
バグダッド:30秒の間に、若き人権派弁護士Ali Jasbさんはイラク南部で夜の闇の中に姿を消した。
1年前のある夜、アマラ市の薄暗い通りから一人の女が現れ、Jasbさんに挨拶した。ほとんど間髪を入れずに黒いSUVが止まり、二人の男が彼を押し込み、車は猛スピードで走り去った。女は、待機させていた小型トラックに乗り込み、立ち去った。
21歳のJasbさんが最後に目撃されたのは、2019年10月8日午後6時22分に監視カメラが捉えた運命の瞬間だった。
その日以来、Jasbさんの父親は正義を捜し求めているが、一つの大きな障害に繰り返しぶつかってきた。それは、イランが支援する強力なシーア派民兵を前に、イラク政府がますます無力になっていることだ。AP通信が見た司法調査は、Jasbさんの拉致に、彼の故郷で最も強力な民兵グループが明らかに関係していることを示していた。
それでも、彼の父親Jasb Aboudさんは、その民兵のリーダーを裁判に掛けることを決意している。
彼はAP通信に対し、「怖いです。ですが、一番大切なものを失ってしまったので、失うものは何もありません」と話した。
Jasbさんが拉致されたのは、歴史的な抗議行動が10月1日に始まり、数万人の若者が腐敗と支配階級に抗議するために集まってから1週間が過ぎたときだった。変化への希望によって、Jasbさんを含む多くの人々は奮起し、民兵の影響力を非難した。
半公式のイラク人権高等弁務団によると、彼は、10月1日にその運動が始まってから行方不明になっている53人の抗議者の一人だという。
その全国的な抗議運動が始まったときにJasbさんは参加し、法的専門知識を使い、拘束されている人々を助けるための委員会を組織した。彼はまた、民兵を公然と批判した。
彼の故郷であるミサン県の中心地アマラでは、それは、Haidar Al-Gharawi氏という現地司令官が率いる、最も過激な親イラン民兵の一つ、Ansar Allah Al-Awfiaを意味していた。それは、2014年にダーイシュと戦うために作られた、国家主導の統括組織、人民動員隊の下部組織となった。
ここ数年、Al-Awfiaはイランとの国境沿いでの違法取引で悪名をはせつつ、ミサンにある県政府の要所と多くの企業を支配するようになった。
この件についてコメントを求めようとAP通信は人民動員隊に何度も電子メールを送信したが返信はなく、Al-Awfiaへの電話やメッセージにも応答がなかった。
アディル・アブドルマハディ前首相が抗議の圧力を受けて辞任し、政治的こう着状態が数カ月続いた。その後、民兵の力を抑えることは、ムスタファ・アル・カディミ首相が5月に就任したときの重要な約束だった。
しかし、アル・カディミ氏はすぐに自身の政権の限界に直面した。アブドルマハディ氏は民兵の力が増大するのを容認していたため、「私たちは国家を持っていないと言ってもいい」。一人の高官は、問題の取り扱いの難しさから匿名を条件にこう語った。
バグダッドのアル・カディミ氏の権力の座を狙ったロケット弾攻撃が頻発し、米国との緊張が高まり、イランが支援するカタイブ・ヒズボラへの襲撃が懸念された。カタイブ・ヒズボラはロケットを発射した疑いが持たれており、拘束された人々のほとんどを解放したのが裏目に出た。裁判所は証拠不十分とした。
活動家が標的にされ続けている。7月、著名なコメンテーターでイランを批評していたヒシャム・アル・ハシミ氏が射殺され、バグダッドは衝撃を受けた。バスラの主要な活動家二人は暗殺された。
AP通信が見た裁判所文書によれば、Jasbさんの失踪については、ミサンの捜査官らはすぐにAl-Awfiaの現地司令官Al-Gharawi氏とつながる証拠を見つけた。
拉致される数時間前、Jasbさんは、法的援助を求める女性からの電話を受け、その日の夜遅くに面会を求められた、と彼の父親は語った。彼が拉致されたのは、彼が彼女に会いに行ったときだった。
この事件の鍵となったのは、Jasbさんに電話を掛けた携帯電話の番号だった。
捜査官らは、それが当局に登録されていない違法に取得されたSIMのものであることが分かった。このような未登録のSIMを扱う闇市場が繁盛しており、利用者を追跡することはできない。
警察は、この不明のSIMに電話を掛けていた別の番号を特定した。その中にSadam Hamed氏という男性がいた。彼は捜査官に、その不明の番号については何も知らないと話したが、妻のFatima Saeed氏は、親戚に電話するために時々彼の電話を使ったと述べた。彼の証言によると、その親戚は、Al-Awfiaの司令官Al-Gharawi氏と結婚している。
裁判官はSaeed氏を尋問のために呼んだが、彼女は現れなかった。彼女もHamed氏も逃走していた。
そこで調査は中断した。9ヶ月もの長きにわたって、Jasbさんの父親は進展を待った。何も起こらなかった。
そこでAboudさんはバグダッドに行き、新しい弁護士Wala Al-Ameri氏に会った。
彼らは大胆な策略を試みることを決めた。Al-Gharawi氏に対する逮捕状をバグダッドの裁判所に請求することだが、希望的観測では、民兵のミサンでの影響力は及ばないだろう。「被告人は、ミサンで力を持つ民兵なので、証人、さらには法律にまで影響力を持っている可能性があります」とAl-Ameri氏は述べた。
しかし、彼らは再び行き詰まった。
バグダッドの裁判官は、Al-Gharawi氏に対して令状を出すには証拠が不十分であると判断した。彼はHamed氏の証言を退け、拉致を目撃した人の供述によってのみ訴訟が進展すると述べた。
「これは未知のものに対する訴訟です」とAboud氏は述べた。
9月にアル・カディミ首相はミサンを訪れ、ジャスブさんの父親から事情を聞いた。15分間の会合の間、Aboudさんは裁判所文書を並べ、事件の詳細を説明し、息子を連れて行ったと彼が思っている民兵の名前を挙げた。
アル・カディミ氏は、「胸に手を当て、私のところに送り届けると約束しました」とAboudさんは述べた。
首相はAboudさんの最後の希望かもしれない。彼の息子の拉致事件の目撃者はいるが、誰も口に出す勇気がない。
ある男性はAP通信に対し、その夜は店の近くにいて全てを見たと話した。彼は有力な地元の一族に属しているが、恐怖心から匿名を条件に話した。
女性が現れ、男たちがJasbさんを車に押し込むのを見た、と彼は詳述した。彼は、その後警察が到着してJasbさんの車を捜索するのも見た。AP通信は、彼が店名を挙げた店から現場が見えることを確認した。だが、彼は証言するだろうか。「その次の日は私の葬式になるでしょう」
AP