
リーム・アブレイル
2週間前、東京オリンピックの400メートル自由形で自分が金メダル獲得の泳ぎを見せたことは、アハメド・ハフナウイ自身にとっても当然のことながら驚きだった。
そうはいっても、チュニジアのティーンエイジャーは、オリンピックでセンセーションを巻き起こす力が自分にはあると、心の奥底では思っていた。そもそも本気で優勝する気がなければ、高校を1年休学したりはしない。
「難しい決断でした。自分に賭けた結果、努力が報われました」とハフナウイはアラブニュースに語った。
18歳のハフナウイは、前日の準決勝で最もタイムが遅かったにもかかわらず、表彰台の頂点に立つという大番狂わせを東京の競泳プールで演じた。
3年前、ユースオリンピックの400メートル自由形で8位だったハフナウイは、自己ベストを東京オリンピック前の3分46秒16から3分43秒36へ更新し、金メダルを獲得した。
ラスト50メートルの驚異的な追い上げから、喜びを爆発させる様子、メダル授与式でのカジュアルな半袖短パン姿まで、ハフナウイの勝利は今大会屈指の大ニュースとして語り継がれるだろう。
「特に端のレーンからは先頭を泳ぐ選手たちがよく見えないので、第8レーンで泳いで優勝するのはとても難しいことです。しかし、最初の200メートルを過ぎたあたりから、金メダルを狙えるという確信のようなものが出てきて、ラスト50メートルは死に物狂いで泳ぎました」とハフナウイは語った。
故郷のチュニジアでハフナウイの泳ぎを観戦しながら大声で歓声を上げる家族の動画がネットで拡散し、世界中の何百万人もの人々の心に様々な感情を呼び起こした。
「家族が故郷でレースの成り行きを見守っているのはわかっていました。家族はいつも私を応援してくれ、私のレースを見てくれています。私がレースで泳いでいる姿を見るといつも非常に興奮するので、家族がこういう反応をすることは予想していました」とハフナウーイは言った。「自分が家族をこんなに喜ばせているのを見て、非常にうれしかったです」
ハフナウイの成功は彼の家族を喜ばせただけでなく、パンデミックで厳しい時代を過ごしているチュニジア全体を高揚させた。ハフナウイの優勝は、たまたまチュニジアの共和国記念日と重なり、同朋のモハメド・ハリル・ジェンドゥビがテコンドーで銀メダルを獲得した直後の快挙でもあった。
「この日はチュニジアにとって非常にうれしい日でした。オリンピックチャンピオン誕生のニュースで目覚めたことは、人々に何らかの希望を与えたと思います。この出来事は、チュニジアにはまだチャンピオンがいること、チュニジア人には常に成績を向上させる能力があることを示しています」と、チュニジア史上5個目のオリンピック金メダルを獲得したハフナウイは語った。
「400メートルの競技の直前に、モハメド・ハリル・ジェンドゥビがテコンドーで銀メダルを獲得したというニュースを聞きました。私たちは年齢がとても近いです。だから彼の快挙がとてもうれしかったし、それが自分もメダルを獲得したいという大きなモチベーションにもなりました」
東京から帰国したハフナウイは、母国で英雄として歓迎され、自分の履いた競泳用水着をオリンピック博物館に寄贈した。ハフナウイの功績は、チュニジアの著名人や彼を「信じられない」と評したマイケル・フェルプスをはじめとする水泳選手仲間から称賛された。
「マイケル・フェルプスは史上最多のメダルを獲得した水泳選手であり、レジェンドですから、彼の言葉は私にとって非常に重要です。このようなことがあると、もっと自分に自信が持てます」と人なつっこいティーンエイジャーは語った。
ハフナウイにとって最高の瞬間は、3回のオリンピックメダリストであり、複数回世界チャンピオンになったグレゴリオ・パルトリニエリにオリンピック村で祝福されたときに訪れた。ハフナウイは長い間このイタリア人水泳選手を尊敬しており、レース後にパルトリニエリと出会えたことに感動を覚えた。
ハフナウイは、自分のキャリアを支えてくれた両親(父親のモハメドはかつてチュニジアのバスケットボール代表チームに所属していた)とコーチのジョブラン・トゥイリに感謝の意を表した。
モハメド・アリを崇拝してやまないハフナウイは、昨年、ほぼ2か月にわたってプールに入ることができず、何とか泳げるようになっても、ルールが変更されるたびに数日おきにトレーニングの中断を余儀なくされた。
アスリートとしての最も強い特質は?と聞かれたハフナウイは、こう答えている。「強い心が私の最大の財産だと思います。自分はとても野心的です」
ハフナウイは日本で開催される世界短水路選手権にすでに照準を合わせており、高校卒業後にアメリカに渡ってアメリカの大学の代表として泳ぐのか、それとは別の道を選ぶのか、まだ決めていない。今後は、400メートル、800メートルに加えて、1500メートル自由形にも出場する予定だ。
北アフリカ出身のハフナウイは、鮮烈な五輪デビューの後、自分の人生が大きく変わることを自覚しているが、行く先がどこであろうと、新たな人生の旅を楽しみにしている。
「現在、私は様々な新しいことを経験しています。好成績をあげ続けること、記録をさらに伸ばすことに対するメディアからのプレッシャー、スポーツ省、水泳連盟、あらゆるものからのプレッシャーが私にのしかかっています。これらすべてに対処する方法を学び、全ての経験を楽しめるようにしたいと思います」