



ロンドン:シリアの都市スワイダーにおける抗議活動は既に1ヶ月以上継続しており、市民は主として中心部のアル・カラマ広場に参集し、首都ダマスカスの中央政府に経済と政治の改革を実施するよう要求している。
15日金曜日には、3,500人から4,000人が南部都市スワイダーに結集した。この最大規模の反体制的抗議活動は、シリア国民が戦争の経済的影響への懸念を深める中、1ヶ月以上継続し、さらに激しさを増している。
2011年の蜂起の舞台となったスワイダーとその近郊のデラアにおける抗議活動は、バッシャール・アル・アサド大統領の政権が8月に燃料補助金を削減し、ガソリン価格を250%近く引き上げたことに端を発している。
超インフレは、シリア国民が日々の生活で対峙することを余儀なくされている数多くの試練の1つに過ぎない。とはいえ、政府支配地域のシリア国民の推定90%が貧困ライン未満で生活し、同国民の半数が食料不安に直面していることを考慮すると、この超インフレは凡庸な問題ではない。
悲惨な経済状況や劣悪な生活水準に加えて、シリア国民は一向に改善しない基本的権利の欠如に不満を募らせている。
「最近の経済的決定が抗議活動の発火点になったことは間違いありませんが、問題は単なる生活関連の要求に留まりません」と、スワイダーを拠点とする市民社会団体「ジュゾール」のアイハム・アッザム代表はアラブニュースに語った。
抗議活動の参加者らは、経済上の問題に留まらない、「政治的権利や社会的権利、公民権、及び、公共の自由、拘留者の解放」を含むより幅広い要求を掲げていると、アッザム代表は付け加えた。
15日金曜日、スワイダー24というメディアは、数千人の男女が反体制的なスローガンを唱え、ドゥルーズ派の旗を振る動画を公開した。抗議活動はシリア南部のいくつかの都市だけで留まっているものの、現況は全国に拡大している政治的心情を反映したものだと観測筋は指摘している。
「大規模デモは依然として少数ですが、シリアの一般大衆の姿勢には明確な変化があり、現体制や指導者層にたいして公然かつ大胆な批判の声を上げようとする意思が感じられます」と、シリア系カナダ人のアナリストであるカミーユ・オトラックジ氏はアラブニュースに語った。
シリア国営メディアの報じるところでは、8月、シリア・ポンドは、闇市場で、1米ドルが15,500シリア・ポンドの記録的な安値まで下落した。シリアの国営銀行の公式レートでは、1米ドルは10,800シリア・ポンドである。
シリア政府は、公共部門の給与を倍増し、最低月額給与を約22米ドルに相当する185,940シリア・ポンドにまで引き上げた。しかし、この措置は、政府支配地域で生活する人々が経験している困窮状況に対して効果が無く、彼らの生活水準に改善の兆しは現れなかった。
「シリア政府は、燃料補助金を撤廃し、貧困世帯や困窮世帯への支援からの撤退を継続し、経済的負担を市民社会や国外に居住するシリア人、人道支援団体に転嫁していこうとしています」と、ドイツを拠点とするシリア政策研究センターの経済を専門とする研究者であるモハメド・アル・アサディ氏はアラブニュースに語った。
シリア総人口の約70%が援助を必要としていると国連の統計データが指摘する一方で、現地の慈善団体は増大する需要への対応に苦闘している。
国連シリア担当特使のゲイル・ペデルセン氏は、最近、ダマスカスを訪問し、シリアの状況が「紛争のピーク時よりも経済的には悪化しています」との警告を発した。
シリアの首都ダマスカスで、ファイサル・ミクダード外相との会談後に、ペデルセン特使は、「人道的ニーズが高まる一方で、シリアへの資金援助が減少していることは受け入れられません」と付け加えた。
「シリアにおいて、この危機の政治的影響に対応しなければ、深刻な経済的危機と人道的苦難も継続することになるでしょう」
一家の稼ぎ手である50歳のフダ・アル・アフマド氏は、数か月前に職を失った。ダマスカスを拠点とする慈善団体のアル・マバラットが彼女の近隣地区への基本的な食料の配布を中止して以来、アル・アフマド氏の家族は1年間にわたって苦しみ抜いているのだという。
「コーヒーはダマスカスの各家庭で日々の必需品でした。現在では、コーヒーは贅沢品です」と、アル・アフマド氏はアラブニュースに語った。購入する前に躊躇ったことなど昔はありませんでしたが、現在では1ヶ月に1オンス買う余裕すらありません。小さなカップ3杯分のコーヒーを淹れるだけで、現在は、5,000シリア・ポンドかかってしまうのです」
一方、アル・アフマド氏の住むダマスカス郊外県のセット・ゼイナブからダマスカスまでの日々の通勤には、少なくとも4,000シリア・ポンドが必要である。
「娘と私は1週間近く体調不良ですが鎮痛薬を買う余裕さえありません」と、アフマド氏は語った。「私たち家族は、どんな種類の果物も、肉もデザートも1年近く買えないでいます。米と麦を食べないで2ヶ月過ごさない限り、とても買えないのです」
経済活動の促進や脱税の防止、汚職の撲滅、軍事費の削減といった政策には、政治的な意思や意思決定プロセスにおける市民社会の関与、代議制が必要であるためシリアでは実行不可能であると、アナリストらは考えている。
「現行の社会経済的、政治的構造では、こうした前提条件を満たすことは不可能です」と、シリア政策研究センターのアル・アサディ氏は述べた。
それどころか、現行の政策は、「貧困ギャップを深化させ、何万もの貧しい世帯を、全体の貧困ラインをずっと下回る極端な貧困にまで押し下げてしまうことでしょう。燃料補助金の撤廃は、財政赤字削減のための最も容易で手っ取り早い手段ではあります」
生活水準の急速な低下にも関わらず、複数の非政府組織とダマスカス当局は、首都の公共スペースの改装のためにに協力した。
中央銀行近傍の「サバ・バーラート(七つの泉)広場」の改装後の写真がソーシャルメディアで拡散され、国内でこれほど数多くの人々が電力不足や食料と燃料の欠乏に苦しんでいる時に都市の美化に散財をするのは不快なことだと評論家らが批判的なコメントを述べた。
「サバ・バーラートの環状交差点がパンを提供してくれることはありません」と、シリア全国メディア同盟のアル・フセイン・アル・ネイフ議長はフェイスブックへの投稿で述べた。「貧困に陥った市民たちが、自らの抱く懸念や失われた幸福に向き合う真の変革を期待している現在、私たちはこの文化的成果から何を得るのでしょうか?」
1月の報道によると、サバ・バーラート広場の改装は全額民間からの寄付によって行われており、ダマスカス県議会のムハンマド・イヤド・アル・シャマー議長はその工事が約50億シリア・ポンドの費用を要したという主張を否定している。
現地ソーシャルメディアのコメンテーターの数多くは、この資金は貧困層への食料支援やシリア国内の他の都市同様頻繁に停電の発生するダマスカスの街路照明のための太陽エネルギー利用設備に充てられるべきだったと語っている。
「シリアのGDP(国民総生産)と年間予算はアラブの春以前の水準から大きく減少しました」と、シリア系カナダ人のアナリストであるオトラックジ氏は語った。「シリア政府は現在極めて限定された財源で運営されており、長期的に維持可能とは言い得ない状況にあります」
「この不安定な財政状態故に、シリア政権は、協力的なアラブ諸国から、またはイランへの依存を深めて、支援を得ようとする構えです」
「シリアにおける定義困難な政治的解決への期待に現実との明らかな乖離がある事以上に」、シリアが「地域的、国際的紛争の肥沃な土壌」となってしまっていることを、オトラックジ氏は嘆いた。
「残念ながら、こうした紛争はいずれも解決に向かう兆しを見せておらず、シリアは利害の競合する戦場として一層定着してしまっています」と、オトラックジ氏は付け加えた。
市民社会団体「ジュゾール」のアッザム代表は、何らかの政治的な進展無しにシリア政権が瀕死のシリア経済を再生させることは出来ないと確信している。
「シリアは廃墟となってしまいました。経済的にも、社会的にも、文化的にも、そして、知的にも荒廃してしまっているのです」と、アッザム代表は語った。「この現状は、シリアが全国民のためのものとなり、国際社会の不可欠な一部となる重要な段階を示す新たな社会的合意の形成が切実に必要であることを意味しています」
「現況を勘案すると、経済状況の改善のためのどのような試みも失敗してしまう可能性が非常に高いです。たとえ成果を挙げたとしても、一時的なものに留まり、維持できるような成功とはならないでしょう」