撮影監督(DOP)のモニターに写る映像が送信され、ロケ現場にいる別な監督に対してヘッドホン越しに指示を出し、撮影監督に何を指示するかを伝えていた。
「我々は結局並外れた才能のある人たちと共同で作業する方法を探りました。彼らはこういった新しいやり方で作業をするのが極めて上手です。コロナ的やり方ですね」と付け加えた。
このドキュメンタリーを撮影するためインタビューを受けた人々の中には、日本の法務省職員、日本の検察官、ゴーン被告の日本人弁護士、元フランス財務大臣、ゴーン氏の元上司などがいた。
「本作品は、複数の人々の視点をまとめて紡いだストーリーとなっています。一堂に会してと言いたいところですが、もちろん、彼らはお互いに面識はありません」とメリ氏は語った。「人の持つパラダイムは異なり、視点も色々です。だから観客が理解できるわけです。もちろん複雑なストーリーですし、だからこそ観客は独自の視点を育てることが可能となるのです」
ゴーン被告が実際に逃亡した時の映像はなかったので、グリーン監督が写真を使ったいわゆる視覚化パレットと称するやり方で再現作業が行われた。日本のポスターや看板などを持ち込んでケープタウンで撮影が行われた。
MBCスタジオがグローバルデビュー
MBCスタジオは2020年にゴーン被告の逃亡劇の映画化権を取得し、同年10月にドキュメンタリー作成計画を発表した。
当時CEOを務めていたマーク・アントワーヌ・ダルアン氏は、本プロジェクトが皮切りとなり、MBCのドキュメンタリー番組が「今後続々と放映されることになる」と雑誌『バラエティ』に語った。
「MBCグループとMBCスタジオに対する認識が変わることになると思います」と述べた。
それから1年も経たないうちに、このドキュメンタリー映画はシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭参加作品に正式に選ばれた。シェフィールドとは、世界で3番目に規模の大きなドキュメンタリー映画祭だ。
「私がMBCと共に仕事をしたのは今回が初めてですが、ニック・グリーン監督を寄こしてくれたのです。言うなれば万能永住ビザを渡されたようなものです。MBCはドキュメンタリーを最高の作品に仕上げるために必要なものは何でも提供してくれました」とメル氏は語った。「私たちは、MBCと想像力豊かなスタッフを含め一丸となって非常に強いビジョンを抱いています。MBC側は我々のビジョンを追及するために必要なものはすべて提供し、我々を信頼してくれました」
「ラストフライト」は上映時間が103分で、3部構成のテレビ番組版も放映される。ShahidVIPとBBCでも放映される。