
ジョナサン・ゴーナル
新たな10年の始まりにあたり、中東世界全体において注目したい、20の事柄を挙げてみよう。
1
11月20日に始まるリヤドでのサミットに先立ってG20の議長国となったサウジアラビアは、2020年に世界の注目の的となる。「あらゆる人々のための、21世紀の機会の実現」をテーマに、サウジアラビアを議長国とする体制は、次の 3つの目的に焦点を当てる。・すべての人、特に女性と若者が生き、働き、豊かになれる状況を作り出して、人々に力を与えること。・食料と水の安全、気候、エネルギー、環境に対する集団的努力の促進により、地球を守ること。および、・革新と技術進歩の恩恵を共有するための長期的戦略。
2
2月29日開催のサウジカップでは、トップクラスの競走馬と騎手たちがリヤドのアブドゥルアジズ王競馬場に集合する。賞金総額2,000万ドル、サウジカップは世界で最も価値の高いレースだ。サウジアラビア・ジョッキークラブの会長を務めるバンダル・ビン・カリッド・アル・サウード王子に「サウジアラビア競馬史上で間違いなく最も重要なレース」と称揚されるサウジカップは、世界の競馬シーンの主役の一角を担うというサウジアラビアの意思を華やかな形でしている。サウジカップはまた、サウジアラビアの近代化に向けた努力の成果の一つでもあり、男性と女性両方の騎手に開かれたレースとなっている。
3
2020年は、シリアについに平和が戻ってくる年になるのか、あるいは、米国の撤退そしてトルコとアサド政権によるシリア北部への攻勢をきっかけに、ロシアとトルコの領土的野心が、シリアの一般民間人たちにまた絶望の一年を強いてしまうのか?見られる兆候は良いものではない。11月にジュネーブで開催された最近の和平交渉は、政府と反政府派の交渉者たちが新憲法の起草計画のための討議内容に同意することさえできなかったため、頓挫してしまった。トルコ領内の100万人のシリア難民をシリア北部に帰還させるというエルドアン大統領の意思表明は、不安定な状況をさらに不安定にするかも知れない。
4
3月17日、サウジアラビアは、同国史上5回目となる一般国勢調査を実施する。教育、健康、雇用、住宅、開発などの分野での政府のプランニングに不可欠な国の人口に関する情報収集のため準備されたものだ。1974年の初回の国勢調査で記録された人口はわずか700万人だった。前回、2010年の4度目の国勢調査の時には、人口は2,700万人を超えていた。
5
10月20日からは、数百万人の観光客が、アラブ世界で初めての万国博覧会であり、アラブ首長国連邦および周辺地域の今年最大のハイライトとなることは確実なExpo 2020を目指して、ドバイに大挙訪れることになる。それは、この湾岸地域で最もダイナミックな都市が、真の意味で成長する瞬間となるだろう。ライブショー、大規模な参加型イベント、200か所以上で楽しめる世界の料理、そして190カ国の国々がそれぞれ最高の内容で出展する息を呑むようなパビリオンの数々。この6か月間にわたる人間の創意工夫、芸術、文化の粋を集めた祭典は、イノベーションに関するドバイへの評価を確固たるものにし、国際的な観光都市としての役割を確実に高める。
6
3月12日から21日まで、ジェッダのオールドタウンで、紅海映画祭(Red Sea Film Festival)が初開催される。世界最高クラスの映画、教育関連のワークショップ、有益な映画業界上級クラス、没入型のアート体験、実験プロジェクトおよびその他の映画関連イベントなどを紹介する9日間の国際的な祭典だ。この映画祭では、エジプトの先駆的な映画監督、ハイリー・ベシャーラ(を称える回顧イベントも催される。べシャーラ本人も出席し、紅海映画祭基金によってリマスターおよび修復された彼の監督作9本の上映に出席する。
7
2020年は、超高速の第5世代5Gモバイルインターネットが人々の暮らしを変える年になるかも知れない。アップロードとダウンロードを高速化する5Gサービスは、サウジアラビアではサウジ電気通信会社(STC)とZainが、アラブ首長国連邦でのEtisalatとEITC(ブランド名:Du)やバーレーンでのBatelcoと同様、既に提供を開始している。なお、2020年は、携帯電話、インフラストラクチャ、およびデータの価格の劇的な下落が予想されており、あらゆる場所の電話ユーザーたちに超高速接続の恩恵をもたらすだけでなく、大量の情報を必要とする自動運転車の導入を促進・加速化させていく。
8
もしモバイル機器の接続を5Gにアップグレードするのに理由が要るなら、我々の地域そして世界中のアスリートが日本に集まって7月25日から始まる、東京オリンピックのことを考えるのもいいだろう。湾岸アラブ諸国協力理事会(GCC)の6か国は、2016年のリオ五輪での獲得メダル数、金メダル1、銀メダル2、銅メダル1からの増加を目指している。選手たちの奮闘を見逃さないようにしたいなら、tokyo2020.orgの競技スケジュールをよく見て、朝早い時間に始まる競技があることにも注意したい。一部競技は現地時間の午前9時、アラブ首長国連邦の午前4時に予定されている。
9
先進的な人々は、2020年には人工知能(AI)が、舞台裏のデータ操作から壁を打ち破って主流のアプリケーションに登場し、メディア、エンターテインメント、輸送等々に革命をもたらすものと予測している。 存在はかつては自動化の方法に不可欠でした。しかし人工知能は、かつては人間の存在を必要としていた役割が自動化へと流れていく中で、何百万という職に潜在的な脅威ともなる。
10
将来ドバイからアブダビまでの所要時間をわずか12分に短縮する待望の高速輸送システム。その中心企業、ヴァージン・ハイパーループ・ワン (Virgin Hyperloop One)によると、プロジェクトは2020年、キングアブドラ・エコノミックシティーのセンター・オブ・エクセレンスで本格始動の予定で、これによりサウジアラビアは世界のハイパーループ開発の最前線に躍り出る可能性があるとのこと。サウジアラビアに124,000のハイテク関係の雇用を生み出し、ハイパーループのパーツを他の市場に輸出を実現する、世界初のフルスピード試験用線路と製造工場の建設が計画されている。しかし、ハイパーループの実際の運行までにはまだ時間がかかり、おそらく2029年までには開通できるのではないかと同社では話している。
