

ガザ地区、ハーン・ユーニス:イスラエルは、避難民で過密状態のガザ地区南部を標的とした攻撃を行い、攻撃対象に指定した一層数多くの地域に避難命令を発出した。米国を初めとする諸国が休戦協定失効日の前日に民間人保護の取り組みを一層強化するよう要請したにも関わらず、死亡者数は増加した。
イスラエル政府が交渉担当者を呼び戻し、ハマスの副指導者がガザ地区で拘束されている人質とイスラエルで収監中のパレスチナ人のこれ以上の交換は、戦争終結の一環としてのみ行われることになると述べたことで、この紛争における今後の停戦は望み薄となった。
「私たちは、全目標の達成まで戦争を継続します。地上作戦を行わずに目標を達成することは不可能です」と、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は12月2日の演説で語った。
ガザ保健省によると、ガザ地区を支配下に置く武装組織ハマスとの戦闘の1週間にわたる停止を経て、12月1日に戦闘が再開されて以来、少なくとも200人のパレスチナ人が死亡したという。12月2日には高層住宅数棟が攻撃を受け、その近隣が巨大な硝煙に包まれた。
また、それとは別に、ガザ保健省は、10月7日の開戦以来、ガザでの全死傷者数は15,200人を超え、11月20日時点の集計結果の13,300人超から急増したと発表した。ガザ保健省は民間人と戦闘員の死亡者数を区別していないが、死亡者の70%は女性と子供だったと述べた。また、同省は開戦以来の負傷者数は40,000人以上に上ると発表した。
「あまりにも多くの無辜のパレスチナ人が殺害されました。率直に言って、民間人の受けている苦痛の規模、そして、ガザ地区から送られてくる映像や画像に動揺しています」と米国のカマラ・ハリス副大統領はドバイで開催されたCOP28で報道陣に語った。
イスラエルの最も緊密な同盟国である米国は、開戦から数週間の攻撃でガザ地区北部の広範な地域が壊滅した後に、民間人保護を要請するに至った。現在、ガザ地区のほぼ全人口にあたる約200万人のパレスチナ人が、ガザ地区の南半分に押し込まれている。
イスラエル軍は、戦闘再開以来の1日で、南部のハーン・ユーニス市とその周辺の50ヶ所を初めとするガザ地区全域で400ヶ所以上のハマス関連の標的を攻撃したと発表した。
パレスチナ赤新月社の広報担当者であるマフムード・ベイザル氏は、放送局アルジャジーラに、ガザ市シュジャイア地区でいくつもの家屋が倒壊し300人以上の「殉教者」が出るに至ったと語った。イスラエル軍は、ハマスのシュジャイア大隊の指揮官を殺害したと発表したが、当該の作戦についての詳細は明らかにしなかった。シュジャイア地区の住民への取材は出来なかった。
ガザ地区北部では、空爆によって、ガザ市郊外の都市難民キャンプのジャバリヤで複数家族が生活していた建造物が破壊された。住民のハムザ・オバイド氏とアマル・ラドワン氏によると、この空爆での死傷者数は数十人に上るという。
「建物が瓦礫の山になってしまいました」と、オバイド氏は語った。AP通信のビデオでは、煙が上がる中、数人の男性たちが瓦礫の上を歩く様子が映っていた。サンダル履きのままの男性たちもいた。イスラエル軍は、ジャバリヤで軍事作戦を展開したことを認め、その周辺でハマスのトンネルを発見し破壊したと述べた。
そして、ハーン・ユーニス郊外のカタールの資金提供によって建造された住宅団地であるハマドシティの高層ビル群に対しても激しい攻撃があった。硝煙がこの複合施設を包んだ。死傷者についての情報は未だ発表されていない。
「安全な場所がどこにあるというのでしょうか?神に誓って、誰もそれを知らないのです。私たちはどこへ行けば良いというのでしょうか?」と、ズハイル・アルライ氏は自身の思いを口にした。アルライ氏の家族は、住居としている建物から避難するようにとの録音メッセージを受信していたという。
また、ガザ地区南部では、デイル・アルバラの住宅への空爆により、子供3人を含む少なくとも9人が死亡したと、遺体が搬送された病院が明らかにした。
その一方で、ガザ地区の武装勢力ハマスは、イスラエル南部に向けてロケット弾を発射したと発表した。イスラエル軍の報道官であるピーター・ラーナー中佐は、停戦の終了以降、ハマスは250発以上のロケット弾を発射していると述べた。イスラエル側の負傷者についての即時的な情報は得られていない。
国際刑事裁判所の検察官は、12月2日、イスラエルとヨルダン川西岸地区のラマッラーを訪れ、双方の戦争犯罪容疑についての捜査を同裁判所スタッフが粛々と進めていると語った。
国際刑事裁判所主任検察官のカリム・カーン氏は、放送局「パレスチナテレビ」で「全ての当事者は今すぐ疑念の余地なく国際法を順守しなければなりません」と語った。「そして、今国際法を順守せずに後になって弁解や苦情を申し立てないでください。私たちは真剣です」
戦闘を再開するにあたって、イスラエル軍はガザ地区を番号付きの数百の区画に分割したオンライン地図を公開し、住民に避難警告が発令される前に自らの位置の番号を把握しておくよう求めた。
12月2日、イスラエル軍はガザ市周辺とハーン・ユーニス東部の20以上の区画の番号のリストを公開した。また、それとは別に、イスラエル軍は、ハーン・ユーニス東部の複数の町に避難命令のビラを散布した。
ハーン・ユーニスの住民のヒクマット・アルチドラ氏は、近隣の住民にイスラエル陸軍からの電話があり、その地域が攻撃を受けると告げられたと述べた。「私たちはイスラエル軍に『ここには何もありませんが、なぜ攻撃したいのですか?』と言いました」とアルチドラ氏は語った。アルチドラ氏は、自身の住居は破壊されたと語った。
イスラエル軍のオンライン地図やビラは、特に避難民で過密状態のガザ地区南部で、パニックと混乱を巻き起こした。ガザ地区北部にも隣国エジプトにも移動することが出来ないガザ地区住民にとって、空爆から逃れる唯一の方法は220平方km(85平方マイル)の範囲内を右往左往とすることなのだ。
1ヶ月前にハーン・ユーニスに避難したエマド・ハッジャル氏は、「行くところがありません」と語った。「イスラエル軍は、私たちを北部から追い払いました。そして、イスラエル軍は、今度は私たちを南部から追い立てています」
ネタニヤフ首相の上級顧問であるマーク・レゲブ氏は、イスラエルは民間人保護に「最大限の努力」をしており、イスラエル軍はビラの配布や電話連絡、ラジオやテレビ放送を用いてガザ地区住民に指定地域からの移動を呼びかけていると述べた。
レゲブ氏は、イスラエルは、ガザ地区住民が徒歩で境界フェンスに直接的には到達できない安全保障緩衝ゾーンの設置を検討していると付け加えた。
イスラエルは、標的としているのはハマスの工作員で、民間人の死傷はハマスの責任であるとし、工作員を住宅街で活動に従事させているとしてハマスを非難している。証拠を示すことなく、数千人のハマス関係者を殺害したとイスラエルは主張している。イスラエルは、ガザ地区北部への攻撃で77人の兵士が殺害されたと発表した。
また、12月2日、パレスチナ赤新月社は、エジプトからラファ検問所を戦闘再開以降に通過した最初の支援物資トラックの車列が到着したと発表した。 パレスチナ国境管理局のワエル・アブ・オマル報道官によると、100台のトラックがガザ地区に入り、そのうち3台は、15万リットル(約4万ガロン)の燃料を積載していたという。
他方、米国のカマラ副大統領は、エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領 と会談した。米国側の要約によると、カマラ副大統領は、エルシーシ大統領に、米国は「いかなる状況下であれ」パレスチナ人のガザ地区やヨルダン川西岸地区からの強制移住や、ガザ地区の継続的包囲、境界線の見直しを容認しないと述べたという。
ハマスと他の武装勢力が実行した10月7日の襲撃では、イスラエル南部で、約1,200人(その大部分が民間人)が死亡し、約240人が拉致され人質となった。
イスラエル軍によると、一時停戦の期間中に105人が解放されたものの依然として137人が人質として拘束されているという。ハマスに拘束されていた70歳の女性は12月2日に死亡が宣告されたと、彼女のキブツが発表した。死亡が判明している人質の人数は、この女性を加えて、8人となった。
テルアビブで開催された数万人規模の集会で、解放された人質たちは依然拘束されている人質たちの解放を求めた。85歳のヤッファ・アダル氏は、ビデオメッセージで、拘束されている子供たちのために、特別に「私はその子供たちに今すぐ会いたいのです。棺に入ってしまってからではなく」と語った。
ハマス側とイスラエル側では、人質として依然拘束されている人々についての認識が相違していた。
ハマスの副指導者であるサレハ・アロウリ氏は、アルジャジーラに対して、依然人質となっているのは男性のみで、「全員が(イスラエル)軍に所属している」と語った。これは、ハマスの別の幹部であるオサマ・ハムダン氏が12月1日にAP通信に語ったコメントと矛盾している。ハムダン氏は、ハマスはさらなる人質交換の用意があるものの、女性兵士10人の解放を求めるイスラエル側の要求は拒絶したと述べていた。
イスラエルのヨアフ・ガラント国防相は、ハマス側が2人の子供と15人の女性の解放を拒否し、停戦合意に違反したと述べた。
イスラエルは、一時停戦中に240人のパレスチナ人を釈放した。双方が解放した人々のほとんどは女性と子供たちだった。
AP