11
長く遅れていた大エジプト博物館の開館に際して、大規模な開会式と壮麗な祝典が計画されている。同博物館は2002年に作業が開始された野心的なプロジェクトで、ついに2020年(日付は未決定)に一般公開が実現することとなった。ギーザのピラミッドからわずか2キロのところに位置し、世界最大の考古博物館である。古代エジプトのすべての宝物を「エジプトから全世界への贈り物」として一つの屋根の下に集めるこの新しい博物館は、エジプトを世界の観光産業の舞台にカムバックさせ、長年の政治的不安定とテロの暴力によって損なわれた経済を再活性化する大胆な試みだ。
12
ボリス・ジョンソンと保守党が選挙に大勝して政権を確保したため、英国は1月31日にEUを離脱することが確実となった。海外からの訪問者と英国に住む外国人に対するEU離脱の即時の影響は不明のままだ。しかし明らかなことは、英国は今、世界中と新しい貿易協定を結ぶ自由があるだけでなく、できるだけ早くそうしたいと切望していることだ。世界の抜け目のない貿易パートナー諸国が、強力なヨーロッパ貿易圏からの英国の離脱を活用しようとしている。
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7月には、NASAのマーズ2020ミッションがフロリダ州ケープカナベラルから新探査機を打ち上げ、火星植民地化を目指す競争に新しい章を開く。マーズ2020のローバーは約7か月をかけてジェゼロ・クレーターに移動し、そこに680地球日(1火星年)以上滞在して、将来の人間による火星探検に不可欠なサンプルやその他の情報を収集する。ローバーは孤独ではない。上空には、アラブ首長国連邦による火星探査ミッションの宇宙探査機「ホープ」が周回しているはずだから。同探査機も、将来の植民地化を念頭に火星の大気に関する主要な疑問への答を得るよう設計されている。
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オマーン、バングラデシュ、パキスタン、インド、アフガニスタンの各チームが、オーストラリアで開催されるクリケットの2020 年ICC T20ワールドカップに出場する。試合は、パースからブリスベンまで全国7か所で行われる。我々の地域のチームは好成績を収めることが予想される:2007年にワールドカップが始まって以来6度開催されてきた選手権のうち3度は、インド(2007年)、パキスタン(2009年)、スリランカ(2014年)がそれぞれ優勝を飾っているのだ。
15
天然痘の根絶から40年が経つが、この40年で、世界保健機関(WHO)が根絶ターゲットとする他のすべての病気は頑強で手強いことが明らかになった。そうした状況は2020年に変わる可能性もある:2020年は、手足を不自由にすることもある病気・ポリオ根絶の、WHOとその支援機関が定めた期限なのだが、ポリオがまだ一般に発生しているのはアフガニスタン、パキスタン、ナイジェリアのわずか3カ国のみになっているのだ。
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スコットランドのグラスゴーで11月に開催されるCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)は、「人類の文明を救うための会議」と言われている。この気候変動サミットでは、各国が5年前にパリで明らかにしたコミットメントに、現実的な、実行可能な計画を以て従うことが期待される(そのコミットメントでさえ、2度の温暖化を防ぐという目標の達成には不十分であるとすでに暴露されているのだが)。2月にパリで行われる気候変動に関する政府間パネルの第52回セッションで発表される、地球の環境状態への科学者たちの修正評価が、具体的行動を触発することもあり得る。
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国連によると、イラクでは2019年最後の3カ月に、汚職、劣悪な公共サービス、またイランからの影響に対する不満によって引き起こされた抗議行動が激しさと危険さを増し、500人の抗議参加者が死亡し、数万人が負傷した。暴力は「イラクを危険な軌道に乗せるリスク」であるという警告がある一方、アブドルマハディ首相には代替案も未だ見いだせないという状況の中、2020年には危機がますます深まってしまうのか、それとも抗議する人々の政治改革の要求が実現するのか?
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今は大きく報道されないことが多いが、中東と北アフリカの人道的危機は継続している。ユニセフによれば、地域全体で3,200万人の子供を含む7,000万人以上の脆弱な人々が、厳しい冬が待ち受ける中、切実に助けを必要としている。彼らを助けようと、国連は2020年に1,040万米ドルを拠出するよう援助国に呼びかけている。
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1月16日から2月1日まで、アラブ首長国連邦のシャールジャ首長国は、エディンバラの著名なフリンジ・フェスティバルの海外版を中東で始めて開催する。世界中からやって来るアーティストたちによる演劇、ダンス、サーカス、音楽に溢れた17日間だ。
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11月3日の米国大統領選挙の結果に影響を受けない国はほとんどないだろう。トランプ大統領は、民主党による弾劾手続きを生き延びる可能性が高い:1月の彼の裁判は共和党優位の上院で開催されるため、検察が彼を職から追放するのに必要な3分の2の票を勝ち取る可能性は低い。このことは、トランプ再選および、以下の継続を意味するかも知れない:世界的な貿易戦争への不透明感の継続、トランプの北朝鮮との断続的な関係の継続、そしてもし米国が世界の舞台において退却を続け、ロシアと中国がその空白を埋めるならば、中東・北アフリカ地域には何が起きるのかという大きな疑問の継続